特集:自動車用部品技術
ドライブ・バイ・ワイヤシステム技術


〔図〕ハプティクコマンダの原理と構成例

〔写真1〕ステアリング形モジュール

〔写真2〕シフタ形モジュール

〔写真3〕ブレーキペダる形モジュール
昨今、ハイブリッド自動車や燃料電池電気自動車等が市場を賑わしている。燃料電池電気自動車(ハイブリッド自動車は、ガソリンエンジン車とこの電気自動車の両方を取り入れた中間に位置する自動車)だが、これは燃料電池の電気でモーターを起動し、車を動かす。そして、車の操作の伝達も複雑なメカニズムによる伝達から、簡素な電気系伝達に変わる。これは大変重要な変革である。この変革が将来ドライブ・バイ・ワイヤ導入の契機になると考えられている。ドライブ・バイ・ワイヤは、もともとはフライ・バイ・ワイヤとして、昔はメカニズムで、現在は油圧で行われている飛行機操作系の伝達として考えられていたもの。これを油圧より簡素な電気系を使用して、車へ応用すること、すなわちドライブ・バイ・ワイヤとして実現することが考えられている。車の各機能を分割し、それぞれの機能を独立したモジュールとし、モジュールを電気信号で結合することで、車として機能を実現する。

ドライブ・バイ・ワイヤの導入で、車内各部が簡素化され、軽量化とともに価格、信頼性の面でのメリットが生まれてくる。さらに、これはかなり先の話となるだろうが、ノイズ問題が解消出来れば、伝達のワイヤレス化も考えられる。すなわち、ドライブ・バイ・ワイヤレスである。

しかし、ここには2種類の大きな課題がある。1つはモジュール間の結合方法であり、もう1つは独立したモジュールの成立性の課題である。

アルプス電気では、後者、モジュールの成立性の課題解決のため、独立したモジュールを開発することを考えた。独立したモジュールは電気信号を介して、指令を受け取ることで、その指令に応じた処理を実行する。
 このようなインテリジェンシーをこのモジュールに持たせることで、司令者すなわち車の運転操作者(ドライバ)からの指示に応じた処理が可能となる。この独立したモジュールのひとつひとつをハプティックコマンダで構成することとした。

<ハプティックコマンダとは>

ハプティックコマンダは、回転角度を読み込み、その角度に対して、あらかじめ入力しておいたフィーリングデータを取り出し、その操作デバイスに反力を加える。

この時の反力は1種類ではなく、複数のモデル化された力、例えば、ばね的な力やダンパー的な力などである。

ハプティックコマンダは、与える力のタイミングと複数のモデル化された力を融合し、出力することにより、それがフィーリング(感触)となり指先・手・足に与えることが出来るシステムデバイスである。

まず、ドライバと車の各部を結合するためのインターフェイスとして、ドライバが操作しやすい操作パネルが必要であり、その操作パネルにハプティックコマンダを搭載することが出来る。

当面は操作入力デバイスとして、キー数を少なくし、スマートなコクピットモジュールを目指すが、将来はドライバ自身がハプティックコマンダが生み出すフィーリングを意識し、訓練を積むことで、手元を見ないでの操作を可能にしていきたいと考えている。

<操作パネル用ハプティックコマンダ>

ドライバ用操作パネルの1つの機能として、車外とのコミュニケーションを例に説明する。

車の後部座席に座っている人が電話をかけようとした時、車がトンネルに入ったとする。その時、電話で話すことが不可能となる。これを回避する方法の1つはアンテナをトンネル内に配置することである。これにもう1歩の工夫と新技術を導入した提案として、IP電話(インターネットを使用した電話)を使用した方法が考えられる。この方法だとパケット通信が可能であり、回線を占有する必要がなことから、他の車の通信モジュールを借用しての通信が可能となる。すなわち、トンネル内のある車から別の車にホッピングして、やがてはトンネルの外と交信することが可能となるわけである。この時、通信モジュールを借用された車のドライバは気が付かないであろう。

もしこういった機能が、将来実現すれば、非常に便利になるが、問題も起こる。それはこれらの情報をドライバはどのように操作していくか、ということである。恐らく、飛行機のコクピットのように、多数の計器類と複雑な操作パネルになるのではないかと予想される。つまりこれは、操作が複雑になる、ということである。便利になっても操作が複雑になれば、事故を起こしやすくもなると考えられる。複雑な操作をシンプルに、そして、快適に行う手段として、入力デバイスとしての「ハプティックコンマンダ」を提案している。即ち、ハプティックコマンダによってドライバの操作パネルを構成することで、アルプス電気はより快適なドライビング空間を提供していきたいと考えている。

