省実装サイズパワーチョークコイルの技術

今西恒次:松下電子部品(株)LCRデバイスカンパニーコイルSBU開発チーム

◆はじめに
 近年、ますます高速・大容量化するCPUやGPU(グラフィックプロセッサー)を駆動するVRM電源は、求められる高周波・大電流化に対応するために1つの出力を、複数個のDC/DCコンバーターを搭載して供給する同期整流マルチフェーズ型DC/DCコンバーターが主流となってきた。
 マルチフェーズ型は複数個の相(フェーズ)で出力電流を分割し、各相ごとの負荷を軽減しつつ、スイッチング動作時間をシフトして見かけ上、1つの出力の高周波化(周波数向上によるリップル電流低減)と大電流化を一度に達成するもので、用途やセットにより異なるものの、一般に各相ごとには150kHz〜1MHz、出力は1〜3.3V、10〜20A程度が用いられ、これらを2〜6相で動作させている。このためパワーチョークコイルは従来12〜13mm角サイズが一般的であったものに対し、複数個使用するマルチフェーズ型ではよりいっそうの小型、省実装サイズが求められている。
 松下電子部品では、このマルチフェーズ型ニーズに対応すべく10mm角の省実装サイズで、用途・ニーズに応じて「PCC―MCシリーズ」と「PCC―NSシリーズ」を製品化しているので、これらを例にとって最近のパワーチョークコイル技術を紹介する。



◆PCC―MCシリーズ
 CPUやGPUを用いVRM電源にマルチフェーズ型を採用し、かつ1フェーズごとに高周波・大電流が要求される機器としてサーバー、ルーター(スイッチャー交換機などインターネットワーキング機器を含む)、デスクトップパソコンなどがある。
 特にサーバー、ルーターはパソコンの普及とインターネットなど通信事業の拡大により、企業や通信プロバイダーを中心に増加しており、最近のトレンドは双方ともに超薄型・小型化設計で、サーバーは「ブレード・サーバー」呼ばれて所定サイズのラックに何個のプロセッサーが収納できるかを、またルーターは同サイズにおける高速伝送性と回線容量を競っており、このマルチフェーズ型VRM電源に用いるパワーチョークコイルにも、省実装サイズに加え、より薄型で高周波、大電流化が要求されている。
 また、デスクトップパソコンは現在収納スペースに比較的ゆとりがあり、パワーチョークコイルに対し省実装サイズや薄型化要求は少なく、ピン取り付けタイプで低価格志向のトロイダルコイルタイプが主流であるが、しかしすでにCPUの大容量化に伴いマルチフェーズ型VRM電源化が進んでおり、今後はパワーチョークコイルのニーズも省実装化に加え、さらなるCPUの高速化によりSMD化と薄型化方向が予測される。
 「PCC―MCシリーズ」(写真1)はこれらサーバー、ルーター、デスクトップパソコンなどのマルチフェーズ型電源を搭載した機器に適したパワーチョークコイルで、省実装10mm角サイズで高さ4mmの薄型化を達成し、設定インダクタンス値は適用動作周波数500kHz〜1MHzを考慮し0.19μH〜0.56μHとし、定格電流15〜21Aの大電流化を図っている。また定格電流×1.4倍のピーク電流時のインダクタンス低下率5%の耐ピーク電流特性を有し、さらに1MHz時に実力値で80の高Q特性を確保している。表1に基本仕様を示す。
 「PCC―MCシリーズ」は従来のパワーチョークコイルを構成する材料・工法を一から見直し革新した次世代の商品で、新開発した弊社独自の金属系磁性材料である「メタルコンポジット磁性材料」と「平角新構造コイル」との一体化新工法を採用することで高性能化を実現している。
 最近のパワーチョークコイルは大電流化に対応すべく、ダストコアに代表される高飽和磁束密度を有する金属系磁心を採用する例が多いが、「メタルコンポジット磁性材料」は、この金属系の特徴を生かしながら金属粒とコア成形工法を、図1に示すように1MHzで従来ダストコアの2.5倍の高Q特性が得られるよう高周波対応設計をしている。
 また、従来のダストコアと異なり、金属系コアでありながら適度な絶縁抵抗を有しており、実装において底面下部および周辺パターン配線設計への負担が軽減できる。
 さらにボビンなどの絶縁物が不要であることから、従来のパワーチョークコイルにおけるコイルとコア間の絶縁スペースを磁気回路として有効に活用できるので、これにより、ダストコアなどの金属系磁性材料の特徴である良好なDC重畳特性はさらなる向上が図れている。当然、金属系コアの特徴である小さなインダクタンス温度依存性はそのまま有するので、温度設計時における磁気飽和を考慮する必要はない。PCC―MCの構造を図2に、またインダクタンスのDC重畳特性を図3に示す。「平角新構造コイル」は内部コイル部と外部端子の接合レス構造を採用することで、低直流抵抗値と高信頼性を合わせて確保している。
 「PCC―MCシリーズ」M104Lタイプの形状・寸法を図4に示す。SMD端子表面積は大電流を考慮して10mm角の省実装サイズでありながら比較的広く確保しており、また端子は鉛フリーハンダ表面処理として環境への配慮を欠かしていない。

