スイッチング電源の技術動向

SMK(株)、太陽誘電(株)、TDK(株)、松下電子部品(株) (五十音順)

 情報通信機器を中心とする電子機器に多く使用されているスイッチング(SW)電源は、小型、高効率、低コスト化は当然として、技術的には低ノイズ化、高調波電流規制対応、ピーク負荷対応、マルチ出力品などが求められてきている。また、DC―DCコンバーターは、オンボードで使用されるため、機器の小型化に伴って、より小型で高効率の製品が求められている。

写真(TDK)
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基板型標準電源(TDK)


◆SW電源の回路方式
 スイッチング電源は、商用電源を直流にし、これをスイッチング回路により高い周波数の交流にして必要な電圧に変換した後、直流に戻して機器に電気を供給する。従来の低周波トランス方式に比べ、小型・薄型・軽量で効率が良いため情報通信機器やFA関連機器に広く普及している。
 このスイッチング電源は、核となるDC―DCコンバーター回路によりリンギングチョーク方式、フライバック方式、フォワード方式といったものがある。リンギングチョーク方式やフライバック方式は小容量、低価格製品、フォワード式は中・大容量向け製品に使用されている。
 これに加えて最近は小型、高効率で低ノイズ化が可能な共振コンバーター方式が使われるようになっている。この方式では、電流共振、電圧共振、部分共振(ソフトスイッチング)(図1)などが使用されている。
 共振コンバーター方式は、これまでの方式に比べてコスト高になるが、専用ICの開発などにより、コストが下がってきている。最近は、制御ICを1次側に配置して直接スイッチング素子を制御するのが一般的となっており、2次側に同期整流回路を採用した製品も登場している。
図1
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部分共振回路例


◆DC―DCコンバーター
 オンボード電源として使用されるDC―DCコンバーターは機器の小型・薄型傾向から小型、薄型、軽量化が求められている。最近の小型品はハイブリッドIC技術など高密度実装技術を応用したモジュール製品が増えている。液晶ディスプレイ用DC―DCコンバーターや液晶バックライト用インバーターではこの傾向が顕著である。
 最近は携帯電話の基地局など通信装置に使用される規格品のDC―DCコンバーターモジュールが注目されている。
 DC―DCコンバーターは、絶縁型と非絶縁型がある。絶縁型はノイズ対策が容易で、プラス、マイナス出力のどちらでも使用ができるが、絶縁部品を使用するためコストがアップする。非絶縁型は変換効率に優れ、コストも安い。
 小電力DC―DCコンバーターでは、表面実装に対応したDC―DCコンバーターも製品化されている。これはハイブリッドIC技術を使い、実装時の耐熱性と熱履歴に対する信頼性を考慮した設計が施されている。回路は電流帰還型PWM制御方式を採用し、安定した動作と効率80%以上を得ている。
 超小型のDC―DCコンバーターも開発されている。これは、高周波対応フェライトコアと平滑用の大容量積層チップコンデンサーを採用し、従来品に比べて底面積を50%以上小型化している。
 小電力用では、IC化されたDC―DCコンバーターが多く使われている。電池を電源とするモバイル機器向けが中心だが、1μFのセラミックコンデンサー1個で安定に動作するものや、タンタルコンデンサーが不要ですべてセラミックコンデンサーで安定に動作するものなどが製品化されている。
写真(松下)
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DC-DCコンバーターモジュール(松下電子部品)


