特集:高周波部品技術
チューナーモジュールの技術動向




デジタル放送用「コア」チューナー:TDE

復調器内蔵地上デジタルチューナーユニット:
TDHシリーズ

アナログ放送用「コア」チューナー:TEQシリーズ

アナログ放送用IF回路内蔵チューナーユニット:
TMQシリーズ

PC用小型IF回路内蔵チューナーユニット:
TSEシリーズ(業界初のRF-ICをベアチップを実装したモジュール<外形サイズ:40×20×5o>)

高品質・高性能を追求
常にベストソリューション提供

1997年に、全世界に先駆け、英国で地上デジタル放送が開始されて以来、ここ数年の間に世界各国で地上デジタル放送が本格的に開始され 始めている。
 アルプス電気の地上デジタル放送用チューナー開発への取り組みは、業界でも比較的早く、本格的に開発を開始してから今年で7、8年に なる。開発当初は、本放送も開始されておらず、実市場が無い中での先行開発であり、お客様であるセットメーカーの試作モデル用、地上デジタル放送システムの実験用、あるいは、各種半導体開発の検討用が主な用途であったが、ようやくここ数年、各国で地上デジタル放送 が開始されたことを受け、一般消費者向けのセット製品へ搭載されるようになった。
 現在、アルプス電気が市場に投入しているデジタルチューナーは、前述の地上デジタル用に加え、衛星デジタル用、デジタルケーブル用 、さらには、音声デジタルチューナーと、顧客・市場ニーズにマッチした幅広い製品展開をしており、液晶テレビ、プラズマテレビ、DVD、 HDDレコーダーを代表とするデジタル家電に数多く搭載されている。

<3つの技術コンセプト>

このように幅広く製品展開をしていく上でのアルプス電気のデジタルチューナーの技術コンセプトは、@コアチューナの展開、Aセット設 計ニーズに応じた性能、機能のカスタマイズ、Bデジタル復調器内蔵型モジュールの展開、の3つに大きく分かれる。
 コアチューナーの展開とは、チューナー専門のトップメーカーとして、50年以上にわたり蓄積された高周波技術をベースに、デジタル放 送用・アナログ放送用を問わず、高性能でかつ、優位性のある「コア」となるチューナーキーデバイス並びに回路を開発してきた。
 アナログ放送が完全に停波されるまではアナログチューナーも同時に搭載されることになり、放送システムに依存しない「コア」となる チューナーを持つことは、製品の標準化を図る上で非常に大きな意味を持つ。
 次に、この「コア」となるチューナーをベースに、各種セット設計のニーズに応じた性能・機能の最適なカスタマイズへの自由度を高め るというのが第2番目の技術コンセプトである。
 さらに、「コア」となるチューナーの、後段にデジタル復調器を内蔵することにより、セット設計時のお客様の負荷を大幅に軽減するの と同時に、復調器とのマッチングを最適化することにより、高品質・高性能な製品をお客様に提供することが可能となる。
 以上の3点が、当社の技術コンセプトの骨格である。
ところで、1999年、米国のマイクロチューン社が業界に先駆けシリコンチューナーを発表して以来、昨今、いくつかのシリコンチューナー が製品で採用され始め、シリコンチューナーを積極的に展開しない当社に対する危惧の声を耳にする機会がある。
 しかし、このソリューションを選択し、提供も可能な当社が、当面、モジュールチューナーへこだわるには理由がある。
 前述の党利、キーデバイスを可能な限り標準化し、かつ、お客様および市場のニーズに合わせたカスタマイズをタイムリーに、そしてフ レキシブルに対応するためには、モジュールというソリューションが現時点では最適であると考えているからである。また、アルプス電気 はグループ内に半導体製造部門を有していないため、どの半導体メーカーとも競合することもなく、その時々で最適なデバイス同士を組み 合わせたベストなソリューションをお客様に提供することができる。
 アルプス電気は、常にお客様にベストなソリューションを提供するために、すでにいくつかのキーデバイスサプライヤーと相互に強固な パートナーシップを構築している。今後もこの方向性は、基本的に変わりはない。
 次に、デジタル市場を切り開いていく上での技術的な課題をいくつか述べたい。
デジタル化に伴う部品のコスト増加分は、まだまだ高額といえる。欧米市場において衛星デジタル放送が開始された当初、チューナーモジ ュールの価格は大変高額であった。それが普及価格帯といわれ、実際にセットが売れ始めたときのチューナーモジュールの価格帯は、10ド ル台前半に達していたと記憶している。それに対し、現在の各地域・各方式のチューナーモジュールが、普及価格帯になってくるのには、 市場の成長に伴う規模の拡大と、更なる技術革新が必要である。
 とくに、フロントエンドといわれるデジタル復調器を含んだチューナーモジュール部分と、バックエンドと呼ばれるデジタル信号処理回 路(MPEGエンコーダー/デコーダー)のキーデバスは、それぞれに求められる機能、性能と、それに見合うコストパフォーマンスを得るため に最適なプロセス選択が重要である。

<マルチチューナー化>

 また、3つの意味での「複合化」も重要な課題である。  ひとつは、デジタル化のためのキーデバイスの「一体化」という意味での複合化である。いくつかの半導体メーカーでは、復調器とバッ クエンドの1チップ化の構想をすでに有している。これにチューナー部分も含んだ1チップ化が、究極の複合化と考えるが、前述のとおり、 最高の性能、コストパフォーマンスを得るためには、プロセスの改新度合いを見つつ、いくつかの選択肢の中からベストな組み合わせを追 求していく必要があるだろう。
 2つ目は、複数のシステムに対応した「マルチ化」の意味での複合化。放送方式が、従来のアナログ放送に加え、衛星、地上、ケーブルそ れぞれが方式を異にしてデジタル化が進み、また、そこに、映像、音声、データサービスのシステムのそれぞれが存在することは前述した 通りである。
 一方では、TVなどの表示装置は大型画面化が進み、記録再生装置もDVD録再機能や、ハードディスクドライブを搭載した機器が増加し、一 度に複数の番組を視聴、記録する機能を搭載することが一般的となってきた。このようなセットには、複数のチューナを搭載することが必 要になってくる。そこでニーズが高まるのが、ひとつのチューナーモジュールで複数のシステムに対応した「マルチチューナー」である。 現在は、システム固有の復調用キーデバイスが必要となるが、ソフトウエアラジオのように、いずれDSPをベースとし、すべての方式をソフ トウエアで復調することも実用的なレベルになるだろう。
 3つ目は、「融合」の意味での複合化である。具体的には、放送と通信の融合を指す。放送のデジタル化の動きとほぼ同時期に、パーソナ ルエリア、ロー狩エリア、ワイドエリアそれぞれのネットワーク市場が急速に発展してきている。そしてワイドエリアを代表する、携帯電 話市場において、すでに放送との融合製品が生まれてきている。
 では、どのような融合が今後考えられるか?その可能性は、あまりにも多岐に渡り、技術的観点から、今回言及するのには時期尚早いと思 い、ここでは、その期待感が大きい、とだけ述べさせていただきたい。チューナー専門メーカーとして、一部偏った論理的展開との指南が あろうかと思うが、デジタル放送市場が、今後健全に成長して行くために、アルプス電気としても、市場ニーズ、顧客ニーズに的確に答え るための技術革新の努力を継続し、最良なソリューションの提供を行うことで、ぜひとも貢献して行きたい。
<青木守:アルプス電気樺ハ信デバイス事業部第一技術部>