オンボード電源用ICの技術

高橋資人:新日本無線(株)汎用IC事業部商品企画部

 セットのデジタル信号処理が増えていることから、オンボード電源のニーズが高まっている。CMOSプロセスの微細化に応じて動作電圧が下がることと、チップの仕様やジェネレーションにより電源電圧が混在しているため、チップの近傍で動作電源を作る、いわゆるローカル電源で分散型の電源供給が主流となりつつある。
新日本無線は、基板上で5V/3.3Vなどのシステム電圧から3.3V、2.5V、1.8Vなどのデジタル信号処理チップに電源を供給する、ローカル電源のラインアップを拡充している。
NJM2870シリーズは、大容量化が進むセラミックコンデンサーを出力平滑コンデンサーとして使用できるローカルLDO(Low Drop Out:低飽和型)レギュレーターで、100mAから500mAの出力電流をラインアップしている。
 主な特徴は以下の通り。
ローノイズ、高リップル
発振耐量が高い
過渡応答特性がよい
1%高精度
フロー実装が可能


◆ローノイズ
 新日本無線のローカルLDOは、オーディオ用オペアンプなどで培われたローノイズ技術を駆使し、出力ノイズを30μV以下に抑える超ローノイズ設計になっている(NJM2871の場合)(図1)。
このため低電圧化が進むDAコンバーターの電源など、ノイズマージンの厳しいセットのS/N向上に寄与することができる。
特に1.8V動作の1BitDACなどでS/N向上が確認されている。
また、30mA負荷時の電源リップル除去比が70dB以上と高く、携帯電話のVCOなどに使用すると、電源ノイズを減少させることでC/Nが向上し、無線部の特性向上が図れる。

図1
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NJM2871のノイズ特性


◆発振耐量が高い
 LDOの出力平滑コンデンサーにセラミックコンデンサーを使用すると、セラミックコンデンサーのESR(等価直列抵抗)が低いため、発振安定性が悪くなる傾向がある。これはオペアンプで構成した帰還アンプにC負荷を接続すると発振してしまうことと同様な現象で、帰還系の位相余裕が少なくなることから起こる。
NJM2870シリーズは内部の位相補償回路の最適化により、ESRが0.01Ωから100Ω程度まで十分な発振マージンを確保している。
このため、アプリケーションにより、セラミックコンデンサー、タンタルコンデンサー、電解コンデンサーのいずれでも使用できる。従来製品との発振耐量の比較を図2に示す。

図2
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NJM2870シリーズの発振耐量の従来品との比較


◆過渡応答がよい
 デジタル負荷では、チップの動作状態により急峻な負荷変動が起きることがしばしばある。
特にセラミックコンデンサーを使用した場合、帰還系の位相余裕の不足から、負荷変動時の過渡応答に時間がかかるという問題があった。
NJM2870シリーズでは、上記からセラミックコンデンサー使用時の過渡応答時間を従来製品の1/10程度と大幅に短縮している。
負荷がバースト状に変動する場合などにも出力電圧が安定しているため、PLL系のアプリケーションなど、帰還系を持つICの安定動作に寄与することができる。


◆フロー実装で1%精度
 デジタルチップの低電圧化とともにチップの電源動作マージンが減少するために、出力電圧の1%精度の高精度化を実現している。1.8V以下のアプリケーションでは、チップの電源動作マージンが減少してくるので、安定特性を得るためにも高精度化は必須になる。また、セットの実装方法による特性変動にも注目し、従来困難だった小型パッケージのフロー実装対応に取り組んだ。その結果、フロー実装後の特性変動分も含んでも出力電圧精度1%が実現できた。


◆小型PKG
 とくに携帯電話、PDAなど小型化のニーズに合わせ、小型パッケージをラインアップした。NJM2860は小型、低背のSC-88Aパッケージ(2.1×2.0×0.95mm)を採用し、100mAまでを供給できる。SC-88Aパッケージは小型ながらリードタイプの構造であり、実装面で汎用性が高い。
また、NJM2891は新日本無線オリジナルの2mm角のFFP(Flip‐chipFinePackage)を採用しており、入力、出力とも独立した150mAのLDO2回路を内蔵している。
写真1、図3に100mAから300mAまでのローカルLDOのパッケージを示す。左からFFP-12、SC-88A、MTP-5、SOT-89でいずれのパッケージも競合の同出力電流製品に比べサイズメリットがあるような小型のパッケージを採用している。

写真1
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  図3
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ローカルLDOノパッケージ
Local LDO Scale Map


