世界最小・最軽量のマイクロDC-DCコンバーターモジュール

込山広紀:太陽誘電(株)モジュール事業部電源技術部開発チーム



  
 太陽誘電はこのほど、世界最小・最軽量、かつ低背の超小型DC−DCコンバーターモジュールの開発に成功し、サンプル供給を開始した。現在、携帯機器が多機能化する中、1つの機器の中で様々な機能を制御するICが用いられており、各ICを制御する電圧も多岐にわたる。このような場合、主に1カ所に電源を配置(「集中電源」)し、各ICに供給する方法が用いられているが、以下のような点がデメリットとなっていた。
・電源が集中するため、発熱個所も集中することとなり、放熱設計に十分に配慮する必要がある。
・電源部に、まとまった基板面積が必要となる。
・急な機能追加(出力電圧種類の増加など)に対応しにくい。
・電源ラインの引き回しが長くなるため、配線の抵抗成分とインダクタンス成分に起因する電源電圧の変動が大きくなる。
上記課題を解決する手段として、「分散電源」という手法がある。これは、電源を必要とする各ICの近傍にそれぞれ電源を配置するというもので、下記のようなメリットを有する。
・電源が分散するため、発熱個所も分散し、放熱設計が比較的容易である。
・まとまった基板面積を必要としないため、パターン設計の自由度が大幅に向上する。
・急な機能追加(出力電圧種類の増加など)に対応しやすい。
・電源雑音を抑制させることが可能となる。
この電源雑音の抑制について、補足する。集中電源の場合、電源から各ICまでの配線距離が長くなることから、その抵抗成分とインダクタンス成分の増大によって電源に悪影響を及ぼす。具体的には、各ICの動作変動によりICが必要とする電流量が変動し、電圧の変動が大きくなってしまう。しかし、各ICの近傍に電源を配置すれば、配線の影響を抑えることが可能となり、電圧変動も低下させることが可能である。分散電源の例を図1に示す。
 このようにメリットが多い「分散電源」であるが、未だ主流になりえていない理由として、電源を小型化できていないことがあげられる。電源を設計する場合、使用するインダクターにある程度の面積が必要となってしまうことがその要因であった。
この「分散電源」に当社の電源モジュールを使用することにより、最小のスペースで電源を実装することが可能となり、しかも、その後の設計調整工数も削減できる。電源を設計する場合、部品選定〜定数選定〜パターン設計〜調整〜検査をセットメーカーで行う必要があるが、モジュールを使用することにより、上記作業のほとんどが必要なくなり、その工数を大幅に削減できる。
今回開発された電源モジュールは、コンデンサーの3225サイズと同一の3.2× 2.5mm(高さは、Max.1.2mm)形状の中で、制御ICをベアチップ実装し、電圧調整用等の周辺回路部品を搭載しており、さらに、インダクターを基板に内蔵することにより、世界最小・最軽量の電源モジュールを実現している。
制御ICは近年スイッチング周波数が向上してきており、それに伴ってセラミックパッケージも小型化されたものが市場に出現している。しかし、パッケージ品である以上ベアチップに比べて大きな形状にならざるを得ず、また、一般のセットメーカーで、電源のためにベアチップ実装を行うには、製品保証等の問題が発生し、実用的ではない。
周辺回路を構成する抵抗やコンデンサーは、0603サイズの小型部品が一般的に使用可能である。しかし、出力インダクターについては、従来このクラスの出力電流を流すためには最小でも2012サイズ、一般的にはさらに大きな3mm角以上のインダクターが使用されており、これが電源全体のサイズを決定づけていた。セット機器の小型化が、大きな流れとなっている中で、旧来のように電源構成部品それぞれの小型化を図っていくやり方では、自ずと限界がある。
世界最小・最軽量DC−DCコンバーターモジュールを実現するために太陽誘電では、電源全体としての小型化を追求し、専用のインダクター内蔵積層基板を新規に開発してこの課題へ取り組んだ。必要とされるインダクタンス値を満たせる最薄型の積層インダクターの上に制御ICと周辺回路受動部品を実装する「2階建て」構造は、実装面積を大きく削減しながら、低背化をあわせて実現できる。当社、電源モジュールの構造を図2に示す。
このインダクター内蔵積層基板は、インダクター層の上下に配線層を重ね合わせ、異種材料接合技術による同時焼成により生産される。
また、フェライト粉を微粉化かつ均質化、焼成条件を最適化し、電磁界シミュレーションによって、所定空間の有効活用を図り、内部構造を最適化することにより直流重畳特性を改善して、電源用インダクターとして十分なインダクタンスを確保した。図3にインダクター内蔵積層基板の製造フローを示す。
 上記専用部材を使用し、さらに太陽誘電得意の高密度実装技術を組み合わせた、DC−DCコンバーターは、まさにこれからの“分散電源をモジュールで”との新しい流れを作る製品である。現在は、降圧タイプで最大出力電流500mAというクラスに2種類の異なるモジュールを提供している。この電流であれば、リチウム電池を使用する携帯用機器の需要の大部分をカバーできる。出力電圧は標準として1.2V、1.5V、1.8V、2.0Vを揃えており、この他の出力電圧にもカスタマイズで対応可能である。
この2種類のモジュールの違いは、下記の通りである。
Bタイプ:CPU駆動等の汎用用途向けである。モード切替により、軽負荷時の効率を改善するべく、出力電流に応じて、発振周波数を可変させるモードを選択可能である。通常、このモードではリップル電圧が大きくなるが、25mVp−pまで低減している。もちろん、発振周波数を固定させるモードも備えている。最大出力電流は、500mAである。
Cタイプ:携帯電話の送信用Power Amplifierの駆動用途向けである。
バッテリースルー用のFETを内臓している。最大出力電流は400mA。
表1に代表的な仕様を示す。
「分散電源」をさらに簡単に設計できるよう、太陽誘電はこれからも降圧タイプについては最大出力電流の多様化を、さらに方式も昇圧タイプ、昇降圧タイプの提供などを通じて製品のラインアップ化を推し進め、市場拡大を図っていく。

図1
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  図2
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多電源化に伴う分散電源の例
構造図
図3
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  表1
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インダクター内蔵積層基板の製造フロー
ラインアップ

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