光コネクタ技術
高密度オプティカル相互接続の発展



<背   景>

無線を含むブロードバンドアクセス技術の進歩が、人や情報へのアクセス能力を劇的に高めてきている。最近の世界規模での急激な情報通信産業の成長は、数億のユーザーから発生するトラフィックをサポートするためのインフラ整備への要求の結果といえる(図1)。

インターネット・ドメイン調査のドメイン数
<出所:インターネット・ソフトウェア協会(www.isc.org)
〔図1〕インターネットに接続するホスト数

数十億ものデジタルデータのパケットが、交換機、長距離の光ファイバ、メトロリングなど多種多様なネットワークレイヤーを介して世界中を駆け巡っている。

光ファイバは非常に細いので(保護コーティングを含めても直径は250ミクロンで、毛髪の約2-3倍)、数百のファイバをコンパクトなケーブルに実装することが可能である。しかしながら、コネクタでこのファイバを終端するとなると、大きなスペースが必要になる。

ムーアの法則に従ってスイッチや半導体チップのチャンネル数はますます増加していくが、コネクタの技術がこれに追従するのは、物理的な制約から容易なことではない。

光コネクタは人手で扱うために、少なくともある大きさでなければならない。また、接続や保持のメカニズムも、強度を保証するための構造を必要とする。したがって、このような問題を回避しつつ光ファイバの実装密度を増す方法は、1つのフェルールに複数のファイバを実装することになる。

以上のような背景から、最近MTの技術をもとにした光コネクタが市場で大変注目されている。

MTは、もともとNTTが多心リボンファイバのスプライスのために開発したものだったので、嵌合機構のない単純な構造のものであった。

MPOはMTをベースに着脱を容易にするプッシュプル方式の嵌合機構を有するハウジングを付加したコネクタで、現在では、多心光コネクタ市場でもっともポピュラなものになった。MTに実装できる光ファイバ数は4、8、12芯、さらに、12芯を2列から6列に並べたものへと増加してきた。単芯用光コネクタの2.5mmおよび1.25mmのセラミック円筒形フェルールと同様、MTは多芯光ファイバ用フェルールのデファクトスタンダードとなった(図2)。


〔図2〕MTフェルール(US Connec Ltd.からの写真)

MTフェルールは、マルチモード用およびシングルモード用の精度のものが複数のメーカーから購入できる。同様にMPOのケーブル加工品もいろいろな会社から入手でき、ストレージネットワークや構内配線の用途に長年使用されている。

<MT技術の特徴>

1.25mm/2.5mmの円筒型フェルールの単芯コネクタと異なり、角型のフェルールを使用するMTでは、そのアライメントには直径0.7mmのガイド穴と精密なピンで行われ、ファイバは、ガイド穴の間に形成された精密な光ファイバ用の穴で保持される。

高い光学的性能を得るためには、ファイバ用の穴の位置精度はシングルモードファイバの場合で、1μm以下の誤差であることが要求されるが、成形材料と成形技術、および精密寸法測定技術の進歩により、このような高い寸法精度が達成されている。

<72本ファイバ>

このような技術的進歩により、マルチモード用では72本もの光ファイバを実装できるMPOが開発された。これに用いるフェルールは、図3にあるように12芯のファイバ穴を6列ガイド穴の間に形成したものである。


〔図3〕72芯MTフェルール

72芯MPOでは6枚のリボンファイバを重ねるための空間を提供すると同時に、フェルールにかけられるスプリングの力が多数のファイバに分散してしまうため、それぞれのファイバに十分な力がかかるようスプリングの構造が見直されている。それでも、72芯のMTですべての光ファイバが光学的なコンタクトを達成することは大変困難で、より高精度な平面度を達成する研磨技術が必要となる。タイコ エレクトロニクスでは、そのような精密研磨プロセスの開発を高密度コネクタのために進めてきた。この72芯MPOは高精度に制御された研磨技術で研磨され、その端面精度は干渉顕微鏡により確認されている(図4、5)。


〔図4〕PARA-OPTIXTM72チャンネルMPOコネクタ


〔図5〕72本ファイバMTフェルールの端面ジオメトリの測定例

端面ジオメトリの評価装置や多チャンネル一括の挿入損失テスターなど、超多芯MTの開発にはこれまでのMTコネクタの開発設備よりも一段と進んだ設備が必要となるが、タイコ エレクトロニクスではこれらを整備し、開発を進めている(図6)。


