大電流用積層パワービーズの技術

安田克治:TDK(株)回路デバイスB.Grp 
インダクタ統括部EMC部品技術部開発課

  ◆はじめに
マイクロプロセッサーに代表されるLSIは、消費電力の低減および信頼性向上を目的として、電源電圧を低下させてきている。また、機能の向上あるいは多機能化を目的として、大容量のデータを高速処理するため、クロック周波数は高周波化の一途をたどっている。クロック周波数の高周波化によってLSI自体の消費電力は増加するため、低電圧化の半面、消費電流は増加する。このような状況はLSIだけでなく電子機器全般のトレンドであり、大電流に対応する電子部品の要求が強くなっている。EMC対策用部品についても同様であり、大電流に対応するチップビーズの要求が非常に高まっている。特に、輻射および伝導ノイズ除去の効果を高めるために、高インピーダンス化が望まれ、また電子機器の小型化とも相まって、大電流に対応する小型で高インピーダンスのチップビーズが強く望まれている。
今回これらの市場要求に対応した、1608形状で業界トップの高インピーダンス、定格電流を実現した「パワービーズMPZ1608シリーズ」の開発技術を紹介する。



  ◆開発技術
(1)製品設計
一般にチップビーズは定格電流が100―500mA程度であり、電源ラインに使用することはできない。これは内部導体の直流抵抗が大きいためであり、導体に電流が流れることで発熱し品質レベルの低下を誘発する。このため電源ライン用チップビーズとしては、内部導体の直流抵抗を極限まで抑える必要がある。
直流抵抗を低くするためには、内部導体の断面積を大きくする必要がある。ここで断面積は導体幅と導体厚により決定するが、導体幅を広くすることは製品形状の大型化を招くことから、導体厚を上げることが有効となる。
(2)プロセス設計
積層チップビーズのプロセスは、図1に示すようにシート法と印刷法の2つがある。シート法はフェライト粉末に樹脂と溶剤を混ぜペースト状とし、これを適当な厚みに延ばし適度に乾燥させフェライトシートを作製する。このフェライトシートにスルーホールを開け、さらに電極を印刷しコイルパターンを形成する。このコイルパターンが形成されたシートを積層多層化し接着することにより、積層チップビーズを作製する。常にフラットなフェライトシート上に電極を印刷することから、高精度のパターン形成を実現でき、小型・集積化に適している。しかしながら電極が厚くなってくると、シート表面の凹凸が大きくなり、シート同士の接着性が低下し積層ができなくなるという欠点がある。
印刷法はフェライト粉末に樹脂と溶剤を混ぜたペーストそのものを使用する。絶縁パターン状にフェライトペーストを印刷し、これを乾燥し絶縁層を形成する。続いて電極を印刷し、コイルパターンを形成する。これを連続して繰り返すことで、積層チップビーズを作製する。フェライトペーストと電極を繰り返し印刷することで、印刷表面に凹凸が発生する。このため印刷面が常にフラットなシート法に比べパターン精度は劣る。しかしながらフェライトペーストの柔軟性により、凹凸の大きい面に対しても積層が可能であることが逆に特徴となっている。
今回のパワービーズは大電流対応として内部導体の直流抵抗を極限まで抑えるため、導体厚を上げることが必要である。これより印刷面の凹凸が大きくなる。このためパワービーズの製造プロセスとしては、印刷面の凹凸への追従性に富んだ印刷法を採用している。また独自のパターン設計によりフェライトペーストのレベリング性を有効に活用し、印刷面の凹凸を極限まで抑え、パターン精度の確保を行っている。
(3)構造設計
導体厚を上げると電極からフェライト素体にかかる応力が大きくなり、クラックを誘発する恐れがある。このため焼成過程においてフェライトと電極の収縮特性をマッチングさせる必要があり、マッチングに優れた新規開発の電極材料を採用している。
また、フェライトと電極材料の熱膨張係数は基本的に異なるため、独自の構造シミュレーションにより積層構造の最適化を行い、高信頼性を実現している。

図1
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積層チップビーズのプロセス


 ◆MPZ1608シリーズの特徴
MPZ1608シリーズは、フェライトと電極とのマッチングの強化、積層構造の最適化などにより、業界トップの高インピーダンスならびに定格電流を実現している。表1に示すように、シリーズとして100Mヘルツのインピーダンスで、220Ω/2A、100Ω/3A、60Ω/3.5A、30Ω/5Aの4点をラインアップしている。図2にインピーダンス周波数特性を示す。30―300Mヘルツにおいて高インピーダンスを実現しており、電源ラインにおけるノイズ周波数帯域で効果を発揮する。
また、電源ライン用EMC対策部品としては超小型の1608形状であり、特にインピーダンス100Ω以下の3点は厚み0.6mmと薄型化にも対応している。このため小型、薄型化が要求される携帯用機器に最適である。図3に形状寸法図ならびに推奨ランドパターンを示す。
  表1
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  図2
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  図3
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製品ラインアップ
インピーダンス周波数特性
形状寸法図と推奨ランドパターン


  ◆用途例
図4にUSBインターフェイスでの使用例を示す。USB、IEEE1394などの新しい高速デジタルインターフェイスの特徴の一つは、差動信号ラインの他に電源ラインを含んでいることである。コネクター部分の小型化を考えると、パワービーズは最適なEMC対策部品であると言える。
図5にノート型パソコンのTFT液晶パネルでの使用例を示す。電源回路に乗ったノイズが液晶コントローラー部などへ伝播すると、画面のちらつきなど画質低下の原因となる。このためパワービーズによりEMC対策を行っている。
以上は代表的な電源ラインでの使用例であるが、もちろん一般的なICの電源入力部や電源用コネクター部にも使用可能である。また、パワービーズは大電流用として直流抵抗の低減に特化した製品であることから、消費電力の削減が可能である。このため携帯電子機器などにおいては信号ラインにも用い、機器のバッテリー駆動時間延長を図ることも有効な使用方法の一つとなっている。
図4
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  図5
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USBでの使用例
TFT液晶パネルでの使用例


  ◆まとめ
以上の通り1608形状で業界トップの高インピーダンス、定格電流を実現した「パワービーズMPZ1608シリーズ」の開発を行った。先にも述べたが、LSIの低電圧大電流化の波は、そのまま電子機器全体への波となるものと思われる。大電流への対応は単に電子部品の品質レベルアップだけでなく、低直流抵抗化つまり低損失化を生む。これより省エネルギー化を促進することとなる。また、今後のEMC規制強化あるいは各種電子機器の小型・高機能化を考えると、パワービーズのさらなる小型化・高インピーダンス化が必要となってくる。
これらはEMC対策だけにとどまらず、対環境への一つのソリューションと言える。最適素材の開発、プロセスのファイン化、また各種シミュレーションの高精度化を推進し、パワービーズのさらなる小型・高性能化を行い、常にベストソリューションを追求していく。




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