マイクロプロテクター・デバイス(MPD)の技術

瀧川眞喜人:アルプス電気(株)コンポーネント事業部開発部



◆安全保護部品の動向について
 各種機器を過熱や火災から守りユーザーが製品を安心して使用できるようにするため、ユーザーの目につかないところでいろいろな安全保護部品が各種機器に組み込まれている。広くは昔から各家庭に設置されている電灯線のヒューズやブレーカー、事務所の火災報知器なども安全保護の機器である。また、家庭のテレビにはガラス管に入った電流ヒューズが、ドライヤーでは吹き出し口付近に温度ヒューズが組み込まれ、機器やユーザーの安全を守ってきた。
 最近では「電源を内蔵したポータブル電子機器」の飛躍的な普及の中で、これらの電子機器に使用される安全保護部品が着実に増加している。特に充電可能なバッテリー(以下「二次電池」と呼ぶ)を電源とする電子機器では安全保護部品は必須と言っても過言ではない。
 二次電池を電源とするポータブル電子機器の代表格である携帯電話では、カラー液晶の採用や高機能化により消費電力は増加傾向にある。このため、使用される二次電池は徐々に大容量化しており、異常時の対策がより重要となるため、安全部品の必要性はますます強くなっている。


◆二次電池の安全保護について
 二次電池は正常に使用されている限り何ら危険性はないが、誤った方法で使用された場合や、充電器の故障などの異常な状態下では発煙、発火の事故を起こす可能性がある。
 例えば二次電池の正負両極をネックレスなどの導体でショートしてしまう(「外部短絡」と言われる)と10Aから数十Aの電流が流れ、電池の温度が上昇し、ついには発煙、発火に至ることがある。あるいは二次電池自体は壊れなくとも、ショートした金属が発熱してやけどする可能性がある。このような事故を防ぐために携帯電話機の二次電池用の安全保護部品は10A程度以上の電流が流れた場合には、素早く保護動作になるような電流検出特性が必要である。
 ショート以外では充電器の故障や誤用による過充電の問題がある。これは二次電池が規定より高い電圧で充電されたときに起こる事故で、極端な大電流は流れないが、やはり電池の温度が上昇し発煙、発火の危険性がある。この場合には安全保護部品は二次電池の異常昇温を検知し、保護動作になるような温度検出特性が必要である。
 上記以外にもいろいろな異常状態が想定されるが、ほとんどの場合は「異常電流」と「異常昇温」を検出することによりユーザーの安全を守ることが可能である。


◆マイクロ・プロテクター・デバイス(MPD)について
 安全保護部品は二次電池を使用する電子機器に組み込まれているのではなく、二次電池そのものに組み込まれている場合が多い。今日市販されている携帯電話の多くは、小さなバッテリーパックの中に二次電池そのもの(セルと呼ばれる)の他に安全保護部品や電子回路が押し込まれている。
 アルプス電気では、小さな安全保護部品をマイクロ・プロテクター・デバイス(Micro―protector Devices:以下「MPD」と記載)と定義し開発を進めてきた。
 今回その第1弾として小型化する携帯電話のバッテリーパックに組み込めるMPD「STAAシリーズ」(写真)を開発したので以下にその概要を紹介する。
 当社のMPD「STAAシリーズ」はバイメタルを使用した温度ブレーカーで、温度変化により開閉するスイッチである。また、MPDを通して給電することにより、外部短絡などで大電流が流れたときに自己発熱でスイッチが切れる。すなわち「異常昇温」と「異常電流」の両方を検出する安全保護部品である。
 携帯電話機などの小型バッテリーパックの安全保護部品としては、当社MPDのようなブレーカーのほかに温度ヒューズ、電流ヒューズ、PTCなどがよく用いられる。
 このうちヒューズは安価で精度も良いが、一度動作すると復帰しないという欠点がある。
 次のPTCは導体(カーボン)を混ぜたレジンが温度上昇により膨張し、導通抵抗が上昇する(これをトリップと呼ぶ)ことを利用した保護素子で、通電による自己発熱による異常電流保護も可能である。構造が簡単で繰り返し動作可能であるが、導通抵抗がやや高めでかつ一度トリップした後は元の抵抗値まで戻らない、中程度の異常電流ではなかなかトリップしないなどの欠点もある。
 これに対しMPDのようなブレーカーは導通抵抗が小さく、しかも中程度の異常電流でも保護動作が可能である。加えて繰り返し保護動作し、この時に導通抵抗が上昇することもないという特徴を持っており、携帯電話用二次電池の安全保護部品として標準的に使用されていた。 しかし、従来のブレーカーは大きすぎ、バッテリーパックの小型化に伴い採用が困難になっていた。
 当社のMPDは図1のように本体サイズが6.2×3.8×1.2oと超小型で、携帯電話に最もよく使用されている厚さ4.6mmのリチウムイオンバッテリーの厚み内に収めることが可能である。
 加えて「直熱形」と呼ばれる構成を採用したことにより、PTCや「傍熱形」ブレーカーに比べて異常電流時の動作時間が短く、導通抵抗が10mΩと低いにも関わらず10Aの異常電流でも5秒以内に回路を遮断する感度を有している。導通抵抗を12mΩまで高めれば7Aの電流値で回路を遮断させることも可能である(図2)。


