超小型アンテナスイッチモジュールの技術

五井智之:TDK(株)ネットワークデバイスB.Grp
高周波Gモジュール商品開発部モジュール開発課

  
 近年の携帯電話の進化に伴い、RFフロントエンド部に一層の小型化、軽量化、低背化が望まれている。また、欧州統一規格であるGSMシステム(Global System for Mobile Communications:900Mヘルツ帯)においては、利用者の増加に応えるべく、新たにDCSシステム(Digital Cellular System:1800Mヘルツ帯)が導入され、どちらでも使えるデュアルバンド対応機が主流となっている。図1にGSM/DCSデュアルバンドシステムのRFブロック図を示す。
 GSM/DCSデュアルバンドシステムのRFフロントエンド部の機能として、バンド選択、送受信切り替え、送信系高調波除去、受信系帯域通過フィルタリングが必要とされる。これらの機能は、それぞれ、ダイプレクサー、アンテナスイッチ、ローパスフィルター、バンドパスフィルターなどの回路で実現でき、これらを組み合わせることでRFフロントエンド部としての全体機能を達成できる。しかし、小型化、多機能化及びセット開発の高効率化などが要求されるにつれて、RF回路部の小型モジュール化が必須となってきた。
一般的に、これらの機能を持ち合わせたモジュールをアンテナスイッチモジュール(またはフロントエンドモジュール)と呼ぶ。モジュールのさらなる小型化が要求される中、TDKではファイン積層セラミクス技術およびチップサイズパッケージング技術でこれに対応し、世界最小サイズの超小型アンテナスイッチモジュールを開発した。

図1
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GSM/DCSデュアルバンドシステムのRFブロックズ


  ◆ファイン積層セラミクス積層技術
 TDKのファイン積層セラミクス技術の特徴は、誘電率の異なるセラミクス材料を同時に焼成できる点にある。  また、これらのセラミクスは低温同時焼成セラミクス(LTCC:Low Temperature Co―fired Ceramics)技術によって、銀や銅などの高導電率の導体材料も同時に焼成できる。これらの技術を生かして、インダクター、キャパシターを、ぞれぞれ低誘電率材料層、高誘電率材料層に構成し、導体に銀を選ぶことで、アンテナスイッチモジュールの小型化、高集積化、高性能化の実現が容易となった。
 このようなパッシブインテグレーションはTDKの得意とする技術である。上記のアンテナスイッチモジュールでは、30以上ものキャパシターおよびインダクターが必要となるが、これらをすべてLTCC多層基板に内蔵することが可能である(図2)。

図2
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アンテナスイッチモジュールノ断面構造


 ◆チップサイズパッケージング技術
 しかし、アンテナスイッチモジュールを構成する部品のすべてをLTCC多層基板に内蔵することは不可能で、半導体素子及び抵抗などは多層基板上に搭載する。また、バンドパスフィルターには弾性表面波(SAW:Surface Acoustic Wave)フィルターが使われることが多く、モジュール化の際にはSAWフィルターも多層基板上に搭載することになる。
 SAWフィルターは多層基板上に搭載する他の素子に比べ、一般的にサイズが大きく、アンテナスイッチモジュールの小型化、低背化への弊害となるが、裏を返せば、SAWフィルターの小型化がダイレクトにアンテナスイッチモジュールの小型化につながるともいえる。SAWフィルターは、その気密性及び機械的強度を保つために、セラミクスやプラスチックス、金属材料などでパッケージングされる。しかしながら、このようなパッケージがSAWフィルターの形状を必要以上に大きくしているといわざるを得ない。
SAWフィルターがモジュールに搭載される場合、SAWフィルター単体でのパッケージの機械的強度は搭載に耐える程度でよく、むしろ気密性が重要視される。
 モジュールの部品搭載面にシールドケースを接合すれば、SAWフィルターを含む表面実装部品は保護され、モジュールとしての機械的強度は保たれる。
 TDKではこのような観点から、薄層樹脂シール技術を用いてSAWフィルターを気密封止し、チップサイズパッケージ(Chip Size Package:CSP)型SAWフィルターの開発に成功した(写真1)。
 CSP内部には、フリップチップボンディングされたデュアルバンド(GSM/DCS)SAWフィルターチップを内蔵し、デュアルバンド対応でありながら、従来のシングルバンドと同等サイズ(2.5mm×2.0mm)でかつ低背化(0.8mm)を実現した。このCSP型デュアルバンドSAWフィルターは、通常のSMT実装が可能で、鉛フリーハンダにも対応している。
写真1
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CSP型デュアルバンドSAWフィルター


  ◆CSP型デュアルバンドSAWフィルター搭載アンテナ   スイッチモジュール
 一方、アンテナスイッチに使われる半導体素子もモジュールの小型化へのキーデバイスである。アンテナスイッチとしては、PINダイオードを使ったダイオードスイッチ、GaAs―FETを使ったFETスイッチがある。今回、TDKではダイオードスイッチとFETスイッチを使った2種類の超小型デュアルバンドアンテナスイッチモジュールを開発した(写真2)。
(1)ダイオードスイッチタイプ
 PINダイオードタイプのデュアルバンドアンテナスイッチモジュールは、PINダイオード4個、インダクター1個、キャパシター1個、抵抗2個、CSP型デュアルバンドSAWフィルター1個をLTCC多層基板上に搭載している。形状は7.4mm×4.0mm×1.8mmで、従来品と比較して、面積比で約3割の削減を達成した。電気的特性を図3に示す。
 また、受信系は、RF―ICのLNA平衡入力に対応するために、デュアルバンドで平衡出力(100Ω)となっており、外部にマッチング回路を付加するだけで、アンテナスイッチモジュールをインピーダンスの異なる各社ICメーカーのLNA内蔵RF―ICに接続することができる。図4にアンテナスイッチモジュールとLNA内蔵RF―ICとの推奨マッチング回路の一例を示す。
(2)FETスイッチタイプ
 GaAs―FETタイプのデュアルバンドアンテナスイッチモジュールは、GaAs―FETスイッチ(SP3T)1個、キャパシター1個、抵抗1個、CSP型デュアルバンドSAWフィルター1個をLTCC多層基板上に搭載している。
 形状は、5.4mm×4.0mm×1.8mmで、従来品と比較して、面積比で4割以上もの削減を達成した。電気的特性を図5に示す。
 また、送信用パワーアンプの出力利得を一定に制御するために必要なカップラー(デュアルバンド対応)もLTCC多層基板に内蔵している。形状はダイオードスイッチタイプよりも小型であるのにもかかわらず、電気的特性は同等レベルである。
  写真2
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  図3
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  図4
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  図5
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CSP型デュアルバンド SAWフィルター・・・
ダイオードスイッチタイプの電気的特性
LAN内蔵RF-ICの推奨マッチング回路
FETスイッチングタイプの電気的特性


  ◆今後の予定
 CSP型SAWフィルターを搭載したアンテナスイッチモジュールとして、GSM/DCSデュアルバンド対応から、GSM/DCS/PCS(Personal Communications Service:1900Mヘルツ帯)のトリプルバンド対応、次世代携帯電話対応、RF―IC平衡入力対応(受信系平衡出力)など幅広く開発を進めていく。
 なお、CSP型デュアルバンドSAWフィルター搭載アンテナスイッチモジュールの本格的な量産は、2002年1月からの予定である。




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