Ni電極大容量積層セラミックコンデンサー

金井秀幸:太陽誘電(株)ML技術部2G

  ◆はじめに
 近年の情報処理機器の小型化、携帯化に伴い、機器に内蔵される電源にも小型化が求められている。また、ゲーム機やパソコンなどのデジタル機器では、回路の高速化に伴って低電圧・大電流LSIの採用が進んでいる。その中でCPU起動時の高速負荷変動などに対応するため、小型・大容量、低消費電力を実現したコンデンサーのニーズが拡大している。
従来、パソコンなどのスイッチング電源の平滑用コンデンサーとして、タンタルコンデンサー、アルミ電解コンデンサーなど(以下、タンタル、アルミ電解)が用いられてきた。しかし、電源の小型化、高速化、高周波化が進んだ結果、平滑用コンデンサーとして、高周波領域で低ESRが得られる積層セラミックコンデンサー(以下、積層コンデンサー)の容量拡大が求められている。
 太陽誘電では、資源が豊富で安定入手が可能な卑金属のNiを電極材料に使用する技術を確立し、Ni電極大容量積層コンデンサーを市場に供給してきた。今回、電源平滑用コンデンサーに求められる特性を備えた、4532形状でB特性100μF品のNi電極大容量積層コンデンサー(JMK432BJ107MU)の開発を行った。
 以下に、積層コンデンサーJMK432BJ107MUの特性とその特徴、さらには、スイッチング電源の平滑用コンデンサーとして要求される仕様に対しての特徴を示す。



  ◆Ni電極大容量積層コンデンサーの特徴
 ◇材料と構造
 図1にNi電極大容量コンデンサーの構造図を示す。誘電体材料であるBaTiO 3  (チタン酸バリウム)をNi電極で挟み込み、誘電体厚みや積層数などを調整することにより所定の容量値を得ている。JMK432BJ107MUでは、材料技術・均一高分散技術・薄膜多層積層技術・卑金属(Ni)電極技術などの高度化により、誘電体厚み約2.2μmで800層を超える積層数を実現している。その結果、JMK550BJ107MM(L寸法:5.7×W寸法:5.0mm)からJMK432BJ107MU(L寸法:4.5×W寸法:3.2mm)へのダウンサイジングによって、約50%の実装面積削減を可能とした。
 さらに当社では外部メッキ電極をPbフリーとし、誘電体材料にも鉛系リラクサを使用していないため、地球環境にやさしい商品となっていることも大きな特徴といえる。
 ◇電気的特性
・等価直列抵抗(ESR)が小さい
 スイッチング電源の出力側に使用される平滑用コンデンサーは、電源ON時の電圧変動を抑制するために、容量が大きく、抵抗成分(ESR)の小さいコンデンサーが要求されている。さらに近年のスイッチング電源の高速化に伴い、使用されるコンデンサーに対して、より小さなESRが要求されるようになってきている。
 コンデンサーのESRは、内部電極と外部電極(端子電極)の接触抵抗に大きく依存している。積層コンデンサーは、内部電極と外部電極が金属接触していることから、非常に小さなESRを実現できる(図2参照)。
 一方、タンタルやアルミ電解では電解質などを片側電極として用いてるため、構造上、接触抵抗が大きくなりESRが大きくなってしまう。
・安定な容量特性
 積層コンデンサーを使用する場合、容量のバイアス特性と温度特性を考慮しなければならない。これは、材料の強誘電性に起因している。電束密度―電界強度曲線が強誘電体ではヒステリシスカーブとなる。つまり、誘電体の分極が一定ではなく、印加されている電界強度により充電特性が変化する特性を示す。これは、誘電率が大きくなるほど顕著に現れる。
 B特性は、誘電率を低く抑えることにより、容量の電界、圧力、温度に対する変化率が小さく設計されている。図3にJMK432BJ107MUのバイアス特性を示す。B特性積層コンデンサーは、バイアス電圧に対する容量変化が小さい。同様に、温度に対する容量の変化も小さいため、実効容量として用いることができる(図4参照)。
・コンデンサーの寿命(リップル電流に対する発熱)
 コンデンサーの電流に対する発熱の特性を表す指標として、リップル電流特性がある。コンデンサーに交流電圧が印加された際、コンデンサーには充放電電流が流れる。リップル電流とは、この交流電流成分のことを表す。図5にリップル電流に対する、コンデンサーの表面温度上昇曲線を示す。コンデンサーにおける発熱は、R成分であるESRの2乗に電流値を掛けたジュール熱により生じている。電源部で使用される際、コンデンサーには常時電流が流れるために発熱し、表面温度が上昇する。コンデンサーは温度が上昇すると、指数関数的に寿命が低下する特性を持っている(アレニウスの寿命式と呼ばれる)。
 アレニウスの寿命式は式(1―1)で表される。
L=Lo×2To―T η  (1―1) この時、最高使用温度におけるコンデンサーの寿命をLo、温度Tで使用した時の寿命をL、コンデンサーの最高使用温度をTo、とする。この時のηを温度係数と呼び、積層コンデンサーの場合、10程度に設定している。この式は、積層コンデンサーの温度が10度C上昇するごとにコンデンサーの寿命が半分になることを表している。
 このため、電源を設計する際、コンデンサーの温度上昇を考慮してコンデンサーを選択する必要が生じる。積層コンデンサーはESRが小さいために電流による発熱が小さく抑えられる。これに対し、例えばタンタルコンデンサーはESRが積層コンデンサーと比較して10―100倍近くあるために(図2参照)、電流に対する温度上昇もが大きい。
 電源回路設計の際、コンデンサーの発熱をある一定温度範囲内にするようESRの小さいコンデンサーを選択する必要がある。
 積層コンデンサーは許容リップル電流値が高いので、タンタル、アルミ電解に比べて数倍の電流を流すことができる。言い換えれば、タンタル、アルミ電解コンデンサーを使用する際には、必要容量ではなく、許容リップル電流値によりコンデンサーの選択が限定されてしまいがちである。
 積層コンデンサーを使用すれば、回路上必要な容量からコンデンサーを選択することができ、スイッチング周波数帯を高くすることにより電流出力を上げ、なおかつ高寿命を維持することが可能である。さらに、積層コンデンサーを使用することにより、コンデンサーの小型化が可能になり、モジュールなどの小型、低背化を実現することができる。
 その他、無極性、絶縁抵抗・絶縁破壊電圧が高いこと、Niを使用しているためマイグレーションが起きにくく信頼性が高いことなども大きな特徴である。

  図1
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  図2
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  図3
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Ni電極大容量積層セラミックコンデンサーの構造図
ESRの周波数特性
DCバイアス-容量特性
  図4
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  図5
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容量・温度特性
リップル電流に対する表面温度上昇


 ◆終わりに
 当社では、電子機器の軽薄短小に合わせ、今後も引き続き小型・大容量化を進めていく(表1参照)。
表1
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Ni電極大容量積層セラミックコンデンサー



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