2.5世代GSMベースバンド・チップ「E-GOLD+V3」

篠崎泰宏:インフィニオンテクノロジーズジャパン(株)
ワイヤレスプロダクツ部マネージャー

  はじめに
 欧米・アジア150カ国以上で採用されているGSM方式の携帯電話向けの半導体メーカーとして、インフィニオンテクノロジーズ社は汎用ベースバンドIC、RF―IC、ディスクリート部品のリーディング・サプライヤーである(2000年実績。GSMベースバンド・チップだけですでに累計1億個以上の出荷実績)。
 インフィニオンテクノロジーズ社のチップセット設計思想は、高機能なプロセッサーコアを使いつつ、アナログベースバンド、GSMペリフェラル、オンチップメモリーをインテグレーションしたシングルチップ・ベースバンドを供給することである。この思想はGSM、GPRS、EDGE、W―CDMA(UMTS)といったすべての自社設計ベースバンドチップセットに共通しており、競争力のある端末設計を実現する。
 2002年にGSM市場で本格的な立ち上がりが期待されているGSMPhase―+と言われる2.5世代GPRS方式向けには、すでに2000年2Qからベースバンドチップである「E―GOLD+V1」を量産出荷を開始しており、現在3世代目のシングルチップソリューションである「E―GOLD+V3」をリリースしている。(写真1)
複数の大手端末メーカーからのフィードバックを得ながらハードウエアの完成度を上げつつ、「E―GOLD+V3」では後述の通りユーザーが高機能端末を設計できるような性能改善を行った。「E―GOLD+V3」は、GPRS Multi Slot Class12(4Rx、4Tx)およびHSCSD Class10(4Rx、2Tx)に対応する。

写真1
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GSMベースバンドIC「E-GOLD+V3」


  ◆ベースバンドIC「E―GOLD+V3」の概要
 「E―GOLD+V3」は0.18μm―CMOSテクノロジーを使用したシングルチップソリューションである。CPUコア(C166S)とDSPコア(OAK+ )を中心に、GPRS CipherユニットやアクセラレーターなどのGSMブロック、TDMAタイマー、2Mビットのオンチップメモリー、4つのスピーチ・コーデック(FR/EFR/HR/ARM)、すべてのベースバンドアナログ回路を含む。
インターフェイスは高速SIMインターフェイス(2個)をはじめ、I2 C、I2 S、IrDA、DAI、USARTなどを持つ。また、外付けアプリケーション・プロセッサーとの接続に有効な高速インターフェイスとして、SPIコンパチブルのSSCインターフェイス(最大13Mbps)も内蔵する。
マルチメディア・アプリケーションを実行する際に問題となるバス・ボトルネックを解消するために、高速バスを採用したり、外部フラッシュメモリーとのインターフェイスにページモードをサポートする。MP3を携帯電話で再生する際に有効なHiFiオーディオ出力、メモリーカード「MultiMediaCard」へのインターフェイスも用意している。
その他Bluetooth/GPSへのインターフェイスも持つ(Bluetooth/GPSともに自社でチップセット、ソフトウエア供給可能)。
パッケージは13mm×13mmの208P BGAに封止する。コア電圧1.8V、アナログ部2.5Vで動作する。I/Oインターフェイスは1.8Vおよび2.5V―3.3Vを使用する。



 ◆内蔵MCUコア「C166S」
 MCUである「C166S」は、RISCとCISCの長所を兼ね備えた16ビットの高機能コントローラー・コアである。GSM/GPRSソフトウエアのすべてのコントロールはC166が行う。プロトコルスタックもC166S上に搭載される。Javaをはじめとするマルチメディア機能に対応するため、最大52Mヘルツで動作させる。待受け時およびスリープモード時は、クロックを下げることで、消費電力をおさえる。
 また、「ECOブロック」と呼ばれるパワーセーブ回路を内蔵し、さらにインフィニオン「E―POWER」シリーズを外付けすることで、消費電力を激減させることが可能である。
「C166S」コアは、5ステージのパイプライン、16ビットのALUユニット、乗算・除算ユニット、SFR、バレルシフターで構成されている。このアーキテクチャーは、オンチップメモリーとペリフェラルコントローラーとともに使うことで、最大限の効率化を実現する。また、命令処理スループットやインタラプト処理高速化を実現するための設計最適化がされている。
 さらにCPU負荷を軽減するためのパワフルかつインテリジェントなペリフェラル・サブシステムとして、PEC(PeripheralEventController)を内蔵している(図)
図
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「E-GOLD+V3」を使用したGSM携帯電話の構成概念


  ◆内蔵DSPコア「OAKプラスDSP」
 「OAK+DSP」は携帯電話向けチップセットなどの組込み用途に幅広く使用されている、16ビットの高機能固定小数点DSPであり、低消費電力設計に適した汎用DSPコアである。
「OAK+DSP」コアを構成するブロックは、高機能なビット処理能力を持つ中央演算ユニット、RAM/ROMアドレシング・ユニット、プログラム・コントロール・ロジックである。演算ユニットは、16×16ビット(32ビット対応)の乗算ユニット、32ビットのALUを2個、36ビットのバレルシフターなどを持つ。
インフィニオンでは、10年以上端末メーカーと密接に携帯電話チップセットを設計してきた経験から、ハードウエアとソフトウエアを理想的な機能分担で設計するノウハウを持つ。「E―GOLD+V3」では、OAK+DSPで畳み込み符号化・復号化、スピーチ・コーデック、チャネル・コーデック、ボコーダー、レベル測定、ボイス・メモなどの機能を処理させている。
ファームウエアはROM化されるが、さまざまな環境下でのフレキシビリティーを持たせるため、パッチRAMも用意している。


 ◆システムソリューション
 ベースバンド・チップの高集積SoC化が進んだ現在、携帯電話端末設計で最も重要なのは、高機能な端末を、低コストかつTime―to―Marketで設計することである。インフィニオンは100%子会社であるシステムハウス、およびソフトウエアハウスを使い、最新のチップを使ったリファレンス・デザインを常に設計している。
 既にFTAを取得している「PLATFORM2001」(写真2)は、シングルチップ・ベースバンド「E―GOLD+」シリーズ、部品点数を大幅に減らすダイレクト・コンバージョン方式シングルチップRF―IC「SMARTi+」、パワーマネジメントIC「E―POWER」を使ったレファレンス・プラットフォームとして、ユーザーに提供している。最新のプラットフォームである「PLATFORM2002DC」では、さらに機能を追加しながら、部品点数を150点以下におさえるという低コスト設計を実現している。
無線品質が安定したリファレンス・プラットフォームをベースに、850Mヘルツ帯を含めた4バンド対応や、カメラ内蔵などのカスタマイズを提案している。このプラットフォームを使うことで、契約から市場投入まで約10カ月で対応した実績がある。
写真2
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GSM携帯電話レファレンスデザイン「PLATFORM2001」





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