特集:電源モジュールと電源用部品技術

スパークキラーの技術

【写真1】汎用スパークキラー

≪スパークキラーとは≫

  電気信号を機械的な動きに変換する場合、電磁気系の機構部品が使用されている。電磁リレー、電磁弁(ソレノイドバルブ)などが代表的なものであり、いずれもインダクタの働きにより動作している。インダクタは駆動回路の開閉によってエネルギーの大きい、いわゆる逆起電力(逆起電圧サージ)を生じ、開閉回路(スイッチ)が有接点の場合、接点部分にスパーク(火花)が生じ電磁波が発生して周囲の電子回路に妨害を与える原因となる。さらに接点自体もスパークにより接触面の溶着など著しく消耗、変形し、接点寿命を短縮させる。開閉する回路がトランジスタやサイリスタなどの半導体素子の場合は、逆起電圧サージがその素子の耐電圧を超えた時、一瞬のうちに破壊される。

  この逆起電圧サージや接点でのスパークを防ぐために用いられる部品を、岡谷電機産業ではスパークキラーと呼んでいる(その他、サージキラー、CRスナバ、CRアブソーバなど多様な呼ばれ方がされているが、すべて同様な部品である)。


【図1】スパークキラー回路図

 

【図2】スパークキラーの基本的適用回路例

≪スパークキラーの構造と原理≫

  スパークキラーはフィルムコンデンサと抵抗器で構成された複合部品(図1)であり、基本的な適用回路例を図2に示す。以下に各部品の働きを記す。

1)フィルムコンデンサ
  スパークキラーには一般的なメタライズドフィルムコンデンサが使われている。特に海外安全規格認証品のスパークキラーにおいては、フィルムコンデンサ単体でも、安全規格認証試験をクリアできるだけの特性を持つコンデンサ素子が採用されている。

  スパークキラーの働きを見る上で、フィルムコンデンサの果たす役割は重要である。スパークキラーをインダクタ負荷に並列に接続し、その回路接点(スイッチ)が開かれた時、フィルムコンデンサには負荷から発生した逆起電圧サージが流れ込む。ここでフィルムコンデンサの電圧が上昇しきらない間に接点が完全に切れてしまえば、サージエネルギーの大部分がコンデンサに流れ込むこととなり、接点部分にはほとんど表れないため、接点の電流はゼロとなり接点に影響を及ぼすことはない。

  以上から、スパークキラーに使用されるフィルムコンデンサは負荷から発生したサージエネルギーを吸収する働きがあるため、接点開放時の火花消去やサージ電圧の抑制を考えれば、サージエネルギーを吸収した際に電圧が高くならないよう、十分大きな静電容量のフィルムコンデンサが最適である。ただし、交流電源回路において回路接点と並列に静電容量の大きなスパークキラーを接続した場合には、スパークキラーに流れる漏れ電流の影響により、誤動作を引き起こしてしまう可能性がある。そのため、交流電源回路においては負荷と並列にスパークキラーを接続することを推奨している。

  なお、スパークキラーに使用されるフィルムコンデンサの静電容量は、負荷回路の定常時の電流値を用いて、以下の計算式から算定することができる(この計算式で求められる値はサージ抑制効果が期待できる目安の値となるため、部品選定時には実装試験において効果を確認することが必要である)。

C=I2/10〜20(μF)
※I=定常時の負荷電流(A)


2)抵抗器
  スパークキラーに使用される抵抗器を選定する上で最も重要な点はサージ耐力である。

 一般の皮膜抵抗器の場合、サージエネルギーが印加されると皮膜上のトリミング部で放電が起こり、その部分でショート故障が発生してしまう。

  そのため、弊社スパークキラーでは無誘導構造でサージ耐力に優れた特殊抵抗器を採用している。

  次に抵抗器の働きについて説明する。例えばフィルムコンデンサだけがインダクタンス負荷を制御している接点の両端に接続されている場合を考えると、接点投入時に過大な放電電流がフィルムコンデンサから流れてしまい接点の溶着を引き起こしてしまう。そのため、スパークキラーは抵抗器をフィルムコンデンサに直列に接続することで、接点投入時の電流を制限し、フィルムコンデンサが吸収したサージエネルギーの減衰をすみやかにする働きを持っている。

  ただし、抵抗器は接点開放時のサージ吸収効果を弱めさせるため、スパークキラー選定時には実装による実験値を用いて決定することが無難である。フィルムコンデンサの静電容量にもよるが、一般的には抵抗値として10〜470Ω程度の抵抗器が採用されている。

≪サージ吸収効果例≫

  逆起電圧サージを抑制する部品としてはスパークキラーとバリスタがある。以下に両者の特徴をまとめる。

1)スパークキラー
  逆起電圧サージのピーク値と高周波成分、および急峻な立ち上がりを抑制し、波形全体を減衰させる効果がある。以下に吸収効果例を示す。

2)バリスタ
  バリスタ電圧で規定された以上のサージ電圧が印加された場合、サージ電圧のピーク値を抑制する効果があるが、バリスタ電圧以下のものには効果を発揮しない。

≪各種スパークキラー製品の紹介≫

 

1)汎用スパークキラー(写真1)
  主要海外安全規格を取得した汎用型スパークキラー。フィルムコンデンサの静電容量と抵抗値の組み合わせが豊富にあり、最適な定数選定が可能である。各種電気・電子機器、空調機、事務機など幅広く採用されている。

2)電磁開閉器用スパークキラー(写真2)
  電磁開閉器は各種産業機器や付随する制御盤、工場やビルなどの受電盤に使用されている。電磁開閉器もインダクタで動作する製品であるため、それ自身から発生する逆起電圧サージとともに、制御対象の負荷から発生するサージは周辺の制御回路や電子部品の誤動作や破壊を引き起こす要因となってしまう。電磁開閉器用スパークキラーにはコイルサージ吸収用と主回路サージ吸収用があり、主要な電磁開閉器に直付け可能な製品をラインアップしている。

3)産業機器用スパークキラー(写真3)
  2)同様、各種産業機器に幅広く採用されており、200V系(定格電圧250VAC)および400V系(定格電圧500VAC)で単相タイプ、3相タイプをラインアップしている。端子形状が絶縁被覆電線仕様のため、機器のスペースに合わせた引き回し配線が可能である。

 

まとめ
  多くの電気製品において、インダクタ負荷を制御する開閉回路が存在していることから、逆起電圧サージの抑制や接点保護の対策が必要で、市場要求に適合した製品の展開が求められている。また、最終製品のメンテナンスフリー設計が進んでいることから、接点部分の長寿命化も要求事項となってきており、最適な対策部品を選定する必要がある。

  弊社では、各種スパークキラー製品をラインアップし、顧客要求に対応した製品を提供することで、Customer Solutionを実現していく。

<米山 剛:岡谷電機産業(株)ノイズ事業営業部>