パワーダイオードの技術動向

田中和宏:ローム(株)ダイオード製造部商品設計一課



  ◆はじめに
 プリンターや各種電源アダプターをはじめ、あらゆる電化製品の電源回路において、2次側の整流に用いられるダイオードに対する特性向上の要求はますます高まっている。そのなかでもスイッチング電源では、定格電流の大きいパワーダイオードを使用するため、順方向損失およびスイッチングロスがどうしても大きくなってしまい、電源回路の全体でみても全損失の約3割がダイオードの損失によるものだとされている。電化製品の消費電力の低下および高効率化が、今まで以上に求められるなかで、重要な役割を担うダイオードの基本特性の改善について述べる。
 スイッチング電源などで用いられるダイオードは、ファスト・リカバリ・ダイオード(以下、FRD)とショットキー・バリア・ダイオード(以下、SBD)の2種類ある。この2つのダイオードは特性上VR=100Vを境に、100V以上の高耐圧品をFRD、100V未満の低耐圧品をSBDというように分類される。一般的に、この2種類のダイオードについての要求特性は、FRDについては、より順方向損失が小さくスイッチングスピードが速いもの、SBDについては、順方向損失が低く、なおかつ逆方向の漏れ電流の低いものが求められている。しかし、これらの特性は背反事象にあり、このトレードオフを改善する技術がダイオードの特性を論じる上で最も重要になってくる。


  ◆ロームの取り組み
 ロームはこれまで独自のデバイス技術により、1A以下の小信号クラスからミドルパワークラスにおいて今まで数多くの商品を展開してきており、市場でも高い評価を得てきた。
これら両クラスで培った性能面での特徴をいまだ参入していなかったパワーダイオード市場に拡大し、商品を展開している(表1)、(写真1)。
このたびのパワーダイオード市場への参入により、ロームでは逆耐圧が30Vから90VクラスについてはパワーSBDシリーズを、200VクラスについてはパワーFRDシリーズのラインアップを完了した。
パワーSBDシリーズは、30Vクラスについては低VF・低IRの「RSXシリーズ」、40V〜90Vクラスについては低IRの「RBシリーズ」をそれぞれ30Aまでを展開。パワーFRDシリーズは、200Vクラスについては低VFタイプの「RF**1シリーズ」と超高速タイプの「RF**3シリーズ」の2シリーズを20Aまで展開している。

表1
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  写真1
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パワーダイオード新商品ラインアップ表
パワーダイオード


  ◆パワーFRDの技術動向
 ここでは、FRDについての基本特性を決めるtrr(逆回復時間)とVF(順方向電圧特性)の関係について述べる。
FRDの高速化というのを主題にして考えると、さらなる高速性を実現するためにはキーとなる2つの要素がある。それは拡散金属と拡散温度である。
まず拡散金属だが、主に用いられるのは金と白金などである。それぞれPN接合界面にまで拡散された後にとどまり、スイッチングの際に取り残されたキャリアを吸収することにより、スイッチングスピードを高める効果となる。もうひとつはプロセス上とても重要な点となるが、その拡散金属の注入する拡散温度である。図1に拡散温度におけるVF、trrの関係を示すが、拡散温度の上昇によってtrrは早くなるがVFはそれに伴って高くなっているのがわかる。
そこで、ロームはその拡散温度におけるtrrとVFの関係を改善するため、プロセス中に特殊な処理を加えることによってそのトレードオフの改善を行うことに成功した。その技術を生かして、高速スイッチングと低VFの両立を実現し、200VクラスよりパワーFRD市場へ参入した。
 また、今後ますます多様化するユーザニーズに応えるべく、順方向損失の低減に重点を置いた低VFタイプの「RF**1シリーズ」と、PDPなどの高周波回路向けにスイッチングスピードを極限まで速めた超高速タイプの「RF**3シリーズ」の異なる特性で、業界トップクラスを誇る2種類のFRDをラインアップした。
低VFを実現した「RF**1シリーズ」では、製品の順方向の損失成分について細分化して分析し、それぞれについて、再設計および最適化を図ることにより、VFを従来よりも約10%低減することに成功した。
さらに、前述したように背反する特性であるスイッチングスピードを表すtrrについても従来品と変わらないスピードの実現を可能とした。
また、もうひとつのFRDシリーズである「RF**3シリーズ」については、極限まで高速化を図ることのできる金属と独自の拡散プロセスを利用することによって、業界トップクラスのtrrスピードを実現することに成功した。
このふたつのRFシリーズ(RF**1シリーズ、RF**3シリーズ)の1AクラスのものについてVF―IF特性、trr波形について示す(図2、写真2)。これらの示すとおり、それぞれ特化する性能を持ちながら、その他の特性についても従来技術品以上の優れた特性を示す商品をリリースすることにより、電源回路の低損失化、発熱の抑制に大きなメリットを与えることが可能となり、幅広いユーザニーズに応えることができる。
今後、FRDに関しては現状の200Vクラスのラインアップから順次300V、400V、600Vと特性ラインアップを拡大していく。

  図1
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  図2
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  写真2
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拡散温度におけるVF、trrの関係
VF-IF特性
trr波形


  ◆パワーSBDの技術動向
 30Vクラスについて展開する低VF、低IR、高耐サージの高性能次世代SBDの「RSXシリーズ」は、ローム独自の微細化加工技術を用いて従来の構造と異なる断面構造にすることにより、SBDの求められる特性であるVF・IRのトレードオフ関係を改善したもの(図3)。
たとえば10Aクラス製品では、従来構造品と比較するとIRは同等でVFが約10%も低減し、業界トップの低VFを実現することに成功した(図4)。さらに、高アバランシェ耐圧、高サージ耐圧(当社従来品の2倍以上)の特徴も有している(図5)。
また、40V以上のクラスの低IRで良好な総合特性をもつSBDの「RBシリーズ」では、電源回路で重視されるIR特性をさらに向上させた商品を40Vから90Vの耐圧でラインアップしている。どの耐圧ランクでも従来品に比べ大幅なスペックアップを実現、さらに他のスペックでもトップクラスの数値を実現している。
今後、これらのクラスについても次世代SBDシリーズを展開し、さらなる特性の改善に取り組んでいく。
ロームのSBDは今回のラインアップ拡充により、Io=30mAから30Aまでの高性能SBD製品のラインアップが大幅に強化され、検波用から携帯機器、プリンターや各種スイッチング電源の電流用など、あらゆるセット、あらゆるユーザーニーズへの対応が可能となった。

  図3
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  図4
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  図5
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VF-IRの相関図
10A/30Vクラス VF-IR従来品比較
RSXシリーズ静電破壊強度比較


  ◆今後の展開
 ロームはパワーダイオード市場に参入すべく、小信号、ミドルパワー市場で培ってきた独自の設計技術、デバイス技術、自社開発による生産技術などと、新たに開発した技術を組み合わせることによってSBD、FRDのラインアップを拡充した。今後さらに、ダイオードの基本特性のVF、trr、IRの高性能化はますます高まってくることが予想される。
今後もセットの小型・携帯化、省エネ化といったユーザニーズに対応した商品開発を推し進め、ユーザーの期待と信頼に応えていく方針である。


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