薄膜コモンモードフィルターアレイの技術

伊藤知一:TDK(株)回路デバイスB.GrpインダクタGrp
ニューコイルプロジェクト開発一係


  ◆はじめに
 近年、ノート型PC、デジタルカメラ、携帯電話などに代表される電子機器の小型化、薄型化、高集積化、軽量化には著しいものがある。この機器動向に伴い、当然使用される部品には小型で高密度実装へ対応の要求が高い。この傾向はEMC対策部品においても例外ではない。
 また、高画質画像や動画などの大量のデータが取り扱われるデジタル機器が増え、小型化のほかにこれらの大量データの伝送要求も高くなってきている。現在これらのデータを伝送する方式には高速差動伝送方式が使用されることが多い。パソコンやデジタルカメラなどに使用される高速差動伝送インターフェイスとしては、LVDS、IEEE1394、USB2.0、DVIなどがある。これらの各種インターフェイスにおけるEMC対策部品としてはコモンモードフィルターが最適である。 今回はこれらの市場要求である、小型で高密度実装に対応し、また、同時に高速差動伝送方式にも対応したEMC対策部品である小型薄膜コモンモードフィルターアレイTCM2010シリーズについて技術紹介を行う。

  ◆製品開発/設計
  ◇小型化(ファインパターン形成)
 小型薄膜コモンモードフィルターアレイTCM2010シリーズは、2.0mm(L)×1.0mm(W)、厚さ0.8mm(T)のサイズ中にコモンモードフィルター2個を形成している。外観を写真に、形状図面、等価回路図を図1に示す。この製品を使用することにより、実装面積は現在の標準的製品に比較し半分以下となり、高密度実装への効果が高い。
 また、製品の端子電極ピッチは0.5mmとしており、ICのピンピッチと同様であり、PCBパターンの配線上使用しやすい形状となっている。
 この製品の構成は2.0mm×1.0mmの少ないスペース中にコモンモードフィルターを2素子、すなわちコイル4素子を形成することが必要となる。このためには、コイルを形成する導体を細く、導体間スペースを狭くすることが必要となる(コイル導体のファインパターン化が必要となる)。
 このコイル導体のファインパターン化の要求に適した工法として、薄膜磁気ヘッドで使用している当社独自のファインパターン導体形成技術がある。薄膜磁気ヘッド工法での導体形成の例を図2に示す。この例は約5μm程度の領域に導体を5ライン形成しているものである。TCM2010シリーズではこれほどのファインパターン導体は使用していないが、この薄膜磁気ヘッドのファインパターン形成技術、成膜技術などを応用することで少ない領域上でコイル導体の形成が可能となり、この技術により小型コモンモードフィルターアレイTCM2010シリーズの商品化を実現した。

  写真
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  図1
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  図2
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小型薄膜コモンモードフィルターアレイTCM2010シリーズ
TCM2010シリース゛外形図と等価回路図
薄膜磁気ヘッドパターン形成例


  ◇電気的特性(高速化)
 TCM2010シリーズでは、前述のとおりコイル導体のファインパターン形成技術により小型化を実現した。この小型化のほかにTCMシリーズでは、独自の設計理論により、現状そして今後一層コモンモードフィルターに要求される高周波帯域での特性を考慮した設計を行っている。 また、このほかにシミュレーション技術により構造およびコイル導体パターンの最適設計を行い、材料技術およびその他の基盤技術を駆使し、優れた特性のコモンモードフィルターアレイの商品化を実現した。
 上記設計において開発した製品の特性は以下のとおりである。現在TCM2010シリーズとしてはコモンモードインピーダンス100、200、260Ω(100MHz)の3アイテムを商品化している。表1にTCM2010シリーズ品の特性一覧を示す。また、図3に各アイテムのコモンモードとディファレンシャルモードのインピーダンスの周波数特性を示す。 小型形状とともにこの製品のもうひとつの特徴である高速伝送特性を表すグラフを図4に示す。このグラフは各周波数帯でのディファレンシャルモードの伝送信号の減衰特性を表すものである。このグラフに表すとおり、TCM2010シリーズすべての製品で高いディファレンシャルモードの伝送特性を実現している。減衰値―3dBの周波数(カットオフ周波数)はTCM2010―101―4PでTyp.4.5GHzを実現している(201―4P:Typ.3.5GHz、261―4P:Typ.2.5GHz)。
 一般的なコモンモードフィルターではこの値(カットオフ周波数)が1―2GHz程度であり、ディファレンシャルモード信号の伝送帯域が、現状の一般的なコモンモードフィルターに比較し格段に広くなっている。このことは差動伝送方式で高速信号(高周波信号)を伝送する際に、その信号にほとんど影響を与えず信号の伝送が可能であるといえる。 したがって、TCM2010シリーズは高速差動伝送において必要であるディファレンシャル信号にはほとんど悪影響を与えることなく、不要なコモンモードノイズのみを除去することが可能であると考えられる。

  表1
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  図3
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  図4
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TCM2010シリース゛ラインアップ
インピーダンス周波数特性
ディファレンシャルモード伝送特性


  ◇用途例
 この製品を使用した場合の効果について以下に記載する。コンピューター本体とTFT液晶パネルを接続するLVDSラインにTCM2010シリーズを使用した場合の用途例を図5に示す。ここで使用した製品はLVDS用の薄膜コモンモードフィルターTCM2010―201―4Pである。
 TCM2010―201―4Pを搭載することによる輻射ノイズの低減効果を図6に示す。コモンモードフィルターが搭載されていない状態において一部の周波数で発生していたノイズ成分が、TCM2010―201―4P(2チップ)の搭載により大幅に除去されていることがこの測定結果より明確である。今回の用途例はLVDSの場合であるが、他のインターフェイス(IEEE1394など)でもTCMシリーズを使用することにより、大きなノイズ除去効果が得られることは確認済みである。 また、良好な高周波帯域のディファレンシャル伝送特性およびノイズ除去特性により、伝送速度の速いインターフェイスにも大きな効果が確認されている。

図5
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  図6
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TCM2010用途例
EMI輻射ノイズ測定結果


  ◆まとめ
 電子機器の今後のさらなる小型化、多機能化、高性能化に伴い、EMC対策の必要性も高まると考えられる。また、これにより電子部品にも一層の小型、薄型の省スペース化が要求され、同時に今まで以上に効果のあるEMC対策部品の要求も高くなることと考えられる。
TDKでは今後とも、独自のEMC設計理論や評価技術、そして薄膜磁気ヘッドのファインパターンニング技術などで代表される基盤技術を活用し、より高性能のEMC対策部品およびその他電子部品を開発していく所存である。


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