名古屋大学未来材料・システム研究所が人の動きから発電する発電シートを開発

 名古屋大学未来材料・システム研究所の松永正広助教と大野雄高教授らのグループは、人の動きから発電する透明で伸縮性を持つ発電シートを開発した。この発電シートは静電気の一種である摩擦帯電現象を利用したもので、人の動作などの機械的なエネルギーを電力に変換することができる。

 この発電デバイスはカーボンナノチューブ(CNT)の薄膜を電極として用いることで、透明性と伸縮性を得るとともに、発電シートの厚さの低減を実現した。また、スプレーコート法という簡便な塗布法により、大面積の発電シートの作製に成功した。

 この発電シートを用いて、発光ダイオードを用いた自己給電型の近距離光通信や手袋型の発光デバイスの実証にも成功。この技術は将来的にウエアラブルデバイスの電源や接触センサー、配線不要でデザイン性の高いスイッチ類などへの応用が期待される。

研究の背景

 IoT社会が到来し、様々な場所・環境において温度や湿度、振動などの様々な情報を得るためのセンサーの需要が急激に伸びている。これに伴い、電池に代わる交換不要な電源の開発が望まれている。その中で、環境に存在する微小なエネルギーを電力に変換する環境発電(エネルギーハーベスティング)技術が注目されている。

 今回の研究で着目している摩擦帯電型発電は、摩擦により生ずる帯電現象を利用した環境発電技術の一つ。摩擦帯電型発電を用いて、人の動作から発電し、ウエアラブルデバイスの電源に応用することを目指して、カーボンナノチューブ導電膜とシリコーンゴムを用いることで、透明で伸縮性に優れた発電シートを開発した。この発電シートは表面を手に触れることで、その機械的エネルギーを電力に変換する。また、表面処理技術を活用することで発電シートの透明性・伸縮性を損なわずに高出力化を実現した。

成果の内容と意義

1.透明で伸縮可能な摩擦帯電型発電シートを実現

 カーボンナノチューブ薄膜を電極材料ととして用いることで、透明で人の動作に追従可能な伸縮性を持つ摩擦帯電型発電シートを実現した。

 作製した発電デバイスは、透明なシリコーンゴムでカーボンナノチューブ薄膜を挟んだ簡易な構造で、90%以上の高い光透過率をもつ(図1a、b)。この発電シートの表面を手で触れることにより、その機械的エネルギーが電力に変換される。カーボンナノチューブ導電膜を簡便なスプレーコート法により成膜し、12×12センチメートルの大面積発電シートも実現した。

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(図1a、b、c)

 また。発電シートの表面をプラズマ処理によって改質することにより、発電能力を8.0W/平方メートルまで向上させることにも成功した。これにより、直列に100個接続した青色発光ダイオード(LED)を点灯させることも可能(図1c)。加えて、発電シートを引き伸ばしても発電能力が落ちないことを確認した。

2.発光ダイオードを用いた自己給電型光通信デバイスの実現

 開発した発電シートを用いて、タップやスワイプといった直感的な手の動作により、通信を行うことのできる自己給電型の光通信技術を実証した。カーボンナノチューブをスプレーにより塗布する際に、マスクを設置して発電用の3つの電極と配線を一括形成し、異なる色のLEDを埋め込んだ一体型の光送信デバイスを作製した(図2a)。

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(図2a、b、c)

 このデバイスは、手で触る場所の違いによって、異なる色のLEDが発光し(図2b)、その色の組み合わせや順番によってさまざまな光信号を送信できる。図2cはスワイプ動作により青色LEDと緑色LEDを点灯(送信)させ、Arduinoという小型コンピュータで信号を受信・表示させた様子である。例えば、配線不要で透明でデザイン性の高いスイッチ類などへの応用が考えられる。

3.手袋型発光デバイスの実現

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(図3a、b、c)

 本研究で開発した発電シートを用いて、拍手をすると光る手袋型発光デバイスを実現した。このデバイスでは、手の平側に発電シートを手の甲側に青色LEDを設置し、カーボンナノチューブを用いて配線している(図3a、b)。この手袋型発光デバイスは、拍手によって接続された青色LEDが発光するの(図3c)。またカーボンナノチューブを用いて発電シートと配線を形成したことで優れた伸縮性と耐久性を持ち、手袋の脱着も可能であり、人体への装着性を実証している。これは、ウエアラブルデバイス応用の可能性を示すものである。<資料提供:名古屋大学>