LTCC/低温焼成積層セラミック基板の技術




【写真1】インクジェット法で形成した配線

■微細配線技術

 電子機器を、小型で軽く高機能なものにしたいという要求はとどまるところを知らず、様々な視点で実現に向けた技術開発が進められている。回路を構成する電子部品やモジュールには、より高密度な実装が求められており、モジュール基板やパッケージ基板の多層化、薄層化、微細配線化、部品内蔵などの技術がこれをサポートする。

 LTCC(Low Temperature Coマイナスfired Cera−mics)は、セラミックスをガラスで焼結させたものであり、高周波損失が少なく温度や湿度に対して高い信頼性を持つなどの優れた特徴を備えている。このため、高周波を扱う回路や厳しい環境条件下で使用されるモジュールの配線基板材料として期待されている。

 同じセラミックスを材料とするアルミナ基板(LTCCに対してHTCCと呼ぶ)と比べても、導体材料として銀(Ag)や銅(Cu)を使用でき、低い導体抵抗が得られるため損失が少なく、高周波モジュール基板に適している。

 LTCC基板の配線形成にはスクリーン印刷を用いるのが一般的であり、ライン/スペース=60/60μmまでの細線が量産レベルで達成されている。さらなる微細配線化の要望を受けて検討が進められているが、スクリーンメッシュの耐久性やペーストのレベリング性などの課題があり、この工法での限界に近づきつつあるとの見方もある。そこで、スクリーン印刷以外の方法が試みられている。

■「インクジェット技術」を応用する方法

 近年、インクジェット印刷技術および機能性インク製造技術の発達に伴い、インクジェットを使った微細パターンの印刷が可能になってきた。銀ナノ粒子を分散させたインクを用い、液滴の量と位置を精密に制御することによって、液量に応じた微細パターンの形成を実現した(写真1)。

 セラミックのグリーンシートには成形時に溶剤が抜けた空孔が多数存在している。従来の厚膜用印刷ペーストでは構成粒子の大きさや粘度の関係で問題にならなかった空孔も、ナノ粒子インクでは溶剤とともにこの空隙に染み込み、焼成後にシート表面に残っていないという現象が起こり得る。そこで、インクとグリーンシートの両者に最適な撥液関係を持たせることを検討し、微細パターンの形成を可能にした。試作レベルではあるが、ライン/スペース=30/30μmが現実のものとなっている。

 また、インクジェット法の利点として、印刷マスクがいらないという点も見逃せない。レイアウト作業で作成するCADデータさえあれば、各層ごとに必要となる印刷用のスクリーンマスクが不要になる。印刷マスク製造に要する費用の削減になるばかりか、製作期間も短縮できる。短納期が要求される開発現場で重宝する技術として期待が高まっている。

■「薄膜技術」を応用する方法

 インクジェット法は内層配線、表層配線も可能であるが、さらなる表層の微細配線要求に応えるものとして、薄膜技術を用いた方法がある。半導体の製造技術として発達した薄膜技術/フォトリソ技術は、電子部品でも従来から抵抗器やインダクタを作る技術として応用されてきた。

 今この技術を応用して、LTCC基板上に微細配線パターンを形成する試みが行われている。

 この工法では、配線形成後のメッキ工程も含めて、何度も繰り返される薬液への浸せきに対する耐性をいかに保つかがキーになる。多くの課題をクリアし、Ni/Auメッキ加工後の状態で、ライン/スペース=13/7μm(20μmピッチ)配線が実験室レベルで実現している(写真2、3)。


【写真2】薄膜法で形成した20μmピッチ配線パターン


【写真3】20μmピッチ配線の断面

■まとめ

 LTCC多層配線基板の配線形成方法として、いくつかの新しい方法が実用化に向けて検討されている。LTCC多層配線基板の表層/内層に微細配線が施されることで、受動部品を内蔵した高密度実装モジュールや半導体インターポーザなどの多くの分野で採用が加速されると思われる。
  <不動雅之:KOA(株)販売戦略センター>