ハプテックコマンダの開発

野中会二:アルプス電気(株)車載電装事業部商品開発室

写真1
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ハプテックコマンダ

はじめに〜ハプティックコマンダが求められる市場背景〜
 ◇電子化とともに自動車の操作機器が増え続け、ついに飽和状態に
 誕生以来、進化に次ぐ進化を重ねてきた自動車。快適性・利便性・安全性は向上し続け、その進化は、現在もとどまるところを知らない。その一端を担ってきたのが自動車の電子化。カーラジオに始まり、カーステレオやカーエアコンなど、自動車本来の「走る」という目的にとどまらない機能が付加されてきた。
 1990年代後半には、マイクロコンピューターの性能向上にともなって、さらに、カーナビゲーションなども加わった。ここに至って、車室内の限られたスペースでは、これらの多種多様な機能をコントロールするスイッチなど各種操作機器があふれ出すまでになり、ますます操作機器は増大、複雑化していく。
 このため近年、安全・確実に利用でき、人と自動車をつなぎ、老若男女を問わず、あらゆるドライバーがストレスを感じることなく、自在にその機能を引き出せるヒューマンマシンインターフェイスを求める動きが強まっている。
◇ハプティックコマンダを求める具体的な動き
 これらを踏まえ、日・米・欧の世界の自動車メーカーでは、従来、機能ごとに独立していた操作ノブ類や表示装置を整理し、運転にとって副次的な機能のインターフェイスをひとつの操作・表示パネルに統合することがひとつの流れになった(図1)。
 並行して、従来のスイッチ類などの手動―目視などや、発声―聴取を利用する音声認識・合成技術の研究も急速に進んでいる。
 しかし、操作パネルが統合化されても、そこに多くのスイッチ類が並んでいれば、それを選択するために、そのつどパネルを見なければならず、安全性・快適性を損ねる大きな要因になる。操作画面に直接触れることによって操作するタッチパネルにより、入出力を統合することも検討されているが、目視に頼るという点で、根本的な解決にはならない。
 そこで、電子部品の総合メーカーであるアルプス電気は、機器の多様化と、その機器の操作確認の目視に関わる問題を解決するため、ひとつのノブに、回す・押す・倒すなどの多種の入力機能を備え、同時に操作状況を触覚で運転者にフィードバックするという複合操作スイッチ「ハプティックコマンダ」を開発した。これにより、操作者が持ち替えることなく多くの操作ができるよう改善するとともに、さらに、道路に視線を保ったままの操作が可能になる。
 こうして、運転に最も必要な機能を単機能スイッチ、副次的機能類を複合操作スイッチと集中表示パネル、補助的機能として音声合成・認識に分担させる、最近のヒューマンマシンインターフェイスができあがった。

図1
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自動車のヒューマンマシンインターフェイスの流れ


写真2
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BMW7シリーズにも搭載(CEATEC〜アルプス電気ブースから〜)


◆ハプティックコマンダとは?
◇人間の優れた感覚「触覚」を利用する
 ハプティックコマンダは触覚を積極的に利用したものである。操作機器それぞれの感触は、基本的には操作機器が内蔵する機構が作り出すものである。したがって、本来的には、ユーザーが感じる感触は、ユーザーが操作しようとする対象がどのように反応するかとは、実は関係がない。たとえば、電球が切れていれば、部屋の灯りのスイッチはパチパチと切り替わるだけである。逆に言えば、操作感触だけを取りだしてその感触を作ることもできるということである。
◇ハプティックコマンダのコンセプト
 ここに着目したのがハプティックコマンダである。
 機器によって異なる「操作感触」を取り出し、ひとつの操作機器に、その異なる複数の「操作感触」を人工的に作り出すことが、ハプティックコマンダの基本コンセプトとなる(図2)。これにより、各種操作機器をひとつにまとめることができると同時に、各種操作機器に固有の操作感触により、目視に頼る必要がなくなり、格段に操作性が改善する。
 これは、従来の手(または足など)で入力したあと、目や音で確認するというインタ―フェイスの常識を破り、入力した手(または足など)そのものの触覚により動作を確認できるという新しいヒューマンマシンインターフェイスである。触覚により、操作者に状態をフィードバックすることから、ハプティック(触覚)フィードバックと呼ばれている。

図2
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ハプテックコマンダのコンセプト


◆ハプティックコマンダの動作原理
◇動作原理について
 米国イマージョン社の特許に基づくハプティックコマンダの動作原理をジョイスティックタイプを応用した例(図3参照)で説明する。
 操作ノブをX、Y方向に動かすと、連結機構を介してX、Y方向の位置センサーが連動して動く。その動きは、時々刻々CPU(中央演算処理装置)に取り込まれる。CPUは、ノブの動きと外部機器からの感触指令をもとに、感触制御プログラムに従い、操作ノブに発生すべき反力を計算し、X、Y方向それぞれのアクチュエーター用ドライバー回路に時々刻々指令を送り出す。
 ドライバー回路がCPUの指令に応じた出力をアクチュエーターに与えると、連結機構を介し、ノブのX、Y方向に反力が現れる。すると、現れた反力と、操作者が与えている力の合力で、またノブの位置が変化する。その変化がまたCPUに送られて、同様な処理が繰り返される。以上の処理を高速に繰り返すことで、あらゆる感触を作り出す。
 ハプティックコマンダは、原理的には、われわれが日常皮膚に加えられる圧力として感じる触覚はおおむね作り出すことができる。このうち、入出力デバイスとして有用と考えられるものには、バネの押し引き・坂の上り下り・クリック・カベ・粘性・摩擦・質感・振動・溝・ソリッドな物体などがある。

図3
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ハプテックコマンダの触覚生成原理


◆ハプティックコマンダの応用例
◇回転タイプのハプティックコマンダ
 回転タイプのハプティックコマンダはエアコンの温度調整、ラジオの選局、電話帳のスクロールなど、操作状況に応じ細かく操作感触を変える。また、機器の状態変化(たとえば選局中、ある局にヒットする時、電話リストでイニシャルがAからBに変わる時など)を感触フィードバックで知らせることができる。
 さらにこれを補助するための複合入力機能として、同じノブに8方向のスライドスイッチおよびプッシュスイッチが実装されている。8方向のスライドスイッチは、8種の基本機能の選択、プッシュスイッチは確定動作に使われる。
◇ジョイスティックタイプのハプティックコマンダ
 ジョイスティックタイプのハプティックコマンダは、特にテレマティックスでネットサーフィンや地図検索をする際の、マウスに代わる入力装置として関心を呼んでいる。
 画面ごとに位置や数の異なる、ハイパーテキストリンクや各種コントロールのそれぞれに異なる感触の質感や引き込み感を付加することで、操作性が格段に向上している。



◆ハプティックコマンダの今後の展開
◇さらに広がる展開
 飛行性能と安全性を向上するため、航空機にフライバイワイヤーが導入されて久しいが、自動車にも、これに追随してドライブバイワイヤー技術が導入されようとしている。
 ハプティックコマンダは、ドライブバイワイヤーにおいて、欠くことのできない操縦装置になると思われる。現在の操縦装置は、ドライバーにとって有用な道路情報を伝達すると同時に、有害なフィードバック(過度のハンドルの取られなど)も拾ってしまう。ハプティック技術を利用し、有害情報をフィルターするだけでなく、レーン離脱・異常接近・居眠りなどの警告情報などの、人工的な情報を、感触として最適な形でドライバーに伝えることも可能になる。






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