◆低消費電流化
 電池アプリケーションのセットでは、低消費電流化が重要になる。
新日本無線は、高リップル、ローノイズ品はバイポーラ技術で、低消費電流はアナログCMOS技術と、使い分けることで、特性優位性のあるLDOを製品化している。
NJU7223は、500mAのLDOで、自己消費電流はわずか30μAと少ない。このため、制御用マイコンなど動作時だけ大出力が必要な負荷に最適で、パワー監視などに活用することでセットのスタンバイ時電力削減に有効である。
さらに電池アプリケーション向けに、NJU7771シリーズを開発中で、負荷時の電源リップルリジェクションが60dB以上と高く、かつ20μAの消費電流を狙っている。


◆大電力のオンボード電源
 機器の中でデジタル信号処理ブロックが増えると、従来、ロジック用に使われていた5V電源の電流配分が大きくなる。
特に入出力電位差が大きい場合は電源利用効率の面で、発熱の少ないDC/DCコンバーターが好まれる傾向にある。


◆5.5A 1チップDC/DCコンバーターIC NJM2367
 NJM2367は大電力パワートランジスターを内蔵したオールインワンタイプの5.5ADC/DCコンバーターICで、わずか7点の外付け部品で降圧型5.5AのDC/DCコンバータが構成できる。
写真2は評価ボードの例で、パッケージをはプラスチップモールドのTO-220-5を採用し、放熱版の取り付けが簡単にできる。
主な特徴は以下のとおり。
スイッチング周波数は 72kHz(typ.) 内部固定
スタンバイモード内蔵
過電流保護/加熱保護/低電圧保護回路などの各種プロテクション内蔵
電源効率は80%程度が得らえられるため、とくに5Aクラスではシリーズレギュレーターに比べると熱管理がしやすいアドバンテージがある。
また、電流検出を通常の検出抵抗のみで行うと、検出抵抗での発熱や電力消費も無視出来ないレベルになる。
NJM2367ではスイッチングトランジスターと並列に接続した電流検出用のトランジスターで電流検出を行うことで、損失を最小にして電流検出を行っている。

写真2
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NJM2367の評価ボード


◆小型DC/DCコンバーターIC、NJM2340
 NJM2340は、汎用性の高い降圧型のDC-DCコンバーターコントローラーICで、小型なTVSPパッケージ(4×3mm)の採用により、ローカル電源への応用に適している(写真3)。
パワートランジスターは外付けで、必要に応じ500mAから2A程度の応用が可能で、1V±1.5%の高精度リファレンス(1V±1.5%)により低電圧アプリケーションも高精度に構成できる。
主な特徴
最大入力電圧が高い 36V
スイッチング周波数500kヘルツでアプリケーションが小型に組める
PWMのデューティ比が100%まで制御でき、減電圧特性が良い
高精度の定電圧、定電流制御が可能 (電圧精度±1.5%、電圧精度±5%)
最大入力電圧が高いため、カーナビゲーション用TFT/LCDパネルのバックライト用アプリケーションでの採用事例が多い。

写真3
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小型DC/DC コンバーターIC、NJM2340


◆低ESRコンデンサーへの対応
 DC/DCコンバーターのローノイズ化には、出力平滑コンデンサーに低ESR品を使用することが有効である。低ESRのコンデンサーの種類としては従来からの電解コンデンサーの他に、機能性高分子タイプやセラミックコンデンサーも一般的になりつつあり、選択肢が広っている。
低ESRコンデンサーを使用すると、前述のLDOと同様、位相補償が難しくなる。とくにDC/DCコンバーターでは、発振による数kHzの出力リップルの発生、あるいはインダクタンスの共振による音なりなどの不具合が起こる場合がある。
小型DC/DC制御用ICではエラーアンプの位相補償がIC内部で行われているものが多く、外部からの位相補正が調整しにくいという問題がある。
NJM2340では、エラーアンプの入力と出力が直接2ピン、3ピンにでており、アプリケーションの仕様ごとに位相補償の最適化が可能である。
アプリケーション回路例と特性例を図4に示す。この回路は基板サイズで34×17×15mmと小型に組むことが出来、効率は70―80%程度、低ESRコンデンサーを使用し、出力ノイズも20mV以下とローノイズ動作が実現できる。

図4
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NJM2340のアプリケーション回路例と特性例


◆今後の展開
 電流消費の大きいセットでは熱源の集中を防ぐ意味でも分散型電源のソリューションが有効だが、バッテリーアプリケーションは大規模の集約化のメリットが大きい。
このため今後の複合化電源への対応に向けて、再利用可能な回路IPの作りこみをさらに強化していく。
すでにバイポーラIPはラインアップ化を終了し、今年度は下記の要素技術開発を行っている。
0.5%の高精度技術
超低消費電流回路コアの確立 (LDO、リセット)
CMOS DC/DCコンバーターのIPコアの最適化
リチウム電池充電制御技術
家電用の製品は実績があり、使い慣れたバイポーラ技術で、また電池アプリケーション用には最適化されたアナログCMOS・IPを使いアプリケーションに最適なソリューションを提案していく。




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