高密度部品実装対応チップビーズの開発

望月宣典/渡辺邦保:TDK(株)回路デバイスB.Grp.インダクタGrp.積層製品技術部


◆はじめに
 近年、携帯電話に代表されるように小型電子機器の進歩には著しいものがある。たとえばカメラ機能の付加による多機能化・液晶ディスプレイやカメラ機能の画素数向上による高性能化、そしてそれらの多機能・高性能を付加するにもかかわらず、セットのサイズを大きくすることのない高密度化・小型化などである。これらの小型電子機器の進歩には回路技術の進歩のみならず、各種電子部品群の進歩も寄与していると考えられるが、EMC対策部品も例外ではない。高密度な実装が行われている現在、EMC対策部品に対する小型化・省スペース化の要求は根強いものがある。
 これらの市場要求に対応すべく、TDKでは単品の小型化およびアレイ化・アレイ品の小型化により実装面積の削減に寄与できる新製品の開発を進めている。今回は、EMC対策部品の中でもチップビーズについて、単品の極小化を図った「積層チップビーズ MMZ0603シリーズ」(写真1)、アレイ品の小型化を行った「積層チップビーズアレイ MZA2010シリーズ」(写真2)について、技術解説を行う。

写真1
クリックしてください。
  写真2
クリックしてください。
積層チップビーズMMZ0603シリーズ
積層チップビーズアレイMZA2010シリーズ


◆開発製品
a.積層チップビーズ0603シリーズ
 チップビーズは信号ラインに挿入するだけで、フェライトの持つ抵抗成分により、ノイズを減衰することが出来る有効なEMC対策部品である。このチップビーズにおいて単品の小型化を進めたのが、今回商品化した「積層チップビーズ MMZ0603シリーズ」である。形状寸法図およびランドパターンを図1に示す。積層チップビーズとして、これまで最小形状であった1005形状と比較すると、チップの面積比で64%の削減、体積比においてはおよそ80%の削減を実現している。
 製品ラインアップとしては表1および図2に示すように、インピーダンス周波数特性の異なる2つのシリーズを製品化している。一つは一般用途向けのSタイプであり、インピーダンスはおよそ10MHzから上昇しブロードな周波数特性を有するものである。これは比較的低速な信号ラインに用いられる。アイテムはインピーダンス(100MHz)で80Ω、120Ω、240Ωの3アイテムをラインアップしている。一方は高速信号用のDタイプであり、こちらは100MHzからインピーダンスが急峻に立ち上がる周波数特性を示すものである。200〜600MHz付近のノイズ対策に最適である。Dタイプにおいてはインピーダンス(100MHz)で33Ωをラインアップしている。
b.積層チップビーズアレイ2010シリーズ
 0603タイプで極小チップの実現を行ったが、セットメーカで0603タイプを実装する場合に、従来の自動装着機では対応できない場合もある。また、デジタル機器の信号ラインでは、複数のラインを一括してEMC対策を施す場合が多い。このようなデジタル機器用のEMC対策部品として、積層チップビーズアレイ2010タイプの商品化を行った。従来チップビーズアレイは3216タイプが最小形状であったが、その小型化を進めたものである。
 図3に本製品の形状寸法図および回路図を示す。チップビーズアレイは、チップビーズ4個を1チップ化したものである。単品チップを複数個並べて実装する際には、部品間隔を空けなくてはならない。4個のチップビーズが1チップとなったビーズアレイは4個のチップビーズ間の部品間隔が不要であるため、実装面積の省スペース化に大きく貢献できる(図4)。さらに、チップビーズ4個分を1度の装着で搭載することができ、実装コストを削減することが可能である。
 製品ラインアップは表2に示すように高周波信号用Dタイプにおいてインピーダンス(100MHz)で33Ω、68Ω、120Ω、240Ωの4品種をラインアップしている。
 ここで紹介した2製品は製品中に鉛および鉛化合物を含まず、また鉛フリーハンダでの実装も可能な鉛フリー製品である。

  図1
クリックしてください。
  表1
クリックしてください。
  図2
クリックしてください。
MMZ0603形状寸法図・ランドパターンおよび回路図
MMZ0603製品ラインアップ
MMZ0603代表周波数特性
  図3
クリックしてください。
  図4
クリックしてください。
  表2
クリックしてください。
MZA2010形状寸法図・ランドパターンおよび回路図
アレイ化による実装面積削減
MZA2010製品ラインアップ


◆開発技術
 積層タイプのチップビーズはペースト処理したフェライト材料と内部導体である銀(Ag)を螺旋状に形成されるよう交互に積層した後に、一定の焼成温度で焼結させることで所定の電気特性を得る製品である。今回の高密度実装対応チップビーズの商品化においては、これまでの小型化の限界を打ち破るために、設計ルールのファイン化を進めた。
 従来製品よりもチップの体積を小さく制限される中で所定のインピーダンス値を得るためには、螺旋状に形成される巻線部の内径面積を確保すること、および相応の巻数を確保することが必要である。我々は最適設計のためのシミュレーション技術を用い、導体印刷パターン細線化の目標値を定めるとともに、長年の製造技術に基づく導体幅・厚みの管理を実施することにより実現した。
 また、積層製品はフェライト材料と内部電極を同時に焼結させるものである。焼結の過程で、フェライトは収縮するが、内部導体の収縮特性もフェライトのそれとマッチングさせる必要がある。本製品では製品が小型化されているがゆえに、製品内にストレスが残ると単位面積あたりの応力としては大きくなり、製品に影響を与える場合がある。そこで、われわれは内部構造を制御する焼成プロファイルの確立と管理を実施し、小型品でも安定して焼結することのできるプロセスを確立した。



◆用途例
 用途例として液晶パネルにおける積層チップビーズアレイの使用例を図5に示す。一般的に液晶パネルに使用されるICのピンピッチは0.5mmである。一方、積層チップビーズアレイの端子ピッチも0.5mmである。ノイズ対策としては積層チップビーズアレイをこのIC付近に配置する場合が多いが、両者の端子ピッチが等しいため、不要な引き回しを行うことのない基板設計が可能である。
 このときの輻射ノイズの測定結果を図6に示す。200〜600MHzのノイズが除去されていることがわかる。

図5
クリックしてください。
  図6
クリックしてください。
液晶パネルでの使用例
液晶パネル使用例での効果


◆まとめ
 小型電子機器の小型化・多機能化・高性能化に伴い、EMC対策の重要性も高くなるとともに、省スペース型のEMC対策部品の必要性も高まると考えられる。今後とも、市場のニーズに合致する、小型・高性能な積層チップビーズ・積層チップビーズアレイを開発していく所存である。






最新トレンド情報一覧トップページ