光通信用一芯双方向モジュールの開発

福富康:アルプス電気(株)通信デバイス営業部オプトプロジェクト


◆はじめに
 アルプス電気は、1990年より光通信向け非球面ガラスレンズの量産を開始し、主として幹線系市場へのビジネスを展開してきている。
 昨今、インターネットの急激な伸長により、幹線系だけではなく、直接家庭に光を引き込むFTTHも注目され始め、ビジネス分野が拡大し、大きな伸びが期待されている。
 本稿では、特にFTTH市場を主とした、アクセス系光通信に向けた製品ラインアップについて述べることとする。



◆昨今の市場状況
 主に、海底ケーブルに代表される長距離通信については、早い段階で電線による電気通信から、光ファイバーを用いた光通信に置き換えられている。
 昨今では、インターネットの加入者の急増、画像や動画までもを含んださまざまなデータのやり取りが一般化することにより、通信トラフィックが急激に増加しており、幹線系のみならずメトロ系と呼ばれる中距離通信も光化され、近年アクセス系と呼ばれる家庭への通信までもが光に置き換わりつつある。
 その中、アクセス系の通信に対しては、ファイバーの敷設コストがサービスコストへ大きなインパクトを与えることからファイバーの有効活用をキーワードに、上り下りの信号を1本のファイバーで送受信する「一心双方向通信」方式が主力となっている。そのため、光信号を扱う部品については、異なる2波長の光信号を高精度に処理する技術が必要とされる。
 しかしながら、サービスの低価格化がFTTH普及の鍵となっていることで、それら機器に使用されるデバイスに対するコスト要求は厳しく、性能と価格の双方を両立する必要がある。



◆製品の開発背景
 当社光通信市場向け製品の主力デバイスは、非球面ガラスレンズである。本レンズは、ガラス材料を高温でプレスすることで非球面レンズ形状を作りだすガラスモールド技術をコア技術としている。
 本製法を用いて作り出される非球面ガラスレンズは、その非球面形状をさまざまにアレンジすることにより、出射光を80%程度の高い効率で結合が可能なレンズや、広い調整域を持つ高トレランスのレンズも作り出すことが可能である。
 さらに、ガラスモールドを行う際、同時にステンレスの鏡筒とレンズを一体化(写真1)することで、そのままYAGレーザー溶接での強固な固定が可能であり、高信頼性を確保できることから、光通信市場においては高いシェアを確保している。
 非球面ガラスレンズについては、通常ARコーティングと呼ばれる反射防止膜が付けられる。これは屈折率の異なる材質を、使用する波長に応じた厚さでガラスの表面に薄膜形成することにより、通常のガラス単体で発生する入射光の反射を抑えるもので、単層ないしは多層膜が用いられる。
 この技術を応用し、フラットなガラス基板の上に屈折率の異なる材質を、高精度にいくつも積層していくことにより、ある波長は透過させ、ある波長は反射するという強い波長選択性を持たせることができる。
 この技術を応用し製品化したものが、当社のもう1つのキーデバイスである光学多層膜フィルター(写真2)である。
 これら、非球面ガラスレンズと光学多層膜フィルターという2つのキーデバイスを組み合わせ、異なる2つの波長の信号を高精度で送受信することが可能な一心双方向モジュール「ネットワークモジュール」と、それを用いた「光トランシーバー」を開発した。
 本製品は、当社光学デバイスの特徴を生かし、FTTH市場の中でも、特に性能に厳しい要求があるPONシステム向けにターゲットを絞って開発したもの。

写真1
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  写真2
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鏡筒一体型非球面がラスレンズ
光学多層膜フィルター


◆ネットワークモジュール 「FLUFシリーズ」 
 当社ネットワークモジュールについては、第1世代のモデルを1996年に市場に投入している。
 当初、送受信ともに1310nmと同一波長でのコンセプトでスタートしたものの、市場のニーズより1310nm/1550nmの異なる2波長を送受信可能な仕様も対応した。
 本製品については上述の当社非球面レンズと光学多層膜フィルターを使用し、独自の光学設計技術を駆使することにより、ファイバー端光出力1.6mW、光クロストーク―47dBを達成した。本モジュールについては、非球面ガラスレンズを使用したことによる高い光出力と、独自の多層膜フィルターと光学設計を駆使することにより達成された低い光クロストークが特徴であり、当初光LAN用部品として量産をスタートし、その後立ち上がったPONシステム向けにも好評を得た。
 2002年2月には、光学系を見直すことで部品点数を削減し、基板占有面積を20%削減した第2世代モデル(写真3)を投入した。
 本製品については、第1世代の製品に対して、量産実績を踏まえた改善により、生産の安定化も達成した。
 今回、再度部品構成を大幅に見直し、さらに第2世代の製品との比較で基板占有面積を40%小型化した第3世代のモデル(写真4)を開発した。本モジュールは特に加入者側システムにターゲットを絞り、独自のカスタムレンズを開発することで調整コストを削減、さらに小型化を達成することで、コスト対応力と高い量産性を実現した。しかしながら、従来から定評のある、PONシステム向けとして最適な高機能は継承し、性能・コストを両立したモジュールとして完成度を高めた。

写真3
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  写真4
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第2世代光ネットワークモジュール
第3世代光ネットワークモジュール「FLUFシリーズ」


◆光トランシーバー 「FLTAシリーズ」 
 当社は本市場に対し、上述のようにレンズ・ネットワークモジュールをラインアップしているが、市場が広がるにつれ、本ネットワークモジュールに駆動回路までを取り込んだ光トランシーバーのニーズも高まってきた。
 光トランシーバーとは、LDのドライバー回路とPDのポストアンプまでを取り込んだものであり、以降はそのままデジタルデータ信号のみの回路で済むメリットがある。
 特にPON用システムについては、駆動回路にさまざまなノウハウがあり、その回路の構成については、TV用チューナーや無線モジュールなど、当社で古くから実績のある高周波回路設計技術を織り込んでいる。
 コアデバイスであるネットワークモジュールと、これら高周波回路技術を駆使することで、上り155Mbps/下り622Mbpsの伝送速度を持つBPONシステム向けONU用光トランシーバー(写真5)を開発した。本品は、当社キーデバイスである非球面ガラスレンズの特徴を生かし、高い結合効率により、光出力―1.5dBm〜+3.5dBmを有し、最小受光感度≦―28dBmを達成している。
 なお、独自の送信部駆動回路を持ち、バーストモード送信にも対応している。

写真5
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光トランシーバーFLTAシリーズ


◆今後の市場動向とそれに向けた課題 
 本デバイスについては、FTTHをはじめとするアクセス系市場向け製品である。これらについては、最終ユーザーに対するサービス価格に直結することから厳しい価格要求がある。その中、各種設計的に検討を進めることはもちろんであるが、量産時の品質安定化も必要である。
 また、FTTHが日本以外へも展開が進む中で、特に北米を中心として、現状のモジュールに放送系の信号を取り込む3波多重の要求が強くなってきている。
 当社としては、内部光学系のキーデバイスである非球面ガラスレンズと光学多層膜フィルターを持つメリットを最大限に生かし、より高度な光学設計・製造技術が要求される本デバイスへの展開を進めるべく計画中である。






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