EMC・ノイズ対策技術
ノイズ対策部品の技術動向

〔写真1〕LE-Mシリーズ


<はじめに>

 電子部品の誤作動や故障を引き起こす原因として、ノイズによる要因があげられる。電源ラインを通じて外部からノイズが機器に侵入した場合、機器が誤作動する可能性がある。機器内部に使用されているデバイスは低電圧化が進んでいるため、以前にも増してノイズの影響を受け易くなっている。また、機器自体から電源ラインを通じて外部にノイズを放出する場合もあり、他の機器に影響を及ぼしてしまうことがある。とくに近年は機器動作速度が高速化していることから、ノイズの発生も増大しているのが現状である。  これら両方のノイズを対策するため、機器入力部品にはフィルター回路(図1)が設けられている。


〔図1〕フィルター回路図

ノイズにはノーマルモードノイズとコモンモードノイズがあるため、それぞれのノイズ除去に適した対策部品を選定する必要がある。今回はこれらノイズ対策に適用される部品について紹介する。

<ノーマルモードノイズ対策部品>

 前項にも述べたように、電源ラインのノイズ対策(伝導ノイズ対策)には、ライン間に発生するコモンモードノイズの対策が必要である。
 ノーマルモードノイズ対策としては、電源ライン間にノイズサプレッションキャパシターが使用され、このような個所に使用されるものはアクロスザラインキャパシターまたはXクラスキャパシター(図1の「Cx」)と呼ばれている。ノイズ基本周波数が低い場合、ノイズサプレッションキャパシターの静電容量を大きくするとライン間のインピーダンスが下がり、ノイズ減衰効果を高めることが可能となる。
 ライン間に使用されるキャパシターは、機器動作時には常時通電されているため、万が一キャパシターが故障した場合、発煙・発火を引き起こす可能性がある。そのため電気的特性にすぐれた海外安全規格認定品(UL、CSA、EN等)する必要がある。
 また、機器の小型化に伴い、使用される部品も更なる小型化を要求され、電気的ストレスも増すことが考えられるため、より安全性の高い部品が必要とされる。
 岡谷電機産業では、海外安全規格認定品のメタライズドフィルムキャパシターを多種取り揃えている。弊社LEシリーズは海外安全規格認定品(UL、C-UL、SEMKO-ENEC)を取得しているとともに、アクロスザラインキャパシターとしては、弊社製品群の中では最も小型の製品である。  さらに、LEシリーズに対して狭端子間のLE-Mシリーズ(写真1)も新規販売を開始している。
 これらシリーズは環境対応製品としてRoHS規制物質を一切使用していないため、今後設計される欧州輸出機器への使用に有効である。

<コモンモードノイズ対策>

 コモンモードノイズ対策には、コモンモードコイル(図1の「L」)および電源ライン-グラウンド間に接続されるノイズサプレッションキャパシター(Yクラスキャパシター・図1の「Cy」)が使用される。
 コモンモードコイルは磁性体(フェライトなど)に銅線を左右対称に巻きついているため、ライン-グラウンド間に流れるコモンモード電流による磁束が足し合わされインピーダンスが発生する(ノーマルモードのイズに対しては、磁束が打ち消しあう方向に発生してしまうため、効果がない)。
 ノイズ吸収効果を高めるためには、インダクタンス値が大きいコイルを使用する必要があるが、フェライトコアを使用すれば当然形状も大きくなり、ノイズフィルターとしても大型の物になってしまう。よってコアの透磁率が大きいものを使用し、形状を抑えることも必要となってくる。
 そこで、現在ではフェライト以外に、透磁率の高いナノ-クリスタル材のコアも使用されており、高減衰でありながら小型形状にすることが可能である。
 ライン-グラウンド間に使用されるノイズサプレッションキャパシターには、フィルムキャパシターおよびセラミックキャパシターがあげられ、ノイズ分をグラウンドにバイパスさせる役割を果たしている。
 この用途に使用されるノイズサプレッションキャパシターはグラウンド(機器の筐体)に接続されることから、故障した際に感電の危険を招く恐れがあるため、ライン間に接続されるキャパシター同様、電気的特性が保障されている海外安全規格認定品を使用することが必須となる。
 弊社では、新製品としてYFシリーズ(写真2)を販売している。

〔写真2〕YFシリーズ

このシリーズは弊社従来品(YEシリーズ)に対して小型化を実現させたとともに、定格電圧の高圧化(250Vacから300Vacへ)、静電容量値の引き上げ(最大静電容量0.1μFから0.47μFへ)を行った製品であり、大型機器のノイズ対策用として有効である。
 以上は部品単体での紹介であるが、弊社では上記同等部品を使用したノイズフィルターも多種用意している。
 ノイズフィルターはすでにLC回路が組み込まれている製品であり、さまざまな端子形状(ネジ端子、端子台など)を取り揃えていることから機器への後付が容易である。弊社製品の中では、とくに小型、高減衰タイプとして単相用ではSUP−EV、SUP−HL(写真3)、3相用では3SUP−HLシリーズがあげられる。

〔写真3〕SUP-EWシリーズ

 ノイズフィルターとして選定する場合には、対策する機器とのマッチングも影響することから、現場でのノイズ測定を行いながら選定することが一般的になっており、弊社でもノイズ診断車・測定機器を用意してコンサルティング業務を行っている。

<コンデンサー複合機>

 機器に影響を与える要因として、これまで説明してきたノイズの他にサージによる影響がある。サージの発生原因は大きく2種類に分けられる。雷や静電気など自然的の発生するサージと、インダクター負荷を使用している機器などから発生する逆起電圧サージである。
 雷・静電気サージに対しては放電方式タイプのサージアブサーバー(GDT:Gus DIscharge Tube)、半導体系のバリスター、シリコンサージアブサーバーなどがあげられるが、今回詳細説明については省略する。機器から発生するサージ(逆起電圧サージ)などの対策にはコンデンサーと抵抗器の複合部品(スパークキラー:写真4)やバリスターなどが使われている。

〔写真4〕スパークキラーREシリーズ

これらのサージには、ほとんどの場合繰り返し(繰り返し頻度はさまざまであるが)発生するため、繰り返しサージに対する長寿命が求められている。
 図2にスパークキラーによる基本的なサージ対策方法の回路図を示す。

〔図2〕スパークキラーによる対策方法回路図

スパークキラーは前述した通り、フィルムキャパシター(C)と抵抗器(R)の複合部品であり直列接続されている。
 原理としては、CRの時定数によってパルス電流の立ち上がり(di/dt)を小さくすることにより誘起電圧を抑えている。スパークキラーの定数は一般的に下式により選定されている。
C=I2[μF] ※I=負荷電流[A] R=負荷回路の直流抵抗値[Ω]

<今後の課題>

 近年の電子機器の小型に伴い、特に機器自体の発熱に対して機器内部における放熱性が悪くなることが考えられるため、高雰囲気下での使用に耐えられる部品の要求が今後増加してくることが考えられる。
 また、全世界的に推進されている環境負荷物質の不使用に対応すべくRoHS規制への対応が必須事項であり、弊社においても対応が進めている。

<米山剛:岡谷電機産業渇c業本部技術営業部NSグループ>