HDD用磁気ヘッドの動向

高塚恵治:アルプス電気(株)磁気デバイス営業部


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HDD用GMRヘッド

  
 昨今、家庭用ビデオレコーダーは、DVD、およびHDD搭載モデルが主流となっており、各社新製品においてはHDDの記憶容量が80GBくらいから250GBの大容量のものまで花盛りである。
一方、ゲーム機器においても、新製品はHDD搭載モデルが主流となりつつあり、従来のPC用途偏重であったHDD市場が大きく変貌、拡大を遂げている。ここでは、そのHDD市場および重要機能部品であるGMRヘッドに関して現状分析と将来展望を行う。


  ◆HDDの動向
 HDD市場に関しては業界調査会社各社からいろいろと報告されているが、下記グラフ(グラフ1)は、米国の代表的HDD調査会社であるトレンドフォーカス社(米国カリフォルニア州)が予測したHDD市場、およびそれに使用する磁気ヘッド市場を示したものである(2003年CQ3時点)。これによると、2003年のHDD市場は242百万台(うちPC用途:226百万台、PC外17百万台)2004年は262百万台(うちPC用途:240百万台、PC以外:22百万台)となっている。
2003年予測を分析すると、サイズ別では、約81%が3.5インチであり、2.5インチでは18%、1.8インチ以下のサイズが約1%としている。一方、用途別では、PC用が93%で、PC用途外が約7%と予測している。しかし、2003年CQ3(7―9月)の各HDDメーカー生産実績をみると、当初予測より大幅な伸びを示し、また、2004年も非常に好調と予測しており、今の推移では2003年で250百万台、2004年には300百万台を超す勢いである。
この好調の原因は、PC業界における個人消費の好転、企業での買い替え需要の拡大に加えて、冒頭に述べた民生機器、ゲーム機器への拡大、あるいは小型の1.8インチ、または1.0インチサイズの車載用ナビゲーションシステム、デジカメ用記憶メモリー、あるいは音楽用としての携帯端末機器への搭載などへと、その応用範囲が急速に拡大していることにある。
なお、PCを地域的にみると、従来の欧米中心から、アジア地域での消費拡大、特に中国市場での消費拡大が牽引となっていることが大いに注目される。
また、記録容量の観点で2003―2004年での変化の推移をみると、デスクトップPC市場においては、2003年CQ3 40―80GB中心から、2004年CQ3 80―120GBへシフトしていること、Non―PC市場としてのPVR(Personal Video Recorder)や、STB(Set Top  Box)では同様に80―120GB(2003年CQ3)から、100―250GB(2004年CQ3)へと拡大している。
 HDDは、1952年にIBM社が開発発売以来、技術革新、市場での拡大を続けてきた。製造メーカーも、日本、米国、欧州で50社以上の参入企業があったが、現在では寡占化が進みSeagate社、Maxtor社、Western Digital社、日立グローバルシステム社(IBMと日立の合弁会社:2002・12月合併)、富士通、東芝および韓国のSamsung社で全世界のHDDのほとんどを作っている。一方、1.8インチ以下の小型サイズに特化したHDD専業メーカーも新規参入しており、将来における市場拡大を睨んだ動きも活発化している。開発生産拠点は、ここ数年大きな変化はなく、米国、日本で開発し、生産はフィリピン、シンガポール、タイランド、マレーシア、インドネシアおよび中国などに分散している。しかし、一部のHDDメーカーは中国生産拠点を拡大しており、また中国への生産シフトを計画中の大手メーカーもあり、今後中国の生産拠点としての、部品の調達、物流を含めた重要性が拡大している。現在は3.5インチHDDでは、80GB(メディア1枚)、2.5インチでは40GB、1.8インチで20GBが主流となっている。しかし、既述のごとく、市場の記録容量アップに対する期待は強く、また、記録密度向上で使用する部品点数を下げ製造コストを下げる動きは強く、各社ともさらなる容量アップに向けて開発中である。
このHDD記憶容量アップを支えるHDD技術としては(1)磁気ヘッド技術(2)磁気媒体技術(3)ヘッド、メディアのトライポロジー技術(4)信号処理技術(5)高速回転技術(6)高精度サーボ技術などがある。
このなかで、磁気ヘッド技術は、HDDの記録容量を飛躍的に伸ばす重要な技術であり、アルプス電気を含め磁気ヘッドメーカー2社と磁気ヘッド内作能力を持つHDD装置メーカーの一部が開発生産している。以下に、この磁気ヘッドの市場動向、技術動向および将来展望について述べる。

