携帯機器向けタクトスイッチ、コンタクトスイッチシートの開発

上妻浩道:アルプス電気(株)コンポーネント事業部第3技術部設計7グループ
岩間尚也:同第3技術部設計8グループ


◆はじめに
 アルプス電気のタクトスイッチは1976年からIC入力用スイッチとして生産が開始された。以降、各種機器の電子化、また近年、一層加速してきたデジタル化の進展とともに生産数量を急激に伸ばし、2003年中には生産累計450億個を突破するまでに成長した。
 タクトスイッチが使われる市場は、テレビ、VTR、オーディオ、家電などの機器にとどまらず、携帯電話などの通信機器、カーオーディオ、車載電装品、家庭用ゲーム機にまで広がっている。
 スイッチの形態も生産性の向上や高密度化のための自動実装が急速に普及したことにより、プリント基板穴へ端子を差し、裏面でハンダ付けするバルクタイプからラジアルテーピングやSMDタイプへと変化してきている。
 本稿では、今後さらに伸びが予想される携帯電話の用途に対応したSMDタイプのタクトスイッチ並びにコンタクトシートの技術動向について述べることとする。



◆タクトスイッチ
◇昨今の市場動向
 携帯電話機は他のポータブル機器と同様に常に小型、薄型のニーズがある市場である。限られたサイズの中でカメラ、ムービー機能やゲーム機能などといった新たな機能が追加されたことで、搭載部品が増加する一方で、液晶画面の大型化は部品を搭載するスペースを圧迫している。
 また、国内においては、折り畳み機種が主流になっており、タクトスイッチに限らず電子部品に対する小型、薄型化、複合化の要求は非常に強いものがある。
 動作寿命についても一般機器と比較して長寿命化が必要である。キーの操作回数が多いため、比較的操作頻度の少ないセット側面用スイッチで最低でも10万回、一般のスイッチであれば最低50万回の動作寿命が要求される。
 また、機能面での要求では限られたキーの中で多くの機能を操作する必要があることから、複合操作デバイスの要求が強くなってきている。
 さらに環境面については、携帯電話に限らず鉛フリーの要求がある。
◇製品の開発経緯
・薄型化
 当社のSMDタイプタクトスイッチは、1980年代に開発された。当時は、スイッチ高さが3mm程度であったがその後、機器の薄型化に呼応するかたちで薄型化が進み、現在は携帯電話用途としてはスイッチの高さが0.4mmの製品が市場投入されるに至っている(写真1)。
 このタクトスイッチは、外部異物がスイッチ内部に侵入してスイッチ接触不良を防止する防塵シート構造であり、薄型化を極端に追求した結果、反転板ばねを直接セットのノブが押す構造としている。その際、ノブが反転板ばねのセンターから外れてしまうと、タクトスイッチ特有のクリック感触が損なわれてしまう。
 これを防止するために外形を小型化する一方、反転板ばねのサイズは従来の大きさを維持し、ノブが反転板ばねのセンターから0.4mm程度ズレてもクリック感触を損なわない構造とした。
・小型化
 携帯電話の側面に取り付けられ、セットのボリュームのUP/DOWNや電源のON/OFF用には、スイッチ側面に押しボタンのあるサイドプッシュタクトスイッチが使用されている。サイドプッシュタクトスイッチは、薄型はもちろんであるが、小型化に対するニーズも強い。当社のSMDタイプのサイドプッシュタクトスイッチは、1992年に開発された。外形寸法は7.4×4mmで、開発当初は非常に小型なタクトスイッチであったが、セットの小型化が進み、携帯電話への搭載が難しくなってきた。
 スイッチを小型化するためには、スイッチに使用する反転板ばねをいかに小型化できるかが非常に重要なポイントである。
 小型のばねで目標とする作動力、移動量、動作寿命を満足させるには、非常に高いプレス加工技術と良質なばね材料の選定が必要不可欠である。
 このように小型化する上での課題をクリアして、現在ではφ2.5mmと非常に小型の反転板ばねを使用したサイドプッシュタクトスイッチ(写真2)が開発されている。外形サイズは3.55×3.9mmであり、従来品に比較して大幅に小型化されている。
 サイドプッシュタクトスイッチは、今後も需要の伸びが期待できる製品であり、高ハンダ強度タイプ(写真3)、好フィーリングタイプ(写真4)といった市場のニーズに合った製品バラエティーを揃えている。
・長寿命化
 複合操作デバイスとしては、これまで外形7.5×7.5mm、ボディー高さ1.8mmと小型、薄型の4方向プラスセンタープッシュスイッチがあり、デジタルスチルカメラやポータブル機器に数多く使用されている。
 しかしながら、動作寿命回数が携帯電話用途で要求されている50万回に対して20万回と不足していた。50万回の動作寿命回数に対応するために、反転板ばねの形状を最適化することによって、携帯電話用途に対応するスイッチを開発した(写真5)。
 外形は、7.5×7.5mmと同一で、スイッチボディー高さは1.85mmと従来品とほぼ同じ外形寸法で小型、薄型を確保していることが大きな特徴となっている。
・環境対応について
 環境保護の点から鉛フリー化の動きが活発化している。弊社タクトスイッチは鉛フリー化に2001年6月から取り組みを開始し、現時点においてすべてのタクトスイッチに対して鉛フリー製品の対応が可能となっている。

