超低ESR機能性高分子アルミ電解コンデンサー「SP-Cap」

杉方敏浩:松下電子部品(株)LCRデバイスカンパニー
コンデンサービジネスユニット商品技術部カスタマー技術チーム

◆背   景
 近年のIT技術(IT機器)の発展はめざましく、あらゆるデジタルマルチメディア機器(パソコン・デジタルカメラ・液晶ディスプレイ・通信機器並びに通信基地局など)の電源回路の分野においては、高性能化・高速化・低消費電力化・小型化・薄型化が進展し、電解コンデンサーに対しても、従来にも増してさらなる大容量・低ESR・低インピーダンス・小型省スペース化(超薄型)が強く求められている。
 これらの要望に応えるため、このたび超薄型(製品厚み0.95mm品)のFDシリーズ、産業分野をターゲットにした高耐熱Hシリーズの開発に成功。さらに従来の各シリーズを充実(最大容量:390μF、超低ESR:10mΩを実現)させるとともに、昨今の環境対策に配慮したPb(鉛)フリー商品も対応可能とした。



◆製品の原理/構造
 アルミ電解コンデンサーは、図1に示すように、誘電体にアルミ酸化皮膜を用い、陰極に相当する電解質として、液体または、固体材料を用いたものがある。SP‐Capは、電解質として機能性高分子(ポリピロール)を用いたことを特徴とする。
 電解コンデンサーのESRは、この電解質の電導度に大きく左右され、電導度が高いほど、理想のコンデンサーに近づくことになる。機能性高分子(ポリピロール)の電導度は、従来使用されている電解液の10000倍以上と高く、これを電解質として用いることで、理想のコンデンサーに近づけることができる。
 松下電子部品SP‐Capでは、この固体材料(機能性高分子)の優位な点をさらに生かすべく図2に示すような、独自の内部素子積層構造を業界初で実現したことで、従来のアルミ電解コンデンサーの概念を根本的に塗り替えた画期的な商品として、あらゆる市場で広く受け入れられている。

図1
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  図2
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アルミ電解コンデンサーの分類
SP-Capの構造


◆新商品の特徴
■超薄型FDシリーズ
 デジタルマルチメディア機器のさらなる進化に貢献すべく、内部素子(アルミ電極箔プラス機能性高分子)の最大の特徴である薄さと、新構造(独自積層技術)を生かした超薄型(高さ0.95mm)のFDシリーズを開発。
■高耐熱Hシリーズ
 機器の高性能化に伴う大電流化による損失(内部抵抗並びに、機器・周辺部品の発熱)の増加に対応すべく、内部構造、外装材料並びに、工法面を見なおすことで、従来の105度C保証から高耐熱化(125度C保証)を実現したHシリーズをラインアップに追加。
■鉛(Pb)フリー対応
 昨今の世界規模の環境対策に対しても、業界に先駆けて検討を続けており、Pb(鉛)フリー対応可能な技術を確立。特に電解質の機能性高分子(ポリピロール)は有機材料でありながら熱分解温度が高く(300度C以上)これも他の電解コンデンサーより秀でた点であり、従来のリフローピーク温度より約10〜20度C高い要望に対しても対応が可能。
■従来シリーズの大容量/低ESR化
 従来シリーズにおいても大容量化・低ESR化に対し、日々進化を続けており、当社蓄積技術を駆使することで最大容量390μF、ESR10mΩ(当社従来比:収納容量約40%拡大/ESR、約30%低減)を実現。



◆製品の特性
(1)インピーダンスの周波数特性
 SP‐Capは高周波帯域(100kY‐1MY)で理想に近いインピーダンス特性を実現している。図3にインピーダンスおよびESRの周波数特性を示す。各種電解コンデンサーを比較すると、電解質に電解液を用いた従来のアルミ電解コンデンサーや二酸化マンガンを用いたタンタル電解コンデンサーでは、ESRが高いために高周波帯域でのインピーダンスが高いまま下がらない。
 また、当社SP‐Capと同じようなカテゴリーとして、電解質に機能性高分子を用いたタンタル電解コンデンサーがあるが、これらに対してもSP‐Capは特性的に優れており、理想的な特性を有している。この超低インピーダンス・超低ESR特性により、高周波で大きなリプル電流を流すことが可能で、リプルノイズ除去能力も優れている。
(2)静電容量の周波数特性
 図4に静電容量の周波数特性を示す。従来のアルミ電解コンデンサーやタンタル電解コンデンサーは、ESRが高いため、周波数が高くなるとともに静電容量が減少する傾向にある。これに対して、SP‐Capの静電容量はESRが低いため安定しており、高速での電荷供給に優れているといえる。
(3)安全性
 SP‐Capの電解質は固体質でありながら、従来のタンタル電解コンデンサーのように,機器での使用時に電圧ディレーティングを考慮する必要がなく、かつ、耐ショート性においても、タンタル電解コンデンサーより発火・発煙に至りにくいデータ(図5:当社比較)が得られており、より安心して使用することが可能である。
(4)その他
 温度変化やバイアス電圧に対する特性変化が少なく、前述のように周波数の変化に対しても安定した静電容量特性をもつ。高温負荷特性などの長期安定性にも優れ、安全性の面も極めて安定している。また、環境対策にも配慮したPb(鉛)フリー品も対応可能。

  図3
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  図4
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  図5
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各種コンデンサーのインピーダンスの周波数特性
各種コンデンサーの静電容量の周波数特性
タンタル電解コンデンサーとの安全性比較(過電圧試験データ)


◆製品の仕様
 形状についてはタンタル電解コンデンサーと同様のDサイズ(7.3mm×4.3mm)を採用することで、タンタル電解コンデンサーからの置き換え性を容易にしており、厚み方向のバリエーションも豊富(製品厚み:0.95mm(FDシリーズ)/1.1mm(FDシリーズ)/1.8mm(CDシリーズ)/2.8mm(UDシリーズ)/4.2mm(UEシリーズ)、静電容量範囲:8.2μF〜390μF、定格電圧:2V〜16V品をラインアップ(図6)。損失角の正接は0.06以下、漏れ電流は0.04CVまたは3μA以下、最高使用温度は105度C保証品と125度C保証品がある。

図6
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定格一覧


◆用   途
■優れたノイズ吸収特性と高速バックアップ能力  SP‐Capは、大容量/超低ESR特性により、高速CPUの負荷変動時の過渡応答バックアップ能力も極めて高い。パソコンに搭載されるCPUの電源電圧保持用に威力を発揮する。また、低インピーダンス・低ESR特性により、小型・面実装・高リプル電流が要求されるDC/DCコンバーター、スイッチング電源の平滑用、電源ラインのノイズリミッタ用にも多大な効果を発揮する。



◆今後の開発
 以上の特徴から、SP‐Capはパソコン・デジタルカメラなどの小型携帯情報機器の電源回路や、液晶ディスプレイのドライバー回路などに多く採用されている。
 また、今後もマルチメディア機器の技術革新は、急速な速さで進歩を続ける中で、部品に対する市場ニーズもさらに多様化し、今以上の高性能化・小型化・低消費電力化並びに、環境問題への配慮などでも厳しい市場ニーズが出てくると考えるが、セット設計に貢献し続ける新商品の開発を、タイムリーに展開していく。生産能力も、さらなる拡大を計画中である(月産1億個体制/2003年)。






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