携帯電話端末のEMI/ESD対策

織田武司:松下電子部品(株)LCRデバイスカンパニー


  ◆はじめに
 近年、デジタル携帯機器の中でも携帯電話やデジタルカメラの小型・軽量化・高機能化への進展が著しく、目を見張るものがある。とくに携帯電話には小型高性能カメラの搭載によるメガピクセルデジカメ機能化、FMチューナーやTVチューナー搭載によるAV機能化など、さまざまな機能が付加されたものが登場している。このような高機能化に伴ってCPUやDC―DCコンバーターなどの駆動ICを搭載するため、さまざまなノイズ(EMI)の発生源となり、通話品質や映像品質などに影響を及ぼしている。また、電池の長寿命化やLSIの高集積化により低電圧・低消費電力化への動きも加速しており、それに伴って静電気によるサージ(ESD)対策も非常に重要になってきている。

  ◆EMI/ESDトータルソリューション
  (1)2モードノイズフィルターと容量制御バリスターアレイの相乗効果
 GSMやPDC、PHSに代表されるTDMA方式は、図1のように搬送周波数の間欠的電力送信(バースト信号)を行っており、その放射電力が端末本体の音声系回路へ飛び込むことがある。
搬送周波数の放射波自身は可聴帯域(20Hz〜20kHz)外のため、耳に聞こえることはないが、音声回路へ飛び込むとコモンモード放射されたノイズが音声ラインの不平衡回路を通過することによってノーマルモードノイズへ変換され、さらにダイオードなどの非線形素子によりバースト波(GSMの場合217Hz)の包絡線が検波されるために、レシーバーからバーストノイズが聞こえるようになると考えられる。
一方、携帯端末内部の放射ノイズは一般的にシールド板などで外部に出さないように対策しているが、音声系のレシーバーやマイクはシールド板をかぶせることができないことや、ハンズフリーで通話したり音楽を聴いたりするためにイヤホンマイクを付けると、そこからノイズを放射したり、人体からの静電気(ESD)をまともに受けることになる。
 このようなバーストノイズや放射ノイズ、さらには静電気(ESD)の対策として、松下電子部品では図2のように超小型・薄型の2モードノイズフィルターと容量制御バリスターアレイのペアで対策することを推奨している。 2モードノイズフィルターは、前述した2線間を同時並行的に伝導するコモンモードノイズと、変換されたノーマルモードノイズの両ノイズを除去する目的で両インピーダンスが同レベルで発生するように設計されており、結果的にバーストノイズが聞こえなくなる。 また、容量制御バリスターアレイは通常、容量値の保証はしていないが、今回、内部の容量値を一般的な積層セラミックコンデンサー並みに保証することにより、ローパスフィルターとしても使えるようにした商品である(図3)。上述の2モードノイズフィルターとペアで使用することにより、LCフィルターとしての機能と静電気(ESD)対策としての機能を有した回路となるとともに、図4のようにバリスターだけでは1nSの立ち上がりのピーク電圧が残ることもあるが、2モードノイズフィルターのインダクタンスにより、その立ち上がりエネルギーを吸収し、総じてESDのエネルギーが低減でき、よりESDに対するマージンが取れるという相乗効果を発揮する。

  図1
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  図2
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  図3
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  図4
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バーストノイズ発生のメカニズム
携帯端末の音声回路に対するEMI/ESDトータルソリューション
容量制御バリスターアレイ概要
2モードノイズフィルターと容量制御バリスターアレイの相乗効果


  (2)コモンモードノイズフィルターと超低静電容量バリスターアレイの相乗効果
 LVDSやIEEE1394、USB2.0に代表される高速差動伝送方式がPCやデジタルAV機器などのさまざまな機器に採用されてきており、第3世代の携帯端末にも採用の動きがある。 基本的にこれらの差動伝送方式はノイズに強いと言われているが、レシーバー終端でのインピーダンスマッチングなどを考慮した理想に近い線路を形成しないと反射やスキューのずれが発生し、コモンモードノイズが放射されることがある。 また、IEEE1394やUSBは有線ケーブルを接続するため、ノイズを放射したり、そのケーブルやコネクターから静電気(ESD)が流入することによりドライバーICが破壊されることがある。
 このような高速差動伝送では伝送品質の確保が重要であり、一般的なチップビーズコアや積層セラミックコンデンサーによるノイズ対策では波形が歪み、差動伝送品質のバロメーターであるアイパターン規格を満足できない。従って、このような高速差動伝送のノイズ対策にはノーマルモードの信号を減衰させない(伝送波形を歪ませない)コモンモードノイズフィルターを使用するのが一般的である。 弊社では、図5のように特に第3世代の携帯端末にも搭載可能な1.25mm×1.0mm×0.5mmという超小型・薄型のコモンモードノイズフィルターを開発量産化している。
また、静電気(ESD)対策用としてはやはり伝送波形を歪ませないよう、内部静電容量値が3pF以下という超低静電容量タイプのバリスターアレイを開発・量産化している。
この超小型・薄型コモンモードノイズフィルターと超低静電容量バリスターアレイを組み合わせて使用することにより、(1)で記載した同様の相乗効果を発揮することができる(図6)。

図5
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  図6
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コモンモードノイズフィルター概要
コモンモードノイズフィルターと超低靜電容量バリスターアレイの相乗効果


  (3)業界初“LR複合デバイス”
 近年の携帯端末は折りたたみタイプが主流となっており、液晶パネルやカメラモジュール側とRFやベースバンド回路側を、バスラインを内部形成したフレキシブル基板で接続しているのが一般的となっている。さらに、液晶パネルの高精細化とカメラモジュールの高画素化によりデータの通信速度が高速化しており、フレキシブル基板がアンテナとなってノイズが放射される。放射されたノイズはRF回路へ飛び込み、受信感度の低下やビット反転を起こしてしまうなどの誤りが発生する。 また、液晶パネルの高精細化によりパネル自体が非常に静電気(ESD)に弱くなっており、携帯端末の組みたて工程上で液晶パネルが破壊されたり、ドット欠けの現象が発生している。
 このようなバスラインの一般的なノイズ対策として、チップビーズアレイと積層セラミックコンデンサーアレイを組み合わせたLCフィルター回路やチップRCネットワーク、チップLC複合EMIフィルターアレイなどの商品が使用されている(図7)。今回、弊社では上記商品に加え、さらにEMIとESD対策の双方に効果があるLR複合デバイスを業界で初めて開発し、量産を開始した(図8)。 このLR複合デバイスは当社独自の工法であるレーザー切削工法を用い、従来から量産しているチップインダクターの導体を金属抵抗体に変えることにより、インダクターと抵抗を同時に形成させた商品である。とくに、この商品の特徴としてはチップインダクターとチップ抵抗を1パックしているため、単品で回路構成した場合よりも実装面積が半減できるとともに、LC複合やRC複合と比べてグランドパターンが不要であり、さらにインダクターと抵抗の相乗効果により静電気(ESD)対策としても効果がある。

図7
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  図8
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LCD・カメラバスラインからの放射ノイズ対策列
LR複合デバイス概要


  ◆むすび
 以上、とくに携帯端末内部におけるEMIとESD対策に対するトータルソリューションという観点で述べたが、これは携帯端末だけでなく、DSCやPC、AV機器にも適用できる内容である。 冒頭にも述べたが、携帯端末やデジタルAVの技術革新はすさまじく、弊社でもその進展に伴うニーズにいち早く対応すべく、さらなるEMI/ESD対策部品を現在開発中である。


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