C1608形状3端子貫通チップコンデンサーの技術

安彦泰介/本庄修/青木崇:TDK―MCC(株)技術統括部第一技術部

写真
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DVDレコーダーへのCKD61B製品の使用例


  ◆はじめに
 現在、ほとんどの電子機器はデジタル化し高速化するにつれて、発生する電磁ノイズも高周波領域となり強力になっている。一般的にコンデンサーを用いたEMC対策は、コンデンサーに寄生する等価直列抵抗(ESR)と等価直列インダクタンス(ESL)の影響を多大に受けることはよく知られている。その理由から高品位が求められるEMC対策には、従来の2端子型のチップコンデンサーを並列に複数個使用するか、さらに部品本体のESLがはるかに小さい貫通型構造のチップコンデンサー(EMIフィルター)などが使用される。
 今回紹介する3端子貫通チップコンデンサーはデジタル化によって発生する電磁ノイズのEMC対策のひとつとして使用されてきた。
図1は3端子貫通チップコンデンサーの簡単な説明図である。
3端子貫通チップコンデンサーは製品ラインアップも多く、デジタル信号に含まれる不要な高周波対策や電源のデカップリングなど幅広く用いることができる。
TDKはセラミック材料や厚膜形成技術、端子電極形成技術の開発により1608形状において1μFを有する3端子貫通チップコンデンサーTDK品名「CKD610JB0J105M」を小型高周波デカップリング用部品として製品化している。
今回はさらに当該製品のESLを改善し、かつ小型多層基板に適したランド設計を可能したTDK製品「CKD61BJB0J105M」について紹介する。

図1
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3端子貫通チップコンデンサーの外観図、内部構造、使用例


  ◆高周波デカップリングコンデンサーの小型化と高密度実装技術
 デジタルICのデカップリングやスイッチング電源のノイズ対策などには、高容量で高電流に対応できる製品が必要である。デカップリングコンデンサーはICの電源端子近傍に接続され、動作に必要な高周波電流を供給するために用いられる。しかし、近年のデジタル回路の高周波領域ではコンデンサーがもつ寄生成分(ESRやESL)が重要なポイントとなる。ESLやESRが小さくないとコンデンサーからの放電電流が阻害される現象がおこる。従来の2端子型の積層セラミックチップコンデンサーを使用し、今日の高周波化に対応するのであれば、多数のコンデンサーを用いてESRやESLを低減化し所望の特性を得ることになる。そのため、デカップリングに要する回路規模と部品コストは増大し、またポータブル機器では小型化の妨げになってしまう。また、基板の多層化により単位面積当たりの基板単価が上がるため、EMIフィルター製品の小型化が進んでいる。
 図2に従来の2端子型コンデンサーと貫通型コンデンサーの簡単な例を示す。貫通型コンデンサーが従来製品(2端子型)のESLより低いことで当該使用方法を可能にする。
今回紹介するTDK新製品「CKD61BJB0J105M」は従来品(TDK品C1608JB1A105M)に比べESLが1/5以下であり、1μFの静電容量を1608形状に収めた超小型3端子貫通チップコンデンサーである。さらに当該新製品CKD61B製品は小型化によるGNDラインの不安定となる問題点を解決するために独自の端子電極構造にした「高速デカップリングコンデンサー」として開発された。
写真はTDK製品CKD61B製品がDVDレコーダに使用されている実例である。
当該製品はIC近傍に使用され、両面基板(表裏)に7〜10個使用されている。

図2
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デカップリング例


  ◆超小型/3端子貫通チップコンデンサーの開発
◇CKD61BJB0J105Mの開発
 TDK品名「CKD61BJB0J105M」は図3に示すようにTDK独自の高容量技術に加え、超小型製品の側面端子形成技術の開発により量産化を実現した製品である。
3端子貫通チップコンデンサーは3端子構造のEMIフィルター製品として開発され、T型やπ型のEMIフィルター製品と市場を競合してきた。
3端子貫通チップコンデンサーの内部構造は図1に示すように他のEMIフィルター製品と比較すると単純である。そのためTDK製品2012形状「CKD510製品」においては、静電容量の公差やバイアス特性など、とくに重要視せず、実使用条件での共振点と減衰特性で部品が選定され、次に小型化とコストダウンを目的にC1608形状「CKD610製品」が商品化された。
開発製品「CKD61B製品」は、さらにC1608形状のままで内部電極自体のインダクタンスを下げ、独自の端子電極形成技術によりGND電極の安定性(スルーホール接続の安定性)を向上させた。高密度実装を実現させるために、製品公差を±0.1mmとした。
◇CKD61BJB0J105Mの特徴
(1)高容量(静電容量1μF)
・静電容量が大きいので広い周波数帯域でのノイズ除去効果が可能である。
・デジタル回路におけるデカップリングコンデンサーの役割が可能である。
(2)高電流対応(許容電流2A)
・内部電極に比抵抗の小さいニッケル(Ni)金属を用いて多層化技術によりR―DCを低く抑えることができた。
・端子間の直流抵抗R―DCはmΩ以下と小さく、高効率が要求される回路への使用も可能である。また、直流電流による自己発熱も小さく周辺素子への影響はない。
(3)低インダクタンスの実現
・開発製品「CKD61BJB0J105M」は、GND電極の引き出し幅を従来製品(TDK製品CKD610製品)より広くすることで、内部電極のインダクタンスを低くすることが特徴である。
・GND電極幅が広くなったため、実装基板に配置にされるランド寸法も広くできるため、基板スルーホールもこれまで以上に安定させることができる。
図4に示すように、開発製品CKD61B製品は、1GHzにおいて現行品CKD610製品と比較して―4dB低い結果が得られることがわかる。

図3
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  図4
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3端子貫通チップコンデンサーの比較(開発経緯)
4端子貫通チップコンデンサーの減衰特性比較


  ◆実装例 スルーホール本数と減衰特性効果
 図5にCKD61B製品の推奨実装ランド寸法を示す。
開発製品「CKD61B製品」の特徴としてGND電極寸法幅を従来製品「CKD610製品」より大きくすることでスルーホール本数を増やすことができる。
図6にスルーホール本数と減衰特性レベルのデータを示す。
今回の実験結果ではスルーホール(径Φ0.3mm)をGND電極と基板GNDパターンに3本以上接続することで従来レベル(1本)と比較すると約―10dBの減衰量が得られた。
また、スルーホール径を大きくしても同様な効果が得られるが、大き過ぎるとクリームハンダがスルーホールに流れ込み、逆にグランドパターンとの接続が不十分となる場合があるので注意が必要である。

図5
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  図6
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CKD61B製品の推奨ランド寸法
スルホール本数と減衰特性DATA


  ◆まとめ
 今後、TDKはデジタル回路の著しい高速化によって高周波デカップリング素子としてESLを低減したチップコンデンサーの必要性が大いに高まると考えている。
また、基板の多層化による基板単位面積当たりのコスト対策が必要となる。3端子貫通チップコンデンサーの需要も当該市場要求により増加するものと期待している。
しかし、一方で3端子貫通チップコンデンサーは、基板のカスタム化や基板の設計によってはノイズ除去効果に差が出ることなどの問題があり、採用いただくには回路設計段階から設計者間での検討が必要と考えている。


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