産業技術総合研究所

衛星マイクロ波センサーが取得した全SARデータのカラーレーダー画像を公開

 産業技術総合研究所(産総研)は、保有するAI(人工知能)処理向け計算機ABCIを用いて、衛星マイクロ波センサーPALSARが取得した全てのSARデータの画像処理を行った。また、全世界を対象に地表面の状態に応じて色分けされたカラーレーダー画像を作成し公開した。

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 衛星データは観測領域が広いため得られるデータ量が多い。従来は衛星の観測能力と取得したデータを処理する計算機能力にギャップがあり、取得した全データをタイムリーに全数処理することが困難で選択的なデータ処理が行われてきた。

 近年では衛星能力の向上に伴って観測の広域化、高解像度化が進み、取得されるデータ量が一層増加。世界的に社会活動や企業活動の一部としての衛星データの利用が拡大し、衛星が取得したデータのタイムリーな全数処理が、衛星データの提供者と利用者の双方から求められている。

 産総研では資源探査を中心にJERS-1(OPS、SAR)、ASTER、PALSAR、HISUIなど衛星搭載センサーの開発や利用法の研究、新規センサー開発に関する研究を行ってきた。

 18年にはABCIの稼働に合わせ、ビッグデータの一つである衛星データにAI技術を適用。大量のデータから効率的に地表面にあるモノや地表面の変化を識別し、その要因や発生している事象を認識するための研究を進めると同時に、高温検知システムHotareaや、ゴルフ場、メガソーラー(太陽光発電所)などの教師データのセットを公開してきた。

 最近では衛星データの中でも、画像の判読は難しいものの天候や昼夜の影響を受けないSARデータに注目し、地表面上のモノや変化を容易に識別・認識するための研究を推進。今回、経済産業省と宇宙開発事業団(現宇宙航空研究開発機構=JAXA)が開発したPALSARのデータを用いて評価・検証を行った。

 ABCI上での衛星データ処理の実用性を確認するため、産総研が保有するPALSARデータを用いて@処理環境の構築A一部のデータを用いた処理動作と精度の確認B全数データ処理の順序で実施した。

 処理環境の構築では、ビッグデータ処理での利用が拡大しているコンテナプラットフォームや商用のSARデータ解析ソフトウエアを利活用し、ABCI上にSAR画像処理環境を構築。その後、PALSARデータの一部を用いて画像処理が正常に行われること、また作成したPALSAR画像の精度が、JAXAが提供するPALSAR画像と同等であることを確認した。

 以上の準備の後、5年3カ月のPALSAR運用期間に取得された約200万シーン(1日平均約1千シーン)のデータに対し、ABCIを用いた並列処理(300)により、約3カ月(1日平均約2万シーン)という短期間で全データの画像処理を終えた。

 続いて、衛星データの全地球全数処理の有用性を示すため、4偏波モードで取得したPALSARデータを用いて散乱電力分解を行い、地表面の状態(散乱モデル)に応じて色分けしたカラーレーダー画像として地図化した。散乱モデルは主に4種あり、カラーレーダー画像では表面散乱を青色に、二回反射散乱を赤色に、体積散乱を緑色に色分けした。

 なお、ヘリックス散乱は赤色と緑色に均等に割り当てた。

 SAR衛星は夜間や降雨時にも観測でき、世界中の地表面情報を定期的に取得可能。そのため、地表面上のモノや変化の識別・認識が容易となるカラーレーダー画像を作成して公開することで、大規模違法伐採監視や広域での米の生産量管理のほか、グローバルな水産管理、インフラ保全といった地球規模の社会課題解決への貢献が期待できる。また、成果をオープン&フリーポリシーで公開することで新たな衛星データ利用の創出を期待するだけでなく、政府系衛星データの一層のオープン&フリー化の推進に寄与していく。