超小型高周波デバイスの技術

水野雅之:松下電子部品(株)高周波部品BU技術グループ
  

◆はじめに
近年、移動体通信機器の小型化、高機能化が急速に進展しているのは周知のとおりである。その原動力となっているのは、LSIを中心とした各種半導体の小型化/高集積化と、高周波デバイスやLCRなどの受動部品の小型化技術である。しかし昨今の携帯電話市場は、今までのような「作れば売れる」時代ではなくなり、高付加価値な商品を、タイムリーに、しかも安価で、お客様に提供できることがキーポイントとなる。高周波デバイスも同様に、単なる小型化だけでなく、低コスト、高機能へのアプローチが求められている。

松下電子部品は、このような市場ニーズに応えるべく、凹版転写印刷技術と厚膜スクリーン印刷技術を用いた小型・高性能なデバイスを開発し、市場に送り出してきた。しかしながら昨今の市場ニーズの変化に伴い、さらなる小型化、低価格化、そして高機能化が求められてきている。

この市場ニーズを実現するために、当社は多層凹版転写印刷技術とコア付き無収縮基板技術を組み合わせた新技術開発を行い、これを具現化した新製品を実用化した。今回はその一端を紹介する。


  ◆プロセス技術
1.多層凹版転写印刷技術
セラミック基板上にコイルパターン形成を行う厚膜印刷は、一般的にスクリーン印刷が用いられる。スクリーン印刷は量産性に優れているため、チップ部品など多くの電子部品の製造に使われている。しかしながら、微細パターンの形成や、導体厚み、パターンエッジの非シャープ性が課題で、高性能・小型化に限界があった。この課題に対して、いくつかのアプローチにより技術開発が進められている。

当社においては、1995年から凹版転写印刷技術により、Line/Space=20/20μm、t=15μmの高精度、HighマイナスQなファインパターンを実現し、高性能で小型なデバイスを商品化してきた。

さらに、近年の一層の小型・高性能化の要求に応えるべく、この凹版転写印刷技術によるパターン形成を多層化することで、さらなる小型化・高性能化を図った。図1に本プロセスの断面構造を示す。このように、従来1層で行っていたパターン形成を多層化することで、より大きなコイルを形成することが可能となり、従来不可能であった1608サイズで900Mヘルツ帯のバランを世界で初めて実現した。

2.コア付き無収縮基板技術
セラミック基板上にコンデンサーを形成する場合、通常スクリーン印刷が用いられる。しかしながら、電極のにじみ、絶縁層の膜厚ばらつきが課題で、高精度・高性能化には限界があった。この課題に対して、一般的には電極のにじみが少なく、膜厚ばらつきの小さいグリーンシート積層が有利で、多くのメーカーがこの技術を用い製品化している。しかしながら、グリーンシート積層は、焼成する際3次元的に収縮するため、寸法の予測に課題がある。

当社では、この課題に対し、焼成済みの基板(コア)にグリーンシートを張り合わせることで、XY方向の収縮を抑制した画期的な無収縮基板を開発した。図2にその断面構造を示す。

このように、コア基板にグリーンシートを積層することで、焼成後に極めて寸法精度の高い基板を形成することが可能となった。

表1に一般的なグリーンシート積層、およびスクリーン印刷と、当社凹版転写印刷プラスコア付き無収縮基板の比較を示す。このように当社は、超小型のコイルおよびコンデンサーを高性能かつ高精度に形成する技術を実現している。

  図1
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   図2
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   表1
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多層凹版転写印刷断面図
コア付き無収縮基板断面図
プロセス比較


 ◆超小型高周波デバイス
1.BPF(BandPassFilter)
LCタイプ(積層タイプ)のBPFは、携帯電話の高周波回路における送受信の段間に挿入されることが多く、キャリア近傍の不要成分を除去する目的で使用される。しかしながら共振器のQ値があまり高くないため、性能面ではSAWや同軸共振器に一歩譲るが、形状、価格面でメリットがあることから数多く採用されている。特に最近では携帯電話以外の用途として、Bluetooth/WマイナスLANなどのデータ通信モジュールにも採用されている。

図3にBluetooth用のBPFの特性および外形図を示す。この製品には前述の凹版転写印刷プラスコア付き無収縮基板技術を用い、2.0×1.25×0.95mmと超小型形状を実現した。

2.バラン(Balun)
バランとは平衡―不平衡インピーダンス変換素子であり、不平衡の回路ブロックと平衡の回路ブロックを接続する際のマッチング素子として用いられるものである。方式としてはメガネ型、トランス型などがある。また、高周波回路ではフェライトなどのコアは用いず、伝送線路の結合や共振をうまく組み合わせることで、所望の性能を得ることが出来る。

図4に900Mヘルツ帯バランの特性および外形図を示す。この製品では凹版転写印刷技術によるファインなコイルパターンを多層構造とすることによって、1608サイズの中に大容量のインダクタンスを形成することが可能となり、900Mヘルツ帯としては世界最小形状の1.6×0.8×0.6mmを実現した。

3.カプラ(方向性結合器:DirectionalCoupler)
カプラは、送信電力をコントロールするための電力検出素子として用いられる。

構成としては2本の線路間の結合を用いたものが最も多く、線路長、線路間の寸法により所望の特性を得ることができる、高周波デバイスの中では最もシンプルな構成のデバイスである。結合度としては10―20dBのものが最も多く、ローカル信号の分配用として用いるタイプでは3dBの結合度のものがある。また現在ラインアップしているシリーズの中には、GSM/DCSなどの、2つの周波数帯のカプラを1パッケージに集積したデュアルバンドカプラシリーズもある。
図5にGSM/DCS帯用のデュアルバンドカプラの特性および外形図を示す。

4.フィルター内蔵カプラ(CouplerwithFilter)
フィルター内蔵カプラは名前の通り、前述のカプラにLPFを内蔵した製品である。カプラ同様送信電力をコントロールするための電力検出素子として用い、同時にパワーアンプなどの歪みによって生じる高調波成分を除去する目的で用いられる。構成としては3段のLPFの一部を共振回路として変形することで、特定の周波数帯において大きな減衰特性を得ると同時に、回路のインダクタの一部を、カプラとして利用することで、小型の複合デバイスが実現できる。

図6に特性および外形図を示す。これはDCS帯の例であるが、結合度20dBのカプラ機能と、同時にDCS帯の2倍波、3倍波の高調波を減衰させる機能を持つデバイスを2012の小型サイズに実現している。

5.ダイプレクサ(Diplexer)
ダイプレクサは、3ポートのフィルター素子で、デュアルバンド機における2つの周波数帯の分離に用いられる。また最近ではデュアルモードVCOなどの出力の分配用としての用途も多く見かける。構成としてはLPFとHPFを組み合わせた形が一般的であり、送受の周波数帯を分離するデュプレクサ(Duplexer)とは異なる。

また、最近ではBluetooth/WマイナスLANなどを内蔵した携帯電話も増え始めており、これに対応した製品も現在開発中である。

図7にGSM/DCS用の製品の特性、および外形図を示す。この製品には前述のフィルム凹版転写印刷プラスコア付き無収縮基板技術を用いて、小型かつ高性能を実現している。

以上のように、当社は小型・高性能なデバイス開発を行い、お客様のニーズに応える商品開発に今後もより一層取り組んでいく予定である。
  図3
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   図4
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   図5
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BPF for Bluetooth
1608 Balun for 900MHz
Dual Band Coupler
  図6
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  図7
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Coupler with Filter
Diplexer





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