  写真
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  図1
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  図2
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マイクロプロテクター・デバイス「STAAシリーズ」
MPDの主な仕様
代表的なブレーカーの構造比較


◆技術的なポイント
 一般的にブレーカーは小さくなるほど均一な温度特性を得ることが困難になり、安定した量産が出来にくくなる。当社ではこの問題を解決すべく、以下のような取り組みを重ね、小型サイズでも安定した温度特性の製品を生産できる体制を作り上げた。
(1)シミュレーション技術の活用―温度ブレーカーはバイメタルが設定された温度で反転動作し、接点を開閉するが、この時の動作温度はバイメタルのドーム形状部の寸法により大きく変動する。当社ではドーム形状を決定する際に各種形状で寸法が変化した場合の温度特性の変化具合をシミュレーションで算出し、寸法変動による温度特性変動が小さいドーム形状を求め、温度特性の安定化を図った。
 また、シミュレーションはドーム形状の選定の他に製品動作時の温度分布変化の解析やバイメタル変形時の応力解析などにも使用した。これにより今回の本体サイズの中で必要な特性を実現できる限界設計が可能となった(図3)。
(2)高精度金型加工技術―当社は社内に金型専業部門を持ちキーパーツはミクロン単位での加工を行っている。今回の製品ではガラスレンズ成型用金型の加工技術を応用し、バイメタルのドーム部絞り型部品を高精度で加工した。
(3)高精度部品加工技術―加工設備も専用に整備した。まずプレス加工機は当社で設計した高剛性のプレス機を使用し、下死点精度を極限まで高くした。さらにプレス金型に温度調整機構を設け、加工時の原材料温度を制御するなどの温度管理を徹底し、特性の安定化を図っている。
(4)高精度温度計測技術―ブレーカーは1個ずつ温度特性を検査した上で出荷される。したがって製品の温度特性を安定化させる改善と同時に、温度特性を精度良く計測する技術が重要である。このため今回の開発では温度測定機専業メーカーとの共同開発により、均熱ブロックを使用した独自の温度特性検査装置を製作した。この均熱ブロック方式は共同開発メーカー温度センサーの校正システムなどに採用している方式で、動作温度特性を短時間に精度良く検査することが可能となった。
(5)自動機技術―当社は長年にわたり多くのコンポーネント部品を自動機で生産し続けており、今回の製造設備にはこれまでのノウハウが生かされている。例えば製造設備中には一般的な自動組立機能のほか像処理装置による溶接状態の管理機能、電気特性の測定機能なども組み込まれており、安定した品質を維持できるような構成となっている。
図3
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温度分布解析結果例―通電後0.06秒でのMPD内の温度分布(1/2モデル)


◆今後の展開
 携帯電話をはじめとするポータブル電子機器は今後とも継続的な伸びが期待され、さらに多様化するものと考えられる。当社では多様化するポータブル電子機器に広く適用されることをを目指し、温度特性バラエティーの整備や種々の取り付け方法への対応を進めていきたい。




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