低背型SAW付きアンテナスイッチフィルターの技術

鈴木孝太郎:松下電子部品(株)
LCRデバイスカンパニーオプトLTCC―SBULTCC開発グループ


 現在、世界中で広く使用されているGSM、PDCなどのTDMAシステムの携帯電話では、時分割によって送信する時間と受信する時間が重ならないように交互に通信する時分割多重方式が用いられており、このシステムでは、送信時間と受信時間が重ならないためスイッチ共用器が用いられる。スイッチ共用器は、スイッチによって送受信のアイソレーションを確保することができるため、低ロス化、小型化が可能となる。
 また、近年ではGSM(800Mヘルツ帯)とDCS(1.8Gヘルツ帯)の両方の周波数帯を用いるデュアルバンド・デジタル携帯電話機が世界中で多数使われるようになった。デュアルバンドの回路規模は、単純にはシングルバンドの2倍以上となる。さらに、最近のGSM系携帯電話機はPCS(1.9Gヘルツ帯)も使用するトリプルバンドなどのマルチバンド化、SAWフィルターなどの複合化へ移行しており共用器もさらに大きくなり、携帯端末も大型化してしまう。これを解決する手段として考え出されたのが、セラミック積層技術を用いて回路を集積化し大幅な小型化を図った積層スイッチフィルターである。



◆セラミック積層技術
 積層スイッチフィルターのキーとなる技術のひとつであるセラミック積層技術には、低温同時焼成セラミックス(LowTemperatureCo―firedCeramics=LTCC)が用いられている。LTCCを用いると、内部回路パターンに導電率の大きい銀や銅を用いることができ、損失の小さいインダクターやキャパシターの集積化が可能になる。すなわち、LTCCを用いたデバイスは、高周波特性に優れるという特徴がある。
 松下電子部品において、LTCCは誘電体フィルターの小型化のためにフィルター単体にまず適用された。図1は、松下電器産業デバイス開発センターで開発され、1994年に当社で商品化された積層プレーナフィルターの外観写真である。この積層プレーナフィルターは、従来の同軸型フィルターの20分の1の小型化を一挙に実現した。現在、LTCCとしては比誘電率40から60程度の高誘電率系セラミックスと比誘電率5から15程度の低誘電率系セラミックスとが実用化されている。前述の積層プレーナフィルターには比誘電率58の高誘電率系が使われており、積層スイッチフィルターには比誘電率7程度の低誘電率系が使われている。
 積層デバイスにおいて、安定した高周波フィルター特性を得るために、製造プロセスの安定性が非常に重要となる。一般に低誘電率系よりも高誘電率系のほうが厳しいプロセス安定性が要求される。
 当社では、すでに高誘電率系セラミックスで培われた高度な積層プロセス技術を積層スイッチフィルターにも適応することにより、優れた高周波特性を安定して製造することに成功している。

図1
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積層プレーナーフィルターの外観

◆SAW付きアンテナスイッチフィルター
 次に今回開発したSAW付きアンテナスイッチフィルター(SAWPLEXER)について説明する。
 本製品は従来の積層スイッチフィルターの機能に加え、受信側のSAWフィルターを複合化させた製品である。今回の開発品は特に業界最薄の製品高さ1.5mmMaxという特徴を持っている。本製品の外観図を図2に示す。図3は、今回開発したGSM/DCS/PCSトリプルバンド対応のSAWPLEXER■   のブロック図である。アンテナ端子には、まず分波器が接続され、ここでGSM帯の信号とDCS/PCS帯の信号に分けられる。分波器にはそれぞれの周波数帯のスイッチが接続され、送受制御端子に加えられる制御信号に従って、送信モードと受信モードが切り替えられる。DCS/PCSの帯域は接続されたスイッチにより切り替えられる。本製品ではロス、歪み、コストで優位なPINダイオードを用いた。スイッチの送信側にはパワーアンプからの高調波成分を除去するためにLTCC基板内にローパスフィルターを構成している。スイッチの受信側には狭帯域なバンドパスフィルターとしてSAWフィルターを用い、LTCC基板上に配置している。
 なお、今回開発した製品ではGSM/DCSのSAWフィルターのみを基板上に搭載しており、PCSのSAWフィルターは外付けで使用される。  LTCC基板内部には、キャパシターやインダクターなどのRFコンポーネントが各層ごとに集積化されフィルターなどを構成し、層間をビアホールで電気的に接続している。内蔵されるRFコンポーネントの素子点数は30個を超えている。電極材料は、高周波RF領域でも低損失な銀を用いている。
 また、今回の開発品では製品高さ1.5mmMaxを実現するために、無収縮プロセスを用いたLTCC基板を採用している。

図2
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  図3
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SAWPLEXERの外観
SAWPLEXERのブロック図


◆無収縮プロセスLTCC基板
 次に本製品に用いた無収縮LTCC基板プロセス技術について説明する。
 現在の携帯端末のトレンドは小型、薄型の要望が高く、また折り畳み型携帯端末などでは、使用される電子部品の低背化の要望が強まっている。しかし、従来用いられている収縮LTCC基板では、製品高さ方向への収縮率が小さく、基板の薄型化が困難であった。これを解決するため、今回当社では無収縮LTCC基板プロセス技術を開発、焼結時の基板水平方向への収縮を抑制し、製品高さ方向への収縮率を高めることで基板の薄型化を実現した。これと同時に従来より薄いセラミックシートを得ることができるシート成型技術を開発、これらを組み合わせることで、業界最薄の製品高さ1.5mmMaxを実現することができた。これにより、今後ますます要望が高くなる携帯端末の薄型化に貢献することができる。
 さらに、今回当社では従来材料に比べ高い抗折強度で、かつ、安定した容量温度特性を持つLTCC基板用材料を開発した。これにより、薄型でも高所からの落下および強い衝撃に耐え、かつ温度特性に優れた基板を得ることができ、携帯端末の製品信頼性に貢献することができる。また、本製品では図4に示されるとおり端子電極をLGA(LandGridArray)構造とした。本構成により、基板側面に電極がなくなり、ハンダ実装時に形成されるフィレットがなくなることから、実装面積の低減を実現した。これにより携帯電話の小型化、高機能化にともなう、部品の高密度実装化に貢献することができる。
 以上のように今回当社では、SAWフィルターを内蔵した積層スイッチフィルターを開発したが、それ以外でも、ローノイズアンプICやパワーアンプなどの半導体もLTCC基板上に実装可能であり、今後これらのデバイスを実装、集積化することで、一挙にRFのフロントエンド化まで考えることもができる。
 この半導体デバイス実装のためには、部品実装面のさらなる高精度化が必要となってくる。今回当社が開発した無収縮LTCC基板プロセスでは、焼結時の基板水平方向への収縮を抑制するため、高精度な基板表面電極パターン形成が可能となる。よって、この無収縮技術を用いることで、これら半導体デバイスが実装可能な基板を得ることができる。
 このように、積層スイッチフィルターは、LTCCプロセスの発展とともに、今後もさらに進化すると考えられる。われわれは、現在の積層スイッチフィルターは第1世代と位置づけている。今後、第2、第3と世代を重ねて成長が期待できる。図5は、これらの概念をまとめたものである。このように、今後もLTCCデバイスは、デジタル携帯電話機の進化を支えるキーデバイスとして、さらに発展していくものとなるであろう。

図4
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  図5
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端子電極の拡大図
積層スイッチフィルターのトレンド





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