  写真1
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  写真2
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  写真3
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スイッチ/エンコーダーSKRM
スイッチ/エンコーダーSKRE
高ハンダ強度タイプ
  写真4
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  写真5
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タクトスイッチSKRT
長寿命タイプ


◆コンタクトシート
◇携帯電話用コンタクトシート開発の背景
 当社のタクトスイッチの開発経緯については前章で述べたが、携帯電話操作部に要求される薄型、軽量の要求にはタクトスイッチの薄型化、小型化だけでは対応することが困難となってきた。
 そこで現在は回路基板上に接点を設け、メタルコンタクトを張り付けた粘着シートを張り付けてスイッチを構成する構造が一般化している。当社は今まで培ってきた接点加工技術を生かし、ここで使われるメタルコンタクトを張り付けたシート(当社商標:コンタクトシート)の開発を行ったので説明する。
◇製品コンセプト
 ここで使われるスイッチはタクトスイッチと異なり、当社の出荷段階ではスイッチとして構成されておらず、顧客側で基板と組み合わせることで、初めてスイッチとして機能を果たすものとなる。このため、当社の出荷段階ではスイッチとしての確認を行えない。
 ドーム形状接点はバット接点であるため、異物に対し細心の注意を払う必要があるが、スイッチとしての最終組立を行うのは顧客であり、当社タクトスイッチと同等レベルでの異物管理が不可能という点が今までのタクトスイッチと異なる点である。以上の特殊性に対して以下のコンセプトの元に開発を行った。
 ・基板の組立工程で入る可能性がある異物(基板屑、繊維など)が浸入しにくいこと。
 ・基板に張り付けたあとは外部の異物が侵入しにくいこと。
◇製品の特徴
 上記の製品コンセプトを実現するために以下の構造を採用した。
 ・メタルコンタクトの接点部に3点の突起を設けた接点化を行い、侵入した異物に対して接触不具合になる確率を低減させた。
 ・2枚シート構成としてメタルコンタクト挿入孔間をエアの流通孔でつなぎ、接点を外気と遮断することで、外部からの異物の浸入を防止した。
 以上の2点の構造により、高い接触信頼性を実現することが出来た。

図1
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  図2
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メタルコンタクトの接点部に3点の突起を設け接点化
2枚シート構成


◆今後の展開
 携帯電話においては、電話をするだけでなくメールやゲームなどの普及により今まで以上に使用頻度が多くなってきた。小型化、薄型化、複合化のニーズはコンタクトシート、タクトスイッチともに、さらに強くなっていることに加え、スイッチの操作感触や操作音に対する、より高度な要求も出はじめている。当社は、今後とも素材技術、加工技術、評価技術などの要素技術を深掘りし、これら市場要求に応えていく所存である。






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