デンソー/東北大/筑波大など

FeNi超格子磁石材料の高純度合成に世界で初めて成功


 NEDOプロジェクトにおいて、デンソーを主体とする東北大学、筑波大学の産学連携グループは、鉄とニッケルが原子レベルで規則配列したFeNi超格子※1 磁石材料の高純度合成に世界で初めて成功した。

 FeNi超格子磁石は、高い磁石性能を期待されており、今回の成果は高性能レアアースフリー磁石の実用化を大きく前進させるもの。

1.概 要

 現在、日本における総消費電力の過半はモーターが占めている。加えて、自動車の電動化に伴い、今後モーター需要の拡大が予想されている。そのため、中長期的なエネルギー需給戦略でモーターの省エネ化は最重要課題の一つとなっている。

 モーターの効率は磁石や鉄心(軟磁性材料)などの磁性材料に大きく依存するが、NEDOプロジェクトにおいて、高効率モーター用磁性材料技術研究組合(MagHEM)では、供給リスクの高い重希土類元素(主にジスプロシウム)、さらには希土類元素(主にネオジウム)を使用しない革新的高性能磁石の開発に取り組んでいる。

 鉄とニッケルが原子レベルで規則配列したL10型の規則合金であるFeNi超格子は、1960年代に鉄隕石中から発見され、レアアースフリーでありながら高い磁石性能を持つことが予測されている。

 MagHEMの組合員であるデンソー 先端技術研究所が主体となって、東北大学 金属材料研究所と構造解析を、筑波大学 数理物質系と合成方法の開発を行う産学連携グループにおいて、50年以上に渡って誰も成し得なかったFeNi超格子磁石材料の高純度合成に世界で初めて成功した。

 今回、新たに開発した合成方法は、ガスとの反応を用いたシンプルなプロセスで工業的な生産に適していることに加えて、磁石材料に求められる単一相で粉末形状のFeNi超格子を得ることができる。この成果は、希土類元素を全く使用しない高性能レアアースフリー磁石の実用化を大きく前進させるものとなる。今後は、FeNi超格子磁石材料のモーター用永久磁石への適用を目指して、高い性能を引き出す材料形状や成形法を検討していく。

2.今回の成果

【1】FeNi超格子磁石の合成方法

 一般的に規則合金は、ランダム合金を熱処理し、原子を拡散させることで得られる。FeNi超格子の場合、規則化するための熱処理温度が320℃以下と低く、規則化には10億年以上と天文学的な時間を要する。これまでに、拡散を促進するアプローチとして、中性子照射、高圧ひずみ加工、アモルファス金属のナノ結晶化などが提案されてきたが、規則度が低い、もしくは、含有率が低いといった課題が残されていた。

 これを達成するために、規則化した安定中間物を経由した規則合金形成プロセスであるNITE(Nitrogen Insertion and Topotactic Extraction)法を新たに考案した。NITE法(図1)では、原料である(a)FeNiランダム合金の粉末を窒化することで、規則化した(b)FeNi窒化物を合成し、その後、規則構造を壊すことなく窒素原子を引き抜くトポタクティック脱窒素により、短時間で高い規則度の(c)FeNi超格子を得ることができる。具体的には、窒化はアンモニアガスとの反応、トポタクティック脱窒素は水素ガスとの反応によって行う。これらは非常にシンプルなプロセスであることから、工業的な生産に適している。
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[引用元:東北大学]

【2】合成したFeNi超格子の構造
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[引用元:東北大学]

 NITE法で得られた粉末試料のX線構造解析結果(図2、なお左側は25°〜45°を50倍に拡大)、トポタクティック脱窒素後の試料のSTEM−EDX像※2 から、FeとNiが原子レベルで規則的に配列していることが明らかになり(図3)、FeNi超格子の合成に成功したことが確認された。また、中間物であるFeNi窒化物が単一相で得られていることからも、FeNi超格子も単一相で得られているものと考えられる。
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[引用元:東北大学]

3.今後の予定

 開発したNITE法は、ガスとの反応を用いたシンプルなプロセスであるため工業的な生産に適している。加えて、FeNi超格子を単一相で、磁石化に適した粉末形状で得ることができる。これらの成果は、高性能レアアースフリー磁石であるFeNi超格子磁石の開発を飛躍的に加速できると期待される。

 今後は、FeNi超格子磁石のモーター用永久磁石への適用を目指して、保磁力をさらに高めるための結晶方向の整列、粒子形状制御や成形法を検討していく。

【用語解説】

※1 FeNi超格子:Fe原子層とNi原子層が規則的に積層された結晶構造で、結晶の規則度が高いほど、高い磁石特性が期待できる。ネオジム磁石に匹敵する磁力を持ち、磁力を失うキュリー温度が550℃以上と高いため、高温が想定される車載モーター用磁石として期待されている。

※2 STEM−EDX像:走査型透過電子顕微鏡STEM(Scanning Transmission Electron Microscope)とエネルギー分散型X線分析EDX(Energy Dispersive X−ray analysis)を組み合わせることで、材料の原子像や構成する元素とその濃度を調べることができる。

<資料提供:東北大学>