アルミ基板の最新技術動向

斉藤俊樹:電気化学工業(株)渋川工場



◆はじめに
 電子部品の小型化・ハイパワー化・SMD化に伴ってアルミ基板はオーディオアンプ、エアコンインバーター、あるいは各種電源用の基板として、市場に広く受け入れられている。最近では自動車電装分野においても、アルミ基板の放熱性と信頼性が高く評価され、大手自動車メーカー、電装メーカーを中心に急速に採用が進んでいる。
 本報では、アルミ基板の最近の技術と応用例について「デンカHITTプレート」を例に取って紹介する。



◆アルミ基板の最新技術

◇耐ハンダクラック性の向上
 地球温暖化の影響は年々顕著になってきており、メーカーに対する地球環境に優しい製品作りへの要求は一層強くなってきている。
 このような状況の下、自動車電装分野では、従来の油圧制御から、エネルギーの消費が少なく環境にも優しい電子制御への切り替えが急ピッチで進んでいる。
 このうち、電動パワーステアリングシステムにおいては、モータードライバーの電子コントロールユニット用の基板としてアルミ基板が広く採用されている。
 自動車電装分野においては、冷熱衝撃によるハンダ接合部のクラックの発生が特に重要である。
 しかしながら、アルミと搭載されるチップ部品を構成するシリコンの熱膨張差のため、一般にアルミ基板はガラスエポキシ基板などに比べてハンダ接合部にクラックが発生し易い傾向にある。
 これに対して電気化学工業では、基板の絶縁層に弾性を付与することで、アルミ基板の欠点であった耐ハンダクラック性を大幅に向上させ、自動車電装分野での要求レベルをクリアすることに成功している。
 図1に当社低耐ハンダクラック性向上グレード、汎用グレード、高熱伝導グレードの耐ハンダクラック性の比較を示す。

図1
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品種ごとの耐ハンダクラック性の比較



◇厚箔化
 コンピューター用電源などでは大電流、低電圧の傾向が著しく、発熱の問題はこれまでより一層厳しくなっていくと考えられる。
 従来、アルミ基板はパワーモジュールの中でも主として定格電流30A以下、定格電圧600V以下にその用途は限定されていた。
 このため、これまでは大電流の用途にはセラミック基板の使用が余儀なくされていた。
 しかしながら、最近ではアルミ基板の絶縁層の放熱性をアルミナDBC並み以上とし、併せて導体箔を厚箔化することにより、これまで採用が困難であった大電流用途に対してもアルミ基板の使用が可能となってきている。
 図2に「デンカHITTプレート」大電流基板/GPSの基板断面図を示す。
 一般に、アルミ基板では、ベースのアルミ板と銅箔のバイメタル効果により、反りが発生するが、反りの発生量は銅箔が厚くなるほど大きくなる傾向にある。
 GPSでは導体箔に400μmのアルミ箔を採用し、その上に10μmのメッキ銅でハンダ付けランドを形成することで、反りの問題を解決している。
 アルミ導体箔のもう一つのメリットは高信頼性にある。
 アルミ導体箔を採用したGPSでは、イオンマイグレーションの発生が防止できるため、銅導体箔品に比べて、Vマイナスt特性が大幅に向上しており、飛躍的に信頼性を改善することが可能であり、85度C/70%の環境でDC3.0kVを印加した時に、2000時間以上マイグレーションによる絶縁破壊は発生していない。
 GPSはインバーター、サーボ用基板として既に実用化されているが、今後はコンピューター電源などへの展開も急ピッチで進んでいくものと思われる。

図2
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大電流基板(GPS)基板断面図



◇多層化
 マルチメディア関連装置をはじめとする各種の情報通信システム用のオンボード電源では、システムへの高密度実装の必要性から、超薄型化が要求される。
 一方、電源の処理速度の高速化、多機能化に伴って、スイッチング周波数の高周波化、高速化が進むと、素子から発生するノイズの対策が一層重要になってくる。
 これに対して、一般にアルミ基板は放熱性を追求するため、無機フィラーを高充填し、かつ厚みも薄く設定しているため、静電容量の面では必ずしもノイズの低減に有効とは言えない。
 「デンカHITTプレート」では、このような問題に対する解決策として、アルミベース高熱伝導二層基板(HHタイプ)をラインアップしている。これは図3に示すように、アルミ板上に高熱伝導絶縁層と銅導体を交互に積層し、各導体間を銅メッキにより、電気的に接続したものである。
 このような構造から、HHタイプでは片面一層のアルミ基板では達成出来なかった高密度化が実現可能であるばかりでなく、内層導体をシールドパターンに使用することで、片面一層のアルミ基板の最大の短所であったノイズの発生を大幅に低減することも可能である。
 このため、HHタイプは各種電源や自動車電装用基板として最適であり、広く普及している。
 図4および表1にHHタイプの代表物性を示す。

  図3
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  表1
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  図4
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HHタイプの構造
HHタイプ/絶縁層耐電圧の長期信頼性
各種基板のコレクター損失と温度上昇の関係



◆今後の動向
 アルミ基板の今後の技術課題は、高熱伝導化、高耐熱化、低応力化の3点に集約される。これらは、電子部品の小型化が続く限り改善を継続すべき永遠のテーマである。一方、これらと並行して、市場からの低価格化の要求は日々厳しさを増している。お客様に満足いただける製品を末長く供給し続けるためには、技術開発と低コスト化の両面に対して、より一層の注力が必要になってくるものと思われる。




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