特集:電子機器保護用部品技術
超低容量プロテクションデバイス


<はじめに>

各種情報通信機器やデジタル機器のアプリケーションの進化が加速している。デジタルビデオカメラで撮ったMPEG方式で圧縮された映像データをパソコンに取り込んだり、MP3等の音楽データを携帯オーディオで楽しんだりと、私たちは多くのデジタルネットワーク機器を使いこなしている。さらに、USBクリップメモリーに入れた映像や音楽データをUSB2.0付きのカーAVシステム視聴できるといった商品までが登場してきている。

このような環境の中で増加し続けているのが、有線無線などあらゆる形態でのインターフェイスである。情報量の急増や通信速度の高速化ためにデバイスの微細化と低駆動電圧化された信号処理デバイス(LSI)が直面しているのが、外来サージやESD(静電気)からの破壊耐量の低下である。

こうした中、特に高速化された有線インターフェイスは端子が外部に露出するという形式であり、高速かつ低い制御(保護)電圧で回路やLSIを高い次元で保護できる高性能な保護部品が求められている。しかし、この「高速」、「低制御電圧」、「高い保護性能」という要求性能の同時実現は難しく、各社各様のアプローチで市場ニーズの実現を目指していた。従来のデバイス技術では難しかったこの課題に、ロームはシリコンPN接合型のプロテクションデバイスで解決を図った。


ロームの低容量プロタクションデバイス

<高速信号伝送インターフェイスでの問題点>

通信速度が480MbpsのUSB2.0などの高速規格では、通信スピードの高速化とそれに付帯する低振幅化(400mVpp)により、サージ保護回路の時定数が大きな問題となっている。このような高速伝送ラインでは、信号のパルスのスピードが極端に速いため、端子間容量が大きいと伝達したい信号がなまったり、吸収されたりと情報がうまく送れなくなってしまう。市場では、6〜12V程度の低い制御電圧で接触10kV以上の高サージ耐圧と1pF以下の極めて小さな端子間容量を実現するプロテクションデバイスが求められている。しかし、この制御電圧およびESD耐量と端子間容量はトレードオフ関係にあり、この要求を満足させるプロテクションデバイスはなかった。

従来のAV機器でよく使われてきた保護部品の端子間容量は50〜1000pF程度が普通であったが、USB2.0の高速の信号ラインで用いられるプロテクションデバイスはこれまでにない低容量が求められていた(図1)。


〔図1〕高速信号(USB2.0)ラインでのESD保護例

<シリコンPN接合型の優位点>

シリコンPN接合型のプロテクションデバイスには、他の保護部品より以下のような3つの優位点がある。

ローム独自のデバイステクノロジと相まって、
1)高速信号伝送に対応できる超低端子間容量品が実現できること。
2)低電圧でかつ狭い制御電圧を保証できること(後述の当社製品EDZC6.8Bは±2%保証)。例えば5V以下で駆動するLSIなどには静電気に非常に弱いものが多く、6〜7V程度の制御電圧で保護できるプロテクションデバイスが多用される。バリスタなど他の保護デバイスでは、低い制御電圧製品の製造が難しく、また、制御電圧幅も高精度に制御できない場合が多い。
3)繰り返しESD負荷でも、バリスタなどで問題となる制御電圧の劣化や低下が生じないこと(表1)。

要求特性 プロテクションデバイス
シリコン
PN型
酸化金属
バリスタ型
放電
キャップ型
高速対応(低容量化)
低電圧での保護 ×
狭い制御(保護)電圧幅 ×
繰り返し負荷での制御電圧の劣化
高ESD性能
〔表1〕プロテクションデバイスでの要求特性と各プロテクション商品の性能比較

<高速化・低電圧化を実現したロームのプロテクションデバイス>

ロームは低容量品「UMZU6.8N(8pF、6.2V)」などを業界に先駆けてラインアップしていた。加えて、画期的な超低容量プロテクションデバイス:「EDZC6.8B(3pF、6.8V)」などの製品開発を完了し、ラインアップを拡張した(写真、図2-a)。


〔図2-a〕EDZC6.8B外形寸法図

この「EDZC6.8B」の主な特徴を以下に記す。

1)画期的な超低容量 3pFを実現
2)高いESDサージ耐量10kV以上(印加条件:充放電容量150pF、放電抵抗330Ω、接触10回印加)
3)超小型2端子モールドタイプ EMD2(1.2×0.8×0.6mm)この他、3端子の2回路入り製品もあり
4)制御電圧幅が±2%と極めて高精度

さらに、USB2.0、IEEE1394、100BASEなどの信号伝送精度を上げるために、業界初の1pF品:「RSB12JS2(1pF、12V)」の開発にもいち早く成功した(図2−b)。


〔図2-b〕RSB12JS2外形寸法図

これはチップのプロセスを根本から見直し、高速データ通信用の専用チップを開発。1pFの極低容量を実現するとともに、自身のESD耐量も公的規格であるIEC-14000-4-2条件において、10kV以上の強度を実現した。しかもプラスマイナスの静電気を保護できる、双方向2個のツェナーダイオードを2回路配置した画期的な製品である。さらに、多端子パッケージでは業界最小クラスの1612サイズパッケージを採用した。

この「RSB12JS2」の主な特徴を以下に記す。

1)画期的な超低容量 1pFを実現
2)高いESDサージ耐量10kV以上(印加条件:充放電容量150pF、放電抵抗330Ω、接触10回印加)
3)双方向品で、Vcc&GNDどちらの極性サージ保護にも対応
4)超小型モールドタイプ EMD6(1.6×1.2×0.5mm)で2回路入り(表2、図3)。

*NC端子は回路上OPENにしてご使用下さい
〔表2〕ロームの低容量プロテクションデバイス 製品一覧表 (Ta=25℃)


〔図3〕端子間用量(Ct)とESD耐量の実力

<まとめ>

セットの高機能化に伴いプロテクションデバイスへの要求性能も一層高度なものへと進化している。

1.より小型化・複合化といった省スペース化のニーズ
ロームでは携帯電話やデジタルカメラなど小型携帯機器で求められる小型・低背化にも注力している。高速信号ライン用保護部品においても、前述のRSB12JS2など、4素子入りで1.6×1.2mmという小型複合化を実現している。シングル回路品でも1208/1006サイズ品に加え、0906サイズ品もラインアップしている。

2.回路のESD保護に加え、ノイズも除去するといった高機能化のニーズ
現在、より高度な市場ニーズを受け、ロームはESDに加え、EMIにも効果のある保護デバイスなども開発中である。シリコンデバイスならではの複合化技術を駆使し、回路保護とノイズ吸収を高い次元で実現させ、セットの高機能化に貢献したいと考えている。ロームのダイオードは従来から独自のデバイス技術、パッケージング技術、さらに自社開発による生産技術などを駆使し、市場ニーズにいち早く対応した製品開発を行ってきた。これからもロームのクリエイティブな創造性、デバイス技術等を存分に発揮し、顧客ニーズを満足する商品群の開発を進めていく方針である。

<ローム(株)ディスクリート・モジュール商品企画課>