そして、原理は同じだが、異なるフィーリングデータの開発と反発力を強化したものがステアリングモジュール形のモジュールであり、シフタ形あるいはアクセル・ブレーキペダル形モジュールである。

<ステアリング形モジュール>

ハンドルとタイヤの動作は、ハンドルを右に切ると、ハンドルには元の位置に戻そうとする力が加わるとともに、タイヤが右にハンドルを切った分だけ、すなわち右向きに指定された角度分回転する。ステアリング形モジュールでは、ハンドルを戻そうとする力を擬似的に作りだす。そして、この擬似的な力はフィーリングデータとして、モジュールに登録しておくことで、操作時に出力することが可能となる。この擬似力と同時にハンドルを切った分の角度データ情報を走行舵に送り、走行舵はこの角度データで、右に指定された角度分回転する。これで、ハンドルを右に回転させた分だけ右に回ることが出来る。これは、ステアリング形モジュールと方向舵のモジュールを開発し、その間を電気信号で結合することで可能となる。さらに、これがタイヤ、ブレーキモジュール等にセンサーがあれば、ABS動作時等、悪路でのステアリングの擬似的なフィーリングの1つとして振動を発生させることなどが容易となる。しかし、ABS動作によって、ドライバの操作の力が先の操作パネルのものに対して強くなるため、反発力は大きくしなければならない課題が残る。

<シフタ形モジュール>

直線型のシフタ(ギアをチェンジする部分)では、ステアリングと同じで、指定されたルート以外での操作を禁止するため反発力を大きくするとともに、同じようにハプティックコマンダを使用しながらもステアリング形モジュールとは違ったフィーリングデータを提供する必要がある。さらに、これに小形化の条件が加わる。シフタ形モジュール用のフィーリングデータの原理としては、シフタをパーキング領域、バックの領域、ドライブの領域等と各領域を作成し、領域から領域にシフタが移動する時に、シフタにいったんロックしたようなフィーリングデータを与えるとともに、その領域のコマンドデータをトランスミッションに電気信号で与えることで、シフタとしての機能を実現する。

<アクセルペダル形モジュール>
(ブレーキペダル形モジュール)

シフタ形モジュールと同様の原理で対応することが可能である。ただし、フィーリングデータや反発力の大きさは足でのコントロールとなるため、更に大きくする必要がある。原理としては、ドライバが足でアクセルペダルを踏み込むと、アクセルペダルには足に吸い付かせるような適切な反力を加える。そして、その時の踏み込み角度をモーターの回転制御部のモジュールに電気信号を送付することで、アクセルペダルとしての機能を果たすことが出来る。

<ドライブ・バイ・ワイヤに適合したバスシステム>

現在、車内のデータ通信は、車の制御用バスシステム(CAN、LINバス等)と情報系のバスシステム(MOSTバス等)とに分かれているが、更なる技術の進化により、将来的には統合されるだろう。これにより、車内のデータ通信のための仕組みは、より簡素化される。これは、それぞれのモジュールがこのバスシステムのインテリジェントステーションとして成立することを意味する。ハプティックコマンダの原理を使用することで、操作パネルステーション、ステアリングモジュールステーション、シフタステーション、アクセル・ブレーキペダルステーション等として各モジュールがバスシステムのステーションを構成することで、更に合理的な自動車開発が実現するために進化していくであろうと考えている。

<アルプス電気の技術開発>

ところで、フィーリングはその人の主観である。自分以外の人とコミュニケーションすることは困難であり、フィーリング仕様を決めることは大きな問題である。これはフィーリングがその時の体調によって変化するからである。当社では、これを解決するためのツールを開発した。フィーリングデータという主観的データを客観的なデータ(パラメータ)に変換することで、フィーリングデータのコミュニケーションを可能としている。

アルプス電気の考える技術開発は、その製品の開発だけではなく、開発環境を含めた総合的な技術開発を実践している。そして、ハプティックコマンダを応用したドライブ・バイ・ワイヤの開発技術は、過去に考えられたテーマ、すなわち、電気回路とソフトウエアの結合に対して、メカニズムとソフトウエア(フィーリングデータ)の結合という新しいテーマに対するチャレンジである。
※ハプティックおよびハプティックコマンダは、アルプス電気株式会社の登録商標です。
 
<佐生和夫:アルプス電気(株)営業本部車載営業統括部車載営業企画部戦略グループ>