  写真1
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  表1
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  図1
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パワーチョークコイル「PCCM104L(MC)」
PCC-MC104L タイプ基本仕様
Q-周波数特性(メタルコンポジットVSダスト,Mnフェライト)
  図2
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  図3
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  図4
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PCC-MC構造図
インダクタンスDC重畳特性(PCC-MCメタルコンポジット)
「PCC-MCシリーズ」M104Lタイプ形状・寸法図


◆PCC―NSシリーズ
 PCC―NSシリーズはノートパソコン、ゲーム機などのVRM電源やI/O系、その他幅広い用途に製品化したものである。現在ノートパソコンは搭載CPUもデスクトップパソコンと同様に高速・大容量化の一途をたどっており、大容量化対応のため2〜3フェーズを中心にマルチフェーズ型を採用するものの、モバイル機器であるため、バッテリー寿命を考慮する必要があり、搭載するVRM電源としては総合効率の確保が重要であることから、駆動周波数は各相当たり150kHz〜500kHzに止どまる。また、ゲーム機もCPUは大容量化しているものの、VRM電源はノートパソコンの約2/1程度の容量で駆動周波数も300kHz付近であり、パワーチョークコイルはノートパソコン用を1個(1フェーズ分)で適用することができる。〈26ページにつづく〉  これらを考慮し「PCC―NSシリーズ」(写真2)は、薄厚フェライトコアの採用とコイル絶縁構造のシンプル化を組み合わせることで省実装10mm角サイズを達成、高さはCPUの放熱を含めたセット構造からくる制限から決定されることが多く、一般的に求められることが多い6mmと7mmの設定としている。インダクタンス値は設定周波数150kHz〜500kHzより0.36μH〜6.3μHとし、出力電流は6.3A〜19.6Aのワイドレンジ対応としている。  表2にF106Hタイプ(6mmH)、表3にF107Hタイプ(7mmH)の基本仕様を示す。また、省実装化のために底面下部は絶縁機能を有している。「PCC―NSシリーズ」2タイプの形状・寸法を図5に示す。

  写真2
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  表2
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  表3
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  図5
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パワーチョークコイル「PCCF107(NS)」
PCC-NS F106Hタイプ基本仕様
PCC-NS F106Hタイプ基本仕様
「PCC-NS シリーズ」F107H・F106Hタイプ形状・寸法図

◆むすび
 従来の高周波低損失パワーチョークコイルに対し、今回はマルチフェーズ型トレンドに対応していくために、10mm角の省実装サイズの2シリーズを紹介した。
 インダクターメーカーとして、少しでもセット設計に貢献できれば幸いである。
 今後、CPUやGPU駆動VRM電源は高速応答性機能を伴いますます大電流化、マルチフェーズ化していくものと思われ、今後とも市場ニーズに対応したさらなる省実装、小型化商品の開発を進めていく所存である。






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