パワーエレクトロニクスとICパワーデバイス
化合物半導体材料・SIC パワーデバイスへの応用盛ん

■SIC 高い絶縁破壊電界 高耐圧パワーデバイス作製時 オン抵抗を低減

現在、世界中で電力需要が急増している。その一方で化石燃料の枯渇、CO2による地球温暖化など、エネルギー問題や地球環境問題に対する懸念も大きく、電力の有効利用こそが21世紀の人類の共通課題であるといえる。

  パワーエレクトロニクスとは、電力を変換(交流→直流、直流→交流など)したり、電力を効率よく制御する技術のことである。家電、産業用機器、電気自動車、電車、送電など、世界で生み出された電力のほとんどはこれら電力変換、電力制御を行うために必要なパワーデバイスを通り流れている。

  現在パワーエレクトロニクスを支えている半導体パワーデバイスは、ほぼ100%Si(シリコン)材料によって作製されている。パワーデバイスはそれ自体の電力損失(通電時のオン損失、スイッチング損失)が少ないことが必要である。

  つまり、供給された電力を変換、制御する過程で電力をなるべく損失しないことが望ましい。しかしながら、従来のSi材料をベースとしたパワーデバイスでは、デバイスがオン時の抵抗(つまり損失)が大きいという課題があったため、パワーデバイス自体での電力損失が目立っていた。しかもこれはSiの材料物性で決まるものであるため、これ以上の改善は見込めない状況にある。近年、SiC(シリコンカーバイド)という化合物半導体材料をパワーデバイスに応用する研究が盛んに行われている。SiCでパワーデバイスを作製すると、その優れた物性値からSiデバイスの限界を超えるような低損失デバイスが実現できるからである。

  SiCは高い絶縁破壊電界(〜2.5MV/cm)、広いバンドギャップ(3.2eV)を持つ半導体材料である。SiC材料で400−数千Vの高耐圧パワーデバイスを作製した場合、Siデバイスと比較して飛躍的にオン抵抗を低減できることが古くから予測され、世界中で多くの研究者によって研究されてきた。現在SiCのショットキーバリアダイオード(以下、SBD)は一部のメーカーから量産開始されているが、SiCのトランジスタであるDMOSについては技術的なハードルが高いために世界でどこも量産化されておらず、多くのユーザーから早期の登場を期待されている。

SiC−DMOS
 
  SiC−DMOSでは、MOS界面が劣悪であるためにチャネル移動度が低いという大きな課題を歴史的に抱えていた。この課題のために、本来達成されるはずの低オン抵抗化は、長年の間Siデバイスを超えるか超えないかという程度にとどまっており、従来と比較して大きなインパクト与えられる特性が実現できていなかった。

  ロームではゲート熱酸化膜形成法とアニール技術を開発することでチャネル移動度を大幅に向上させることができた。加えて、独自の微細化技術によってセルピッチを従来の16μmピッチから10μmピッチまで微細にし(図1)、さらにチャネル長もサブミクロンとすることで、チャネル抵抗を従来の3分の1に減らすことができた。これらの技術によって、単位面積当たりオン抵抗は世界最小クラスの3.1mΩcm2を達成(図2)。この値は同耐圧で比較したSi−DMOS理論限界の約80分の1の低オン抵抗である。またSi−IGBTに対しても低オン抵抗で大幅に高速であるため、例えばモーター制御インバータではIGBT置き換えにより電力損失を大幅にカットできるか試算がる。

オフ特性は耐圧構造であるガードリングなどを工夫することで、現在600V/900V/1200V級のラインアップが完了した。リーク電流は非常に低く、室温〜250℃の間で1μA以下である。SiC−DMOSでは高温でも動作できることがもうひとつの大きな魅力である。従来のSiデバイスではバンドギャップが1.12eVと小さいために150℃以上でデバイスが動作しなくなっていた。

  SiCではバンドギャップがSiの約3倍程度大きい(3.2eV)ためにさらに高温まで動作が可能ある。このため高温環境下での動作を要求される車載用などで注目が高い。今後、市場ニーズの大きい10−20Aクラスへ向けて大電流化を進めていく予定である。

SiC−SBD

  SiCを用いたSBDの最大の特徴は、trr(逆回復時間)が速いことである。SiC−SBDでは少数キャリアの蓄積時間が存在しないために、Si高速整流ダイオードよりも高速のスイッチオングが可能である(図3)。このため、従来よりもスイッチング損失が小さく、電源を効率化することができる。また、DMOS同様SiC−SBは高温動作も可能で、高温においてもtrrが変化しないため動作時に高温になるシステムのおいては、Siデバイスに対し効率化がより大きくなる。

シリコンSBDでは、バンドギャップが狭いため逆方向の耐圧に限界があったが、ワイドバンドギャップ材料のSiCでは適切なショットキーメタルの選択により600−1200Vの高耐圧デバイスが可能になる。ロームではショットキー電極にモリブデンを採用し、様々なプロセスの改良を重ねた結果、電流〜100A、耐圧600Vのデバイスの試作に成功。現在、市場の要求に基づき、100A以上の大電流品、1200V高耐圧品の開発を継続している。【ローム】