組み込みプロセッサデバイス

 電子機器のスマート化、インテリジェント化に伴いマイクロコントローラ(マイコン)などの組込みプロセッサデバイスの需要拡大、技術進化が続いている。消費電力や価格を抑えながら、性能や信頼性などを向上させている。デュアルCPUコア搭載型の高性能マイコンや、ボタン電池1個で10年以上の動作を実現する超低消費電力マイコンなどが開発されている。

 多くの組込み機器の頭脳となる「マイコン」は、小さなチップの中に、プログラムを処理するCPUをはじめ、プログラムを格納するメモリー、そして外部との通信や特定の処理を行うペリフェラルなどと呼ばれる「周辺回路」を集積している。デジタル化、ネットワーク化が進む中で、マイコンはあらゆる機器に必要となり、マイコン需要は拡大し続けている。世界半導体統計(WSTS)によると、マイコンを中心とした「MOSマイクロ」の市場規模は10年から13年の4年間で年平均6.1%と、アナログ、ロジック、メモリーといった製品分野を凌ぐ高い成長が予測されている。

 その中でマイコンは、多種多様な用途それぞれのニーズに応じるべく、様々な技術トレンドに沿って開発が続いている。その中で、昨今のマイコンに対する大きなニーズは「低消費電力」「高性能化」「利便性」といった部分が多い。

低消費電力と高性能を両立
「低消費電力」では、主に2つの要素がある。1つは「低消費電力と高性能の両立」。高性能マイコンを中心に、消費電力を抑えたまま、いかに処理性能を上げることができるかということが求められる。これを実現する技術としては、CPUコア自体を効率的なコアにすることや消費電力を抑えながら動作速度を速めることができる製造プロセスの微細化がカギを握る。昨今では90ナノ、65―55ナノという「ナノレベル」の微細プロセス採用品も登場。特に、車載向けマイコンでは、複雑なエンジン制御などに対応する高性能マイコンが要求されていることから、他の用途向けマイコンに先行して、微細プロセス技術が導入される傾向が強く、12年中にも40ナノプロセスを採用した製品の出荷が開始される。さらにパソコンやサーバー用プロセッサで定着しているCPUを複数個搭載する「マルチコア技術」のマイコン適用も徐々に始まっている。マイコンでのマルチコア技術は、消費電力を抑えながら性能向上を実現するという側面以外にも、2つのCPUで同一の処理を行い処理が正常に行われているか確認するといった信頼性を向上させる技術という側面も持っている。

待機時の電力低減
また低消費電力化のもう1つの要素は「待機電力の低減」という要素がある。バッテリ駆動の機器が普及する中でニーズは強まる傾向にある。待機電力低減には、漏れ電流(リーク電流)を抑えるなど低消費電力化を追求した製造プロセスの開発、適用が行われる。その上で、CPUコアだけでなく、メモリー、ペリフェラルを含むデバイス全体の回路を最適化し、待機時に不要な回路への電源供給を遮断するなど、システム的なアプローチで待機時の電力低減を追求。最新の製品では、1μAを切る待機時消費電流を実現する超低消費電力マイコンが登場している。

マイコンの搭載点数増や高性能化などに伴い、プログラム開発規模が増大、複雑化する中で、「利便性」へのニーズも高まっている。例えば、一度開発したソフトウエアの流用性を高める動き。USBやイーサネットなど用途、機器を問わず、共通の機能が増える中で、機器開発ごとにソフト開発を行うとその負荷は膨大となる。そこで、各社は、スペックが異なるマイコンでも互換性を持たせ、ソフトウエアを共通化したり、自動的に各マイコンにソフトを最適化するツールを提供したり、利便性を高める工夫を実施している。

これまで各マイコンメーカーは、独自のCPUコアを搭載した製品を投入していたため、異なるメーカーのマイコンにソフトを移植することは、ソフトウエアの変更や開発ツールを買い換える必要などがあり、負荷が大きかった。しかし昨今では、英アーム社が開発する汎用CPUコア「ARMコア」を搭載したマイコンが各社から発売され、ARMコア搭載マイコン同士であれば、メーカーが異なってもソフトを流用しやすく、開発ツールも同一のものが使用できるという環境も整いつつある。

さらに昨今では、マイコンメーカーが、マイコンを動作するために必要なソフトウエアをあらかじめ開発し、製品とともにユーザーに提供するサービスも定着しつつある。それらソフトウエアの中には、規格・仕様策定団体から認証されているなど完成度の高いソフトウエアも多く、ユーザーは大きなソフト開発負担なしに最終製品にソフトを実装することもできる。ソフト開発に不可欠な開発ツールも数百―数千円と、より手頃な価格ながら本格的な機能を持つ製品も提供されており、マイコンの利便性、使いやすさは日々進化している。