携帯電話用音源LSIの開発動向

<ローム(株)COMMUNICATION LSI商品開発部>


◆はじめに
 1990年代半ばに携帯電話が普及していく中で、いわゆる「着メロ」文化が若い人たちを中心に定着し始め、1998年ごろ、「着メロ本」と呼ばれる雑誌が本屋の店頭で並ぶようになった。
 これは、携帯電話のキーからメロディーを入力するいわゆるHow to本で、メロディーの音階と長さなどを順番に携帯電話にセーブし、着信音として利用するというものである。この時代の携帯電話には、和音などまったくない単音(電子音1音色)で着信メロディーが作られていた。
 1999年にロームは、業界で初めて3和音メロディーLSI(BH6900KV)を開発した(図1)。従来から携帯電話向けにVoice codec、DTMF、Toneと呼ばれる機能をLSI化していた技術を発展させたものである。3和音のメロディー再生機能を内蔵したLSI(BH6900KV)は、1音色しかなかった当時では、画期的で、短期間のうちに、メロディー機能が搭載された携帯電話が、日本の標準仕様になった。
 この3和音メロディーLSIのブームにさらなる拍車をかけたのがNTTドコモの「iモード」サービスのスタートである。iモードは、携帯電話にインターネット機能を取り込めるようにしたもので、コンテンツ使用料を携帯電話使用料と同じチャンネルで徴収できることから、コンテンツビジネスを劇的に発展させた。
 そのひとつに着信メロディーデータのダウンロードサービスがあり、市場に投入されたロームの3和音メロディーLSIとそのダウンロードサービスにより、エンドユーザーは、わずらわしいキー入力から解放され、好みの着信メロディーをダウンロードできるようになり、利用者も爆発的に増えた。
 2000年にロームが開発したLSI(BU8772KN)により、本格的な音楽再生ができる携帯電話用の音源LSIが投入された。1音色(電子音)であった音色をピアノやギター、オルガン音など本当の音に近い音色で、一気に128種類を発音できるようになり、最大同時発音も16和音に拡張。さらにドラムセット(47音色)も追加され、格段に音楽性が豊かになった。
 さらに次の段階として、32和音の音源LSI開発をするとともに、より音楽表現を豊かにできる、ピッチベンド・モジュレーションなどの機能を追加。また新たなコンテンツサービス「着声」がスタートし、これに対して、ADPCM(音声再生)を内蔵した音源LSIを開発。また、この年から「iアプリ」機能が搭載され、ゲームのBGM(Back Ground Music)や効果音にも音源LSIが活用されるようになった。
 このように、音源LSIの進化により表現力や性能はどんどん上がってきたが、ロームでは、音源LSIの開発にあたって、2002年頃から新しいコンセプトを導入した。このコンセプトは、家電のコンポステレオとは全く異なる携帯電話の小さな筐体と、イヤホンに近い口径のスピーカーで、いかに高音質を出せるか? に対して、音源LSI側でいかにセット設計がしやすいかを追求するものだった。
 携帯電話は筐体構造、容積とスピーカーの特性、音源LSI特性が複雑に作用する。高音質を追求する場合、複数の筐体やスピーカーを使いシリーズ製品を迅速に設計しなければならない。携帯電話のセット設計では、その都度、音出力環境に適した音色プロファイルを作り込んでいる。
 ロームの音源LSIは、その音出力環境に適した音色を合わせ込むことと、セットメーカ側で微妙な「音づくり」ができるように、パラメトリックイコライザーを搭載していった。言い方を変えれば、いい音が「出る」音源LSIではなく、いい音が「出せる」音源LSIの開発に重点をおいた。
図1
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Road Map of Sound Generator

◆音源LSIの信号処理
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図2
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  図3
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PCM Sound Generator
MIDI DSP 発音アルゴリズム

◆64和音 音源LSI(BU8899GU)
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図4
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ブロック図

◆64和音 音源LSIの最新技術
○携帯電話に求められる音
 携帯電話向けスピーカーは、非常に小型で周波数特性も低音が出力しにくい。また、装置筐体もデザイン/小型化のためにキャビティ容量を十分に取ることができない。そのため着信メロディーの音圧を出しにくい状況が発生する。
1)パラメトリックイコライザー
 低・中・高の周波数特性に補正をかける。小型スピーカー・装置筐体にマッチした補正を可能とし音圧をかせげるようになる。
2)サンプリングレートFs=44.1kヘルツ
 サンプリングレートを上げたことで高域の周波数成分が発生可能となり、小型スピーカーで出力を取りやすい高音域の音量をかせげるようになる。
○Javaアプリケーションまたは、マンマシンインターフェイスなどエンターテインメント
3)4曲並列再生機能
 Javaでのゲームを想定した場合、BGMが流れ、そこにキャラクタの動く音、さまざまなメロディー、効果音が重なってくる。
 このソフトウエアの処理負荷を軽減するため、音源LSIが複数個存在するような機能を有し、メロディーを並列に再生することが可能になる。
4)リアルタイムなキー・テンポチェンジ機能
 本格的なカラオケアプリケーションに対応するために、メロディーの途中でも動的にキーやテンポを変えることができる。
5)リバーブ機能
 Javaゲーム・カラオケアプリケーションに臨場感(エコー効果)を出すためにリバーブ機能を内蔵している。
6)UCS(User Customized Sounds)
 任意の音の発生ができる。この機能はダウンロードにも対応し、パラメーターをダウンロードすることでコンテンツまたは、ユーザーアプリケーションの任意の音が再生可能とる。
7)ADPCMエンコーダー・デコーダー
 いわゆる「着声」に対応した機能である。ステレオでの再生を可能にしている。
 ロームの音源LSIは、DTM(Desk Top Music)用音源とは異なり、仕様・機能を携帯電話に絞り込んだLSIの開発を行っている。また、携帯電話市場からのニーズは、非常に急峻である。
 ロームは、コンテンツサービス、携帯電話の仕様、構成、アプリケーションソフトウエアなどを考慮し、その世代に適応した機能、性能を取り込んだLSIを開発している(図5)。
図5
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音源LSIの取り組み

◆今後の展開(図6)
 音源LSIの開発競争は今後、和音数競争から高音質、エフェクト機能の競争に移行していくだろう。
 また、携帯電話のエンターテインメント・マルチメディア化が進み、音に関しても、より臨場感・表現力が求められてくるであろう。その中のひとつ、3Dサウンドは、2個のスピーカーを使い頭の周りを音が上下・左右・360°定位・移動させる技術である。これによりJavaゲームの臨場感が得られ、大きな効果が期待できる。
 おそらく、2スピーカーの携帯電話が増えてくると思われる。また、当然2つのスピーカーアンプを内蔵したような複合製品も商品化されるであろう。
 携帯電話で、高画質液晶付き携帯電話やカメラ付き、Flashメモリー媒体搭載携帯電話が市場投入され約1年がたち、さらに携帯電話のマルチメディア化が進んでいる。またこの文化が日本発として海外に展開され確実に普及しつつある。
 ロームは、携帯電話向けに音源LSI以外で通信機能のLSIやパワーマネージメントLSIなどを開発してきた。またPC市場、DVC・DSC市場、ゲーム市場、ポータブル/ホームオーディオ市場などに多種多様なLSIを開発・商品化してきた実績がある。そして携帯電話のマルチメディア化が進むことで、これらのノウハウを携帯電話向けLSIに応用し、複合化したものを開発し、さらなる世界市場の要求に合った商品を投入していく。
図6
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ローム携帯電話向けLSIの開発実績





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