サージアブソーバーとその応用動向

田中芳幸:三菱マテリアル(株)セラミックス工場


◆はじめに
 現在のわれわれを取り巻く電子機器は、使用する部品の高密度実装、高集積化の動きに伴い、多機能小型化が進んでいる。その半面、絶縁距離が不足するなどの問題から異常電圧、とりわけサージに対して弱くなってきているのが現状である。そこで最近では、これまで以上にサージに対する保護部品であるサージアブソーバーの重要性が認識されるようになってきた。今回は三菱マテリアルで開発したサージアブソーバーおよび最近の応用動向について紹介する。



◆サージアブソーバーとは
 通常、サージアブソーバーは被保護機器に対して並列に接続される。サージアブソーバーは、通常時にはまるで存在しないように振る舞い、いったん異常電圧(サージ)が侵入してきた場合には即座に動作し、サージをバイパスして電子機器にサージが侵入するのを防いでいる(図1)。したがってサージアブソーバーの特性としては、通常時の抵抗値の高さとサージに対する応答性の良さ、そしてその安定性が要求されている。
 サージアブソーバーの種類としては大きく分けて半導体型と放電管型が存在する(図2)。
 半導体型には、結晶粒界の特性を用いたバリスターとPN接合を利用したダイオード型およびサイリスター型の3種類が存在する。いずれもサージに対する応答性は良いが静電容量が大きいといった特徴を持つ。
 放電管型は、気体の絶縁破壊現象を用いたもので、その構造からギャップアレスタ(ボタン型アレスタ、ネオン管)とマイクロギャップ式サージアブソーバーに分けられる。

図1
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  図2
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サージアブソーバーによるサージ侵入防止
サージアブソーバーの種類


◆マイクロギャップ式サージアブソーバー
 マイクロギャップ式サージアブソーバーは、通常の状態では抵抗値が非常に高く(108Ω以上)静電容量が小さく(0.5pF以下)、また、マイクロギャップを採用したためにサージに対して非常に応答性の良いことが特徴となっている。これは導電性皮膜の中央にマイクロギャップが形成され、その両端にキャップ電極を配置した構造によって実現されている(図3)。

図3
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マイクロギャップ式サージアブソーバーの構造


◆マイクロギャップ式サージアブソーバーの種類(図4)
 マイクロギャップ式サージアブソーバーの種類は、DSP、DSS、DE37、DSA、DA38、DA53と多岐にわたる。これらのサージアブソーバーはサージアブソーバーが許容することのできるサージ電流の大きさ(サージ耐量)が異なる。サージ耐量の大きさによって静電気対策用(DSP)、通信線用(DSS、DE37)、電源ライン用(DSA、DA38、DA53)に分けられる。
 また、電源に使用する場合、サージがなくなった後でも電源から電流が供給されて放電が持続する続流現象に注意する必要がある。この現象を避けるため、一般にはバリスターや抵抗と直列に接続して用いられる。これらが一体化された電源用サージアブソーバーとして、DSAR、DSANR、DSAZR、DSAHRが存在する。

図4
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マイクロギャップ式サージアブソーバーの種類


◆サージアブソーバーの応用について
 サージによる被害の大部分は、誘導雷と静電気によるものと考えられ、それぞれその原因と対策は次のように考えられる。
 誘導雷は通信線や送電線の近傍における落雷(直撃ではない)あるいは雲間の放電によって引き起こされる。
 電源線に現れる電圧としては数kV〜十数kVに達することが知られている。その侵入経路としては、電源線―GND間、電源線―通信線間、電源線―アンテナ間、通信線―アンテナ間、通信線―GND間が考えられる。サージ電流が数kA程度流れる可能性のある場所(電源線―GND間、電源線―通信線間)のサージ対策には電源用のサージアブソーバー(DSA、DS38、DA53、DSAR、DSANR、DSAZR、DSAHR)が使用され、比較的電流の少ない場所(電源線―アンテナ間、通信線―アンテナ間、通信線―GND間)のサージ対策には通信線用のサージアブソーバー(DSS、DE37)が使用される。
 静電気は、物と物(特に絶縁物)との摩擦によって引き起こされ、その電圧は数kV〜十数kVに達することがある。その侵入経路としてはカーステレオ、カーナビゲーション、無線機のアンテナからGNDへ、また特異な例としてCRTの管内放電がCRTのグリッドやカソードに侵入することが考えられる。
 そこで静電気対策としてはアンテナとGND間、あるいはCRTにおいてはグリッドまたはカソードとGNDの間にサージアブソーバー(DSP)を設置して対策する。



◆応用の動向について
 サージ対策の動向は先に述べたように、電子機器は高密度化多機能化のためにサージ耐圧が低下してきており、これに対応するために、より高速でサージに応答するものが必要とされてきている。すなわち理想的には動作開始電圧までは全く動作せず高抵抗のままであり、少しでも動作開始電圧を超えたら即座に低抵抗へ移行し、サージを吸収するものが要求されるようになってきている。現実には放電管には必ず放電遅れが存在するため、応答性の良いサージアブソーバーでもサージに対しては直流放電開始電圧(動作開始電圧)よりも高い電圧で放電することになる。
 サージに対して低抵抗に移行する電圧がいかに直流放電開始電圧(動作開始電圧)に近いかがサージアブソーバーの応答性のよし悪しを決定付けている。これまでは半導体型のサージアブソーバーが応答性に関して優れているものとされていた。
 近年の電子機器の新たな動向としては、通信回線に見られるように高速化があげられる。アナログモデムからADSLそしてVDSLというように通信速度はより高速に、すなわち周波数帯域はより高周波側へと移ってきている。
 xDSLに関しては通信線から侵入するサージに対し、局側の交換機内、および宅側のターミナルアダプターなどにサージアブソーバーを使用しサージ対策を行っている。  どのようなサージアブソーバーも静電容量を持つため、被保護機器に対して並列に挿入されると挿入損失によって、信号が減衰してしまうことが知られている。これまでは使用する周波数帯域が低周波であったため、半導体型サージアブソーバーのように静電容量の比較的大きな素子(数十〜数百pF)を使った場合においても、サージアブソーバーの挿入による損失は問題にならなかった。しかし、VDSLなどの高速通信においては、周波数帯域が高周波側に広がることになり(図5)、半導体型サージアブソーバーなどは、その比較的大きな静電容量が問題となり始めてくると予想される(図6)。したがって今後、より低静電容量のサージアブソーバーが要求されるものと考える。
 その点、放電管タイプのマイクロギャップ式サージアブソーバーは静電容量が0.5pF以下であり、挿入による損失も小さなものとなる(図6)。さらに最近、弊社では種々の改良により、半導体型に匹敵する応答性を有するマイクロギャップ式サージアブソーバを開発した(図7)。このマイクロギャップ式サージアブソーバーは、低容量(低損失)で半導体並みのサージ応答性を示すため、今後の高速通信に対しマッチした製品と言える。
 この特性を生かして、最近ではADSLの交換機やターミナルアダプターなどに使用されており、今後もさらに使用されるものと考えている。
 今後の動向としては、電子機器はより高速、高周波化、高密度実装、高集積化が進むと考えられ、より静電容量が小さく、サージ応答性の良いアブソーバーが要求されるものと考えられる。このような要求にこたえていきたいと考えている。

  図5
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  図6
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  図7
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高速通信の周波数帯域
サージアブソーバーの静電容量
301LHノ応答波形とサイリスター型(差がない)1.2/50μs10KV印加時





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