様々な形状のビームを自在に出射する面発行半導体レーザー


 京都大学大学院工学研究科の野田進教授とJST、ロームは、さまざまな形状のビームを自在に発生させることができる面発光半導体レーザーの開発に世界で初めて成功した。

 半導体レーザーから出るビーム形状は、これまで内部で制御することができず縦長の楕円ビームが一般的であった。半導体レーザーから出射されるビーム形状は、ビームが出る面(出射面)における電磁界(光)分布により決定される。このため各種のビーム形状を得るためにはビーム出射面における電磁界分布を制御することが必要となる。

 これまでの半導体レーザーでは、屈折率差を用いて出射面に光を閉じこめる方式をとっているため、電磁界分布を自在に制御することはできなかった。このため、ビーム形状を半導体レーザー内部で制御するためにはビーム出射面の電磁界分布を従来とは全く異なる方法により制御する必要がある。

 野田教授らは、2次元的な周期的屈折分布を持つフォトニック結晶は、光のエネルギーが伝搬する速度がある条件で零となる性質に着目した。

 これはある特定方向に伝搬する光がフォトニック結晶により面内の別の方向に回折され、その回折される光も伝搬中に別の方向に回折され、さまざまな方向に伝播・回折される光が互いに結合し合い2次元面内に定在波状態を形成する。  さらに、2次元フォトニック結晶は、面垂直方向への光を出射(面発光)を可能とする回折格子として作用するので、フォトニック結晶面が出射面となる。

 このフォトニック結晶を半導体レーザーの光共振器として用い、結晶構造を変化させることにより異なる形状のビームを発生させた。

■様々な形状のビームが得られる新半導体レーザー

 作製したデバイスは図1のようになっている。このデバイスに導入したフォトニック結晶は(1)格子点形状が真円で格子間隔のシフトなし(2)真円格子点形状で格子間隔のシフトを1本導入したもの(3)真円格子点形状で格子間隔のシフトを2本並行に導入したもの(4)真円格子点形状で格子間隔のシフトを十次状に導入したもの(5)真円格子点で2本の平行格子シフトを直交させて導入したもの(6)格子点形状を三角形としたもので格子間隔のシフトなしの6種類の結晶。

 デバイスの構成材料は、インジウム・ガリウム・ヒ素(InGaAs)/ガリウム・ヒ素(GaAs)半導体で、発振波長は980ナノメートル。作製したデバイスはすべて室温で連続発振し、安定な単一モードで発振したとのこと。最大出力は室温連続条件で46ミリワットを得ており、面発光レーザーとしては出力が大きい。

 フォトニック結晶の格子点形状の制御や格子間隔のシフト導入により生成されたビーム形状は、単一ドーナツ、2連、4連ドーナツ、真円などが得られている(図2)。



 生成されたビームは、a.真円格子点、格子シフトなし、b.真円格子点、格子シフト1本、c.真円格子点、平行格子シフト2本、d.真円格子点、交差格子シフト2本、e.真円格子点、交差格子シフト4本、f.三角格子点、格子シフトなし、となっている。ビーム広がり角は大面積コヒーレント発振を反映して2度以下と極めて狭くなっている。

 今後、フォトニック結晶構造をさらに制御することにより、全く新しいビーム形状が得られる可能性があり、超高密度メモリーやレーザーディスプレイ、さらにはマイクロフルディクスやナノバイオなど全く新しい分野への応用も期待される。

 また、この半導体レーザーは、基板面に垂直に光が出る面発光レーザーのため生産面でも大きなメリットがある。ロームでは、2―3年後の実用化をめざす。