酸化物界面の電気伝導特性

酸化物と導電性有機物で透明なTrを開発
図1

【図1】ゲート電圧による電子密度の制御とそれに伴う電気伝導率の変化。
ゲート電圧で電子の密度を任意に調節することが可能であり、
結果として電気の流れやすさである電気伝導率のON/OFFを実現できている様子が分かる

  東北大学原子分子材料科学高等研究機構の川崎雅司教授らは、科学技術振興機構(JST)目的基礎研究事業の一環として、酸化物界面の電気伝導特性を有機物を用いた電界効果で制御することに成功したと発表した。この成果は透明で安全、安価なトランジスタの実現につながり、ディスプレイや太陽電池への適用が期待される。酸化亜鉛(ZnO)とマグネシウムを添加した酸化亜鉛(MgZnO)とからなる積層薄膜の界面には二次元電子(注)が蓄積されており、高い電気伝導性を示す。

  導電性高分子の一種であるpoly(3、4−ethylenedioxythiophene):poly(styrenesulfonate)(以下PEDOT:PSS)がZnOに対して良質なショットキー電極として働くことに着目して、PEDOT:PSSをゲート電極とするFETを開発した。その結果、MgZnO/ZnOヘテロ接合界面の二次元電子の電気伝導特性を電圧印加により制御することに成功した。素子への印加電圧の変化に対して、二次元電子の密度はONからOFF状態まで直線的に変化する(図1左軸)。また、二次元電子の密度を制御することにより、電気伝導率を制御することに成功した(図1右軸)。

  今回の成果はPEDOT:PSSがMgZnO/ZnOヘテロ接合に対して優れたゲート電極として働くことを示している。同様の手法を他の酸化物半導体に適用することも原理上は可能である。PEDOT:PSS薄膜は室温・大気圧の条件下で、市販の溶液を滴下して回転するという簡便な手法(スピンコート法)で作成できる。また、FETを構成する材料は透明で安価かつ無害である。ディスプレイ、電子ペーパー、太陽電池など多岐にわたる透明エレクトロニクスへの応用が期待される。
(注)二次元電子:半導体と絶縁体、または異なる半導体同士の接合界面において、界面に並行な二次元平面のみに運動方向が制限された電子のこと。