特集:カード用コネクタ技術(アルプス)

■昨今の市場動向
 小型メモリーカード市場は、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、パソコン、TV等、搭載製品の種類の増加と、それらの機器への搭載比率の向上により、拡大し続けている。

  デジタルカメラ、携帯電話などの画像や音楽を保存する外部メモリーとしてカードの種類、搭載量とも増え続けており、現在、メモリースティックやメモリースティックDuo、SDカードやminiSDカードなどが、携帯機器向けの代表的なメモリーカードである。

  近年、これらの携帯機器の小型薄型化に伴い、より小さなメモリカードが登場している。新しいIC記録メディアとして小型多機能化が進む携帯電話向け用途の中心となるのが、microSDカードやメモリースティックマイクロである。

  これらの新しいメモリカードの登場は、既存のカードとともにメモリカード市場のさらなる拡大を促すものと見ている。

  また、外付けの外部メモリーとしてカードのほかに、新しい通信モジュールとして開発されたWマイナスSIMが登場している。これは、通信機能と電話帳などのメモリー機能を持ちあわせ、携帯電話、PDA、ノートパソコンなどの異なった機器間での通信情報の共用化を可能にするモジュールカードである。


■小型メモリーカード用 コネクタ開発状況

◇メモリースティックマイクロ用コネクタ

  新しい小型記録メディア、メモリースティックマイクロは、既存のメモリースティックDuoの約4分の1の大きさである。メモリースティックマイクロ接続用コネクタSCNAシリーズはスタンダードマウントタイプで、カードの外形サイズを損なわない最小の実装面積を実現した。

このシリーズは、カードの挿入/排出がカードを押すことで挿入、再度押すことで排出するプッシュプッシュ機構を採用し、カード排出量が4mmとユーザーがカードを扱いやすいように配慮されている。また、カードの表、裏を間違って挿入してもカード挿入が出来ない構造(カード誤挿入防止機構)によって、ユーザーの誤操作の防止を促している。

さらに、カードが簡単に抜け落ちてこないようにカードロック保持力を高くしている。カードが排出され、カードロックが解除された後に対しても、カード脱落防止(ハーフロック機構)を設け、カードが半分挿入された状態でもカードが容易に抜け落ちてこないようにしている。

プッシュプッシュ機構では、カード排出時にカードを強く引いて排出させると、カードが飛び出してしまうことが考えられるが、本シリーズでは、その飛び出しを防止するカード飛び出し防止構造も取り入れている。

また、振動、衝撃、落下などによる電気信号瞬断対応としては、電源端子、Ground端子をツイン接点とし、瞬断防止を強化している(写真1)。

◇microSDカード用コネクタ

microSDカード用コネクタは、指先に乗ってしまうほどの大きさのメモリーカードに対応するコネクタとして、ユーザーの使い勝手を重視した操作方法やセット設計の多様化に応じた異なる実装方向など、豊富なバラエティを展開している。
写真2
SCHA1Aシリーズはスタンダードマウントタイプで、カードの挿入/排出はカードプッシュプッシュ機構とし、カード排出量は3mmを確保。

つぎに、前述のSCHA1Aシリーズとほぼ同じサイズながら、カードの挿入/排出を検知する検出スイッチが付加されたタイプとして、SCHA1Bシリーズ(スタンダードマウントタイプ)、およびSCHA2Bシリーズ(リバースマウントタイプ)を展開。

搭載された検出スイッチは小型ダブルトーションばねとハウジングにインサートされた固定端子で構成され、少ないスペース内でスイッチ機能追加を実現している。

また、スイッチのアクチュエータ部(カードとの接触部分)では、ダブルトーションばねをモールドで囲い絶縁することで、カードの挿入/排出時にばねがカードに当たり変形してしまったり、逆にばねがカードを傷つけられたりすることを防いでいる。また、アクチュエータ部でカードを受けるため、確実なカードの検出を実現する。なお、スイッチの接点機構は、高い接触信頼性を得るため、しゅう動接点タイプを採用した。

このシリーズも、メモリースティックマイクロ用コネクタ同様に、カードの挿入及び排出位置でカードが抜け落ちない独自のカードロック機構とカード誤挿入防止構造も付加している。

3つめに、カバーを開けてカードを装着させるヒンジカバータイプのSCHBシリーズがある。このシリーズは、セットの内部など任意の場所にコネクタを配置できる。

コネクタ上側からカードを装着、ヒンジカバーを閉じスライドさせて装着の完了となるが、カバーをスライドさせた時のクリック感によって、ユーザーはカードが確実に装着されたことがわかる設計となっている。

このように、ひとつのカードに対して、各種バラエティを取り揃え、各シリーズの特徴付けと選択の自由度を上げている(写真2、3)。

写真3

◇WマイナスSIM接続用コネクタ

各種メモリーカード用のコネクタを紹介してきたが、最後に新しい多機能通信モジュールWマイナスSIM接続用コネクタ、SCZAシリーズを紹介する。本製品は、モジュールカードの外形サイズを損なわない最小の実装面積を実現した。カードの挿入/排出はカードプッシュプッシュ機構とし、カード排出量は5mmを保持している。また、各種メモリカード同様に、カードロック機能、カード脱落防止(ハーフロック機構)、カード誤挿入防止構造、及びカード飛び出し防止構造を採用している。

さらに、振動、衝撃、落下といった電気信号瞬断対応として、電源端子、Ground端子は接点端子をツイン化し、瞬断防止を強化、信頼性の高いコネクタを実現した。

バラエティとして、カードを押し込むことで挿入し、引き抜いて排出させるヘッダタイプもラインアップしており、セット設計の自由度の向上に貢献している(写真4)。

写真4

■ロバスト性に優れた製品開発

  メモリーカードの小型化に伴い、各種カード用コネクタの小型化・薄型化はより顕著になってきた。これは、コネクタの樹脂(モールド部分)の薄肉化が進んできていることを意味する。

  この薄肉化には、強度・流動性等の面から素材として最適な樹脂の選択を行い、成形時に樹脂が流れ込むゲートの位置の選択及び流動解析シミュレーションの活用によって成形での反り・変形の予測・ウエルドの位置もコントロールし、最適化を図っている。

  また、コネクタ内に搭載された検出スイッチの接点等で用いるばねは、応力・加重の設定において、応力解析シミュレーションにより、メモリーカード挿入時の接点のたわみ・挙動を事前に把握することで、信頼性の高い安定した接点ばね形状を実現した。

  さらに、高周波領域で使用するコネクタには、電磁界シミュレーションにより、線路長・形状の最適化を行っている。

  このようなシミュレーション技術と品質工学を使うことで、ロバスト性(市場でのいろいろな使われ方に対する機能の安定性)に優れた構造を実現している。

■今後の市場動向と取り組み

  新規格の小型メモリーカードの誕生は、変換アダプタの必要性も増加すると見ている。また、利便性の観点から数種類のメモリーカードをひとつの挿入口で対応するコンバインタイプのコネクタの要望も増えてくるであろう。当社はこれらのニーズに向けて、市場の要求を的確に捉え、コネクタの開発・提案を行っていく。

※記載されている商品名は各社の商標または登録商標です。

  <三浦貞一:アルプス電気(株)コンポーネント事業部 第5技術部>