  グラフ1
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  グラフ2
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  グラフ3
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HDD Forecast
PCおよびNon-PC用途
GMR HGA グローバル・マーケット


  ◆磁気ヘッドの動向
 磁気ヘッドの市場は、前述したトレンドフォーカス社によると、2003年656百万個、2004年683百万個を予想している。ドライブ1台あたりの平均磁気ヘッド使用個数は、2003年2.7個、2004年2.6個に相当する。ただし、この磁気ヘッド使用個数は、HDDの用途によってまたHDDサイズによって当然異なる。
一般的にHDD用磁気ヘッドは、記録用薄膜ヘッドと再生用GMRヘッドで構成されている。この磁気ヘッドは、さらなる記録容量アップのために(1)記録、再生側コアの極小化(2)再生側の単位トラック幅あたりの感度アップ(3)データ転送レート向上のための記録ヘッドの周波数特性向上(4)ヘッドと媒体間の間隙を下げることとトライポロジー改善――が技術的な流れである。昨今の媒体は、媒体の熱揺らぎ現象対策で記録磁化状態を安定化させるために、保磁力の高い材料を採用しており、記録ヘッドにおいては、磁性材料の最適化が必要で、かつより強い、シャープな磁界を発生させる構造上の工夫が必要である。
当社においては、飽和磁束密度の高い材料(2.35テスラ)を選定し、かつ積層メッキ法とポールトリミング工法との組み合わせで、一段と高効率、高精度のトラック幅を持つ書き込みヘッドを実用化している。一方、再生側ヘッドにおいては、当社はCIP―GMR(Current In(the) Plane)と呼ばれるハードバイアス方式構造で、さらなる改善を加え効率の良いヘッド構造を採用している。一般的にCIP―GMR方式では下部シールドと上部シールドの間隙にアルミナ系の絶縁膜をはさんでGMR積層部およびリード部、ハードバイアス膜部を形成している。GMR積層部は反強磁性体層、ピンド層、フリー層などで構成されるが、当社においてはSeed層、ピンド層にはSFP構造(Syntetic Ferrimagnetic Pinned Layer)、またフリー層にはMR比をあげるためにスペキュラー効果を持つ特殊な材料を採用。これらの技術を通してCIP―GMRの感度向上を達成している。

図1
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  図2
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GMRヘッド(HDD用GMR薄膜ヘッド) 構造図
アルプス電気 垂直記録ヘッド試作品


  ◆磁気ヘッドのさらなる展開
 各HDD装置メーカーは次世代モデルとして3.5インチHDDにおいては、120GBあるいは160GBモデルの開発にしのぎを削っている。当社においては、特に記録密度120Gbit/inch2   (3.5”160GB)以上においては、上記のCIP―GMR、アドバンスドCIP―GMR方式では対応が困難であり、構造、材料を含めた最適化の検討と、CPP―GMR方式(CurrentPerpendiculer to the Plane)と呼ばれる膜面に垂直に電流を流す方式での開発を同時にを進めている。このCPP―GMR方式にはTMRヘッド(Tun‐neling Magneto Resisteve)方式と、GMR効果を利用した方式があり、電磁変換特性、生産性、量産性も考慮した開発を行っている。また、垂直記録方式も、長手記録による限界から実現性が高くなっており、垂直記録用の記録再生複合ヘッドの開発も行っている。
これらの領域においてはもはや、磁気ヘッド、あるいはメディア、IC単独での開発では達成できず、ドライブのターゲットを共有化して各社の連携が非常に重要になっている。
MRヘッドからGMRヘッドへの移行時期は、年率100―120%で記録密度が拡大したが、現在は、年率60%程度まで落ちてきている。
静止画から動画記録がさらに拡大しているなか、HDDへの期待がさらに高まっており、当社においても、磁性材料技術、精密加工技術、薄膜技術、トライポロジー技術、評価計測技術、などを駆使し先端技術を追求している。


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