〔図6〕端面ジオメトリを計測する装置

<光学性能>

図7にマルチモード50/125の72MPOの挿入損失試験結果を示す。平均接続損失で0.22dB、最大接続損失で0.53dBと代表的な単芯光コネクタに比べると、損失は大きめだが、72芯もの光ファイバを一度に終端した光コネクタとしては、画期的な値といえる。


〔図7〕72芯MPOの挿入損失

<互換性トランシーバ>

2000年の情報通信バブルの崩壊に始まる多芯トランシーバ業界の調整があったが、現在でもいくつかのメーカーは多芯デバイスを提供している。

72芯のような複数配列トランシーバはまだ一般的に市場には提供されていないが、いくつかの会社が単列のデバイスを提供している。これらのデバイスは、72MPOなどの高密度コネクタと接続するジャンパを使用して基板の中央に取り付けることができる。

これにより、貴重なカードエッジおよびフロント・パネルの実装領域を有効に利用できる。

通常のSFF光トランシーバ同様、パラレル光デバイスにも複数のMSA(マルチサプライヤアグリーメント)がある。

POP4(http://www.popoptics.org)では、12芯MPOコネクタのうち4ファイバは送信、4ファイバは受信、中心の4ファイバは未使用とし、クロストーク防止のために送信・受信の回路の分離をかなり単純にできるトランシーバを規定している。

SNAP12(http://www.snapoptics.org)では同じ物理的形状(12芯PO)を利用しているが、12個のチャンネルを持つ独立した送信モジュールと受信モジュールを定義している(図8)。


〔図8〕SNAP12デバイス(Agilent Technologies,Inc)からの写真

<用  途>

多数の光ファイバを利用するアプリケーションでは72MPOなどを使う高密度インターコネクトがひとつの選択肢となる。これには、データセンター、ストレージ関連施設、構内配線、FTTxインフラなどが含まれる。

交換機やルータなどの多数のポートを持つ装置も高密度インタコネクトが選択肢となる。例えば、インフィニバンド(http://www.infinibandta.org/)の4Xや12Xでは実際にMPOインターフェイスを使用している。
 
<課題はポート密度>

90年代後半のSFFコネクタ戦争は、ポートの高密度化の要求から発生した。

半導体技術はスイッチや半導体チップの統合レベルをさらに推し進める一方、光コネクタの課題は、いかに半導体の高密度化の進歩に対応するかという点にかかっている(図9)。


〔図9〕共通コネクタ・スタイルのポート密度

<要  約>

これまでは、光トランシーバの幅は光コネクタの幅とほぼ同じであった。MTフェルールに実装可能なファイバ数が増えると、トランシーバの電気コネクタのサイズや熱分散など、別の課題が発生した。ポートの高密度化という課題においてトランシーバの寸法問題を解消する方法の1つは、トランシーバは基板中央に配置し、カードエッジには高密度コネクタを配置し、その間を短いジャンパで接続することである。

このソリューションは、通信相手となるチップ付近にトランシーバを配置し、電気回路長を最小にすることで高速伝送と低消費電力を助けるという付加価値も提供する。

多くのアプリケーションで、ポート数と伝送速度を同時に拡張することが望まれている。ケーブルが銅線と比べ何倍も細く(軽く)、かつ、エレクトロニクスに合わせ伝送速度が拡張できるため、高密度光ファイバインターフェイスは、架間または架内の配線に大変魅力のある方式である。

そして、今後も社会が常により高速な伝送を望むならば、光ファイバの高密度実装技術は非常に重要な技術であり続ける。

DSL、ケーブル・モデムの普及やFTTxなどブロードバンドアクセス技術は、VoIPやビデオオンデマンド、ストリーミングビデオなどの広帯域アプリケーションへの実現を加速してきた。

MTテクノロジーをベースにした高密度コネクタおよび高密度インターコネクションは、このような今後ますます問題となるネットワークの高速化および拡張性へのソリューションを提供する。

<タイコ エレクトロニクス アンプ(株)>