◆ピーク負荷電流と高調波電流規制
 パソコンなどコンピューター機器に搭載されるCPUはここ数年急速に高速化が進んでいる。このCPUの高速化により駆動時においてピーク時の負荷変動が大きくなっており、これに対応した電源が求められている。この負荷変動を防ぐため、従来はワンランク容量の大きな電源を使っていたが、コストの問題からピーク負荷電流対応品が増えている。
 また、EUでは1995年1月から機械安全指令が適用されたのに加え、1996年1月からはEMC、EMS、PFHCといったEMC指令がスタート。1997年1月からは安全規格に相当する低電圧指令の規制が施行されている。
 このためスイッチング電源は高調波電流、低電圧指令などへの対応が不可欠になっており、EU域内で流通する製品に対してはCEマークの張り付けが義務付けられている。
 高調波電流対策電源は、入力整流回路にチョークコイルを入れた入力チョークコイル方式、力率改善コンバーターとDC―DCコンバーターを一体にしたワンコンバーター方式、DC―DCコンバーターの前段に力率改善を行うコンバーターを設けたツーコンバーター方式(図2)、入力電流、電圧制御回路、電圧変換部を独立させたアクティブフィルター方式などがある。
 入力チョークコイル方式は、力率が0.8程度にしか改善されないが、100W以下の負荷変動の少ない電源用途に適している。
 ワンコンバーター方式は一つのコンバーターで力率改善と出力制御を同時に行う。力率改善用の制御ICが不要で、追加部品も少ないので小型化ができ、低コストである。
 ツーコンバーター方式は力率改善コンバーターとDC―DCコンバーター別々に制御を行うもの。回路構成の容易さ、効率の良さなどから昇圧型が一般的である。
 アクティブフィルター方式は、高調波電流規制に最も効果を発揮し、力率改善にもつながるが、部品点数が増えるため小型化およびコスト的に不利である。
 そこでシステム電源対応型のDC―DCユニットとアクティブフィルターユニットを組み合わせることで、小型で汎用性に富んだカスタム電源を構築するシステム電源を提案しているメーカーもある。この電源はDC―DCコンバーターを独立させてモジュール化したものと高調波対策部品とを組み合わせることで小型、コストダウンを図っている。
 その他、カレントモード制御ICを使った力率改善コンバーターと出力電圧制御を行うDC―DCコンバーターで構成したスリーステートコンバーター方式や昇圧型の力率改善コンバーターと出力制御を行うDC―DCコンバーターで構成したピーク電流制御方式などもある。
 スリーステートコンバーター方式は、力率改善用の制御ICや突入電流防止回路が不要であり、入力コンデンサーの小型化が可能である。異常時にコンバーターの遮断ができ、ユニバーサル入力に対応といった特徴を持つ。
 ピーク電流制御方式は回路がシンプルでDC―DCコンバーターの設計が容易で、低ノイズ、ユニバーサル入力対応といった特徴がある。
図2
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  写真(太陽)
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ツーコンバーター方式(昇圧型)
TFT液晶ディスプレイ用DC-DCコンバーター


◆待機電力削減電源
 省エネルギー法によるトップランナー方式の導入もあり、家電、OA機器では大幅な消費電力改善を図る必要性が出てきている。これには機器の省電力化に加え、待機(スタンバイ)時の電力消費が問題になってきており、これを大幅に低減する電源やパワーモジュール、半導体デバイスの製品化が始まっている。
 待機時の消費電力ロスを半分にした新電源制御技術が開発されている。この技術は、電力ロスの低減や保護機能、ワイド入力電圧時の安定動作を可能にしたコントロールICと高効率なRCC部分共振方式で構成されている。電源遮断可変タイマーにより安全性と信頼性も向上している。
 動作時/待機時の切り替え動作が不要な省エネスイッチング電源も開発されている。このスイッチング電源は待機時の電源負荷が0.5W時に電源内部の電力損失が1.5W程度発生していたものを3分の1以下の0.4Wにしている。これは動作状態での回路の見直し、部品の最適化と回路の大幅な合理化により可能にしたもの。
 スイッチング電源の大きな市場のひとつであるACアダプターにおいても、待機電力を大幅に削減する電源制御技術が開発されている。この制御回路を電子機器のACアダプターに搭載すると待機電力約10mWが実現できるというもの。
 この電源制御回路技術は、微弱電流検出/制御部を新たに設けることで動作時/待機時それぞれに応じて自動的に電源操作モードを切り替え、消費電力を制御する。待機時はインピーダンスの高い微弱電流検出抵抗部を経由することにより、ACアダプター電力出力部の回路電流を数十μAレベルまで低減する。同時にスイッチング制御回路部を間欠的に作動させ、電力出力部に対して待機時回路動作に必要なレベルの電力供給を行う(図3)。
 半導体デバイスでは、1コンバーターでスタンバイ対応を可能とするスイッチング電源用ICが開発されている。IC内部にはメインスイッチング素子と低消費電力コントロールICを搭載し、少ない外付け部品で部分共振電源が構成できる。
  図3
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  写真(松下)
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  写真(SMK)
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待機時電力を大幅に低減する電源回路
超小型ACアダプター(松下電子部品)
省電力モジュール(SMK)







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