Ni電極積層セラミックコンデンサーX5R特性シリーズ

伊藤考喜:TDK-MCC(株)秋田工場第2技術部

◆はじめに
 高度情報化社会、マルチメディア化が急速に進展する中で、電子機器の携帯化、パーソナル化が進み、パソコンや携帯電話などの電子機器が急速に普及している。これらの電子機器はさらに高性能化、小型化が進み、価格競争も激化している。
 このような状況の中、電子回路を構成する受動部品にはより一層、低価格で小型、高性能製品が求められている。
 これらの要求に応えるため積層セラミックコンデンサーの内部電極は、従来製品の内部電極に使用されていたPd(パラジウム)などの高価な貴金属から、Ni(ニッケル)などの卑金属に置き換え、大幅な低価格化を実現してきた。
 また、素子形状の小型化、高静電容量化のために、誘電体層の薄層化と数百層にも及ぶ多層積層製品が実用化されている。
 今回、TDKが開発した積層セラミックコンデンサーX5R特性(―55゜C〜85゜C静電容量変化率:±15%以内)シリーズ(代表品名C4532X5R0J107M/L:4.5mm×W:3.2mm/6.3V/100μF)は、従来から量産化されているC5750X5R0J107M(L:5.7mm×W:5.0mm/6.3V/100μF)に使用しているチタン酸バリウム系材料のファイン化、高分散化によって信頼性を向上させ、誘電体材料の薄層化技術、内部電極材の薄膜化技術、高精度積層技術を駆使し、製品化、量産化を実現した。
 数百層にも及ぶ誘電体と内部電極の組み合わせは、積層体を構造欠陥のないように焼結体として形成するために、TDK独自の脱バインダー技術、焼成技術によって実現している。
 現行製品のC5750X5R0J107Mは現在量産されているが、素子形状が大きいために、コストが高く、顧客先での取り扱いが難しいという問題があり敬遠される傾向にあった。
 今回、C4532X5R0J107Mを開発したことによって、取り扱い上の問題をほぼ解決でき、コスト的にも素子の小型化により価格競争力が高まった。
 本製品は主に、低ESR、低ESLが要求されるサーバー、パソコンなどの電源部の平滑用コンデンサー、デカップリング用コンデンサーとして、DC/DCコンバーターの出力側のコンデンサー用としても実用化が期待できる。
 積層セラミックコンデンサーの特徴である低ESR化(約2mΩ)、高リップル対応、さらに100μFという高静電容量化によって、ESRの高いタンタル電解コンデンサー、アルミ電解コンデンサー、機能性高分子コンデンサーなどからの置き換えが、機能を向上させた形で可能となった。
 一方、電子機器では環境問題上、構成部品の鉛フリー化が推進されているが、今回開発したC4532X5R0J107MをはじめとするTDKの積層セラミックコンデンサーX5R特性シリーズは、すべて完全な鉛フリー製品であることも大きな特徴のひとつである。

写真
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積層セラミックチップコンデンサー卑金属X5R特性シリーズ


◆製品の特徴
◇製品の構造(C4532X5R0J107M)
 積層セラミックコンデンサーC4532X5R0J107Mの内部構造写真を図1に示す。
 構造的には、一層当たりの誘電体厚みが3.0μmで587層となっている。
 誘電体にはチタン酸バリウム系材料、内部電極材には卑金属のニッケルを用いている。
 本製品は、従来製品であるC5750形状X5R特性100μFを、材料のファイン化、高分散化によって信頼性を向上させ、誘電体層の薄層化技術、内部電極の薄膜化技術、高精度積層技術を駆使しC4532形状X5R特性100μFの製品化を実現した。また、無欠陥構造を得るために、TDK独自の脱バインダー技術、焼成技術によって達成した。
 今回開発したC4532X5R0J107MをはじめとするX5R特性シリーズ製品は、内部電極材の卑金属化は当然ながら、素子形状を体積比で約50%小型化したことで、大幅なコスト改善を達成させた。さらに、本製品は鉛を一切含まない『環境にやさしい』電子部品であることも大きな特徴の一つである。
◇電気的特性
―静電容量―温度特性
 X5R特性製品は、現存のF特性製品にくらべ環境温度の変化による静電容量の低下が小さく、安定した特性を発揮することが特徴である(図2参照)。F特性製品は、公称静電容量値の約70%低下するのに対し、X5R特性製品は-55゜C〜85゜Cという広い温度範囲で容量変化率が±15%以内と安定している。
 それにより、F特性製品からX5R特性製品への移行、また、コンデンサーの使用個数の削減、小型化、高信頼性化、省資源化(低コスト)などのニーズに応えることが可能となった。
―インピーダンス、ESR(等価直列抵抗)―周波数特性
 インピーダンス―周波数特性を図3に、ESR―周波数特性を図4に示す。積層セラミックコンデンサーでは、内部電極材として使用されてきたパラジウムを比抵抗の小さいニッケルに置き換えることと、小型化、多層化によってESR(等価直列抵抗)の低減化が図られてきた。そのため、X5R特性製品は低ESR型タンタル電解コンデンサーに比べESRが約一ケタ低く、高周波帯域における平滑性能に優れている。
―リップル電流による自己発熱特性
 図5にリップル電流に対するコンデンサーの自己発熱特性を示す。
 X5R特性製品は、タンタル電解コンデンサーに比べ、ニッケル内部電極の使用により高周波帯域におけるESRが低く、リップル電流による自己発熱がかなり抑えられる。そのため、リップル電流に対する信頼性が高くスイッチング電源部の平滑用コンデンサーに適している。自己発熱温度上昇が20゜Cで比較してみると、低ESR型タンタル電解コンデンサーが約1.4Armsであるのに対し、本開発のC4532X5RJ107Mでは、約3.6Armsという約2.5倍もの許容電流がある。

  図1
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  図2
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  図3
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C4532X5R0J107Mの内部構造
静電容量-温度特性
インピーダンス-周波数特性
  図4
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  図5
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ESR(等価直列抵抗-温度特性)
リップル電流による自己発熱特性


◆今後の展開
 Ni電極積層セラミックコンデンサーX5R特性シリーズを表1に示す。
 本製品を可能とした技術の展開により、C3225形状で47μFなどの製品化も同時に可能となり、100μFと同様に電子機器を中心に小型化、高効率化、コストダウンに寄与していく。
 TDKでは、今後もニッケル電極製品のさらなる高静電容量製品の開発に積極的に取組み積層セラミックコンデンサーの卑金属化を推進していく考えである。
表1
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積層セラミックチップコンデンサーX5R特性シリーズ



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