東工大、産総研など

人工光合成システム大規模化に道

<概要>

 東京工業大学理学院化学系の竹田浩之特任助教、加美山紘子大学院生(当時)、関根あき子助教、石谷治教授らは、産業技術総合研究所の小池和英主任研究員らと共同で、銅錯体とマンガン錯体から成る光触媒に可視光を照射すると二酸化炭素(CO2)が、一酸化炭素(CO)やギ酸(HCOOH)に効率良く還元されることを発見した。この効率と耐久性(量子収率57%、ターンオーバー数1300回以上)は、これまで知られていた卑金属を用いた光触媒の性能を大きく凌ぎ、ルテニウムやレニウムといった貴金属や稀少金属を用いた高効率金属錯体と同等もしくはそれ以上だった。

 現在、地球温暖化対策として、温室効果ガスであるCO2を還元資源化する技術が求められている。これまで高効率CO2還元光触媒には、貴金属や稀少金属が用いられていたため、光触媒を使ったCO2の大規模な還元による資源化の足かせとなっていた。

 今回、従来の高効率光触媒と比較して勝るとも劣らない特性を持った新たな光触媒系を銅とマンガンの錯体だけで作製することに成功した。地球温暖化対策としての人工光合成システムの大規模化への道を開くことができた。

<研究成果>

 研究グループは、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(CREST)の支援のもと、銅錯体とマンガン錯体から成る光触媒を作製し、可視光を照射することで二酸化炭素(CO2)を一酸化炭素(CO)やギ酸(HCOOH)へ高効率に還元できることを見いだした(図)。

画像1
[図]銅(Cu)錯体とマンガン(Mn)錯体を
組み合わせたCO2還元光触媒反応

 銅は電線や十円玉の原料として、マンガンは乾電池の正極として用いられており、身近な金属。これらは鉱山で多量に採掘される比較的安価な金属元素である。今回の研究成果により、安価で多量に使える卑金属しか含まない光触媒でも、高効率なCO2還元光触媒反応を進行させることが可能であることを見いだした。

<背景>

 近年、地球温暖化の主な要因となっているCO2を資源化するための光触媒開発が世界中で活発化してきた。この人工光合成と呼ばれる技術が実用化できれば、大気中CO2濃度の上昇抑制に資するだけではなく、将来的に枯渇が心配されている化石資源の代替として有用な炭素資源をCO2を原料にして、太陽光だけをエネルギー源として合成できるようになる。

 これまで開発されてきた高効率なCO2還元光触媒反応は、レニウムのような地球上にわずかしか存在しない希少な金属、ルテニウムのように高価な貴金属を光触媒として用いなければ駆動しなかった。

 世界で排出されているCO2は、年間約330億トンに及ぶ(2018年版EDMC/エネルギー・経済統計要覧)。CO2は温室効果ガスとして大幅に削減しなければならないが、既存の高性能光触媒では素材コストの問題などから、あまり利用できなかった。元素戦略的な見地から光触媒の開発研究が盛んに行われているが、これまで報告されている卑金属を用いたCO2還元光触媒の耐久性は低く、その効率も満足のいくものではなかった。

<研究の経緯>

 石谷教授らは、これまでも卑金属を用いたCO2還元光触媒の開発を行ってきた。今回、発光性の銅錯体とマンガン錯体とを組み合わせた光触媒システムを開発し、可視光を照射して常温常圧でCO2を高効率に資源化することに成功した。この光触媒システムは、既存の貴金属を用いた高効率光触媒と比較しても勝るとも劣らない特性を有する。

 卑金属だけを用いた光触媒でも、太陽光を有効に活用することで地球温暖化の主因であるCO2を有用な炭素資源へと高効率に変換できることが明らかになった。大規模に人工光合成を実現するための第一歩と言える。

<今後の展開>

 今回の研究成果は、銅・マンガンのような地球上に多量に存在する材料群を用いて、太陽光をエネルギー源とした高効率CO2還元を世界で初めて実証した。今後は、この新たな光触媒の機能を向上させるとともに、地球上に多量に存在する安価な水を還元剤として用いる半導体光触媒との融合を目指す。

<資料提供:科学技術振興機構>