ディスクリートCSPの最新技術動向

東克己:ローム(株)ディスクリート企画課

  
 携帯電話や携帯型情報端末(PDA)、そしてデジタルスチルカメラ・デジタルビデオカメラといった数々のモバイル製品は、近年飛躍的な発展を遂げてきた。なかでも中心となるのが携帯電話であり、モバイル機器だけでなく、セット機器の小型化、軽量化、そしてその技術をベースにした複合化、ユーザーフレンドリー化の進化発展を大きく促進してきた。
 そして、その激しい小型化・軽量化競争を支えてきた技術のひとつにディスクリート商品の技術がある。そして今、ディスクリート商品の新たな進化に向けたブレークスルーが模索され形を現してきた。



  ◆高密度実装化の流れ
 ロームが開発したチップ抵抗器に端を発した、基板の表面実装化に対するチップ部品開発の流れは、多層基板の導入と相まって爆発的に導入されてきた。
 ディスクリート半導体においては、SMT3(SC-59)の開発で、一気に本格的な表面実装化の黎明期を迎える。このときに導入された構造が、ガルウィングタイプのパッケージである(図1参照)。
 以来、このガルウィングタイプパッケージが、ディスクリート半導体技術の中心となり、
 1.パッケージ自体の小型化
 2.複合化による投影面積の縮小
 3.熱伝導性の向上によるパワーパッケージの小型化
 を推進し、このタイプのパッケージでは、2001年に1208サイズのトランジスター(VMT3)が登場するなど、現在でも大きな進化をし続けている。
 また、1mmに限りなく近い極小のトランジスター(VMT3)パッケージでは、サイズとパワーから、500mA以下の小信号トランジスターまでのラインアップとなっている。
 また、21世紀に入り、さらなる進化の方向を探るために、登場してきているのが“ディスクリートCSP”パッケージである。
 このCSPは、1mm近傍のパッケージ技術に対しての課題に新たな発想で、果敢にチャレンジをしていく中で生み出されてきた。新しい“新パッケージのブレークスルー”といえる。そして、そのパッケージ形状は、さまざまなものが開発されている。主なものでは、BGAタイプ、下面電極構造、フラットリード形状のCSPなどがある。しかし、それらは、用途が特定されている場合が多いため、目的以外の用途では、使いにくい場合がある。

図1
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ロームトランジスターのパッケージトレンド


 ◆使いやすいCSPを求めて
 ロームのCSPの開発にあたっては、ディスクリート半導体の進化を促すと同時に、汎用品としてのディスクリート半導体の性格上、使いやすくをコンセプトに開発が進めてきた。ここで、解決しようとした課題は
 1.1mm近傍のパッケージでもミドルパワーの搭載
 2.実装後の目視確認
 3.リワークが可能
 4.極小のパッケージでも強度(落下、曲げ)の確保がある。この点をブレークスルーしたのが、今回開発したディスクリートCSP“VMN”シリーズである。


 ◆ディスクリートCSP“VMNシリーズ”の特徴
 上記の課題解決を目的に開発したのが、ロームのディスクリートCSP“VMNシリーズ”である。このシリーズの最大の特徴は、部品単体での小型化を追求するだけでなく、パッケージサイズは従来と同等でも、パワーチップの搭載を可能とすることにより、大きなダウンサイジングを図ることができたという点である。
 具体的には、1208サイズの小型パッケージであるにもかかわらず12V/1.5Aクラスというミドルパワーの製品まで搭載を可能としたことである(図2参照)。
 また、下面電極プラスフラットリード構造を採用することにより、基板との接地面積を十分確保できる。さらに下面電極構造だけでは、実装後の「ハンダ付け性」確認および製品のリワークが困難であったが、新構造では、自動認識装置での「ハンダ付け性」が確認できるので安心して使用でき、万が一のリワーク作業も可能となった(図3参照)。
 さらに、小型であるが故に心配される「強度」という点についても構造の工夫により、従来使用されているCSPと比較して、「繰り返し曲げ強度試験」で2倍、「衝撃試験」に至っては4倍の強度を確保することに成功し、マウントでの信頼性の向上に至った。実際の使いやすさにも配慮した設計となったVMNの特徴をまとめると
 1.ミドルパワーチップを搭載可能。
 同チップ搭載のガルウィングタイプと比較し75%の小型化(図2参照)。
 2.ハンダ付け性が、自動認識装置で確認できる。
 3.製品のリワークが可能である。
 4.繰り返し曲げ強度2倍(従来比)
 5.落下衝撃試験4倍(従来比)などが挙げられる。
  写真
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  図2
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  図3
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ディスクリートCSP「VMNシリーズ」
高密度実装パッケージの比較
ハンダ高密度実装パッケージの比較


 ◆あらゆるトランジスター、ダイオードのCSP化が可能に
 今回開発したVMNは、ミドルパワーチップまで搭載可能とし、信頼性、使いやすさともガルウィングタイプと同等性能を確保している。
 このことにより、トランジスター、ダイオード、UMT3形状(SC-70)までの製品はすべて“VMNシリーズ”での展開が可能であり、豊富なラインアップを持つことにより、顧客の選択肢の拡大を図ることができる(表1参照)。
表1
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VMN4/6シリーズのラインアップと外形寸法図


 ◆今後の展開
 今後、セットの高機能・高性能・高付加価値化が進んでいくであろう。その実現のために、ますます高まる表面実装部品の小型化、薄型化の要求に応えていくのが困難になる。
 今まで小型化の要求は、小信号トランジスター・ダイオードが中心で、サイズの小型化を進めて行けば良かった。
 しかし、今後はパワー系製品までも小型化の対象になっていくものと予想される。
 こういった要求に対しては、製品自体のパッケージパワーを上げることが必要不可欠になっていくだろう。
 パッケージパワーを上げることができれば、従来と同じ大きさであっても、よりハイパワーな製品が搭載できることになる。
 逆に考えれば、今までより1サイズ、もしくは2サイズ小型のパッケージに置き換えができるということであり、ダウンサイジングが可能となる。
 ロームではさらなる技術革新を遂行し、あらゆる意味で信頼性の高い製品を提供していくことで、ユーザーニーズに応えていこうと考えている。



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