特集:電源用部品技術

小型・高性能 パワーMOSFET内蔵スイッチング電源IC

■はじめに

 近年、電子機器に使用されるLSIなどの高機能、多機能化に伴って消費電力もますます増加する傾向にある。また、消費電力の増加に伴い、携帯機器はもとより据え置き機器においても低消費電力化の要求が絶えない。その一方で、すべての電子機器において小型化が進んでおり、消費電力増加に伴う電源の大容量化と小型集積化という、相反する特徴が求められる。
  今回、それらの要求に応えるべく開発した小型、高性能の降圧型スイッチング電源ICを紹介する。


■携帯機器に最適な超小型スイッチング 電源IC「BD9122GUL」(写真)

 携帯電話やデジタルスチルカメラなどの携帯機器は、電源電圧も多様化し多チャネルの電源を必要とする。このような携帯機器分野では限られたスペースに電源を実装しなければならないため、システム電源を使用することで実装面積を削減してきた。しかし、最近ではセットサイクルの短期化でシステム化に対応できない場合や、急な機能・仕様変更によって電源を個別に構成しなければならない場合には、負荷となるLSIそれぞれに対して電源ICを近接配置するPoL(Point of Load)という概念で電源を構成することも多くなった。このようなPoL電源として最適なものが、以下に紹介する1ch高効率降圧スイッチング電源IC「BD9122GUL」である(図1)。



1.超小型パッケージ(1.1mm×2.5mm)に搭載
  BD9122GULは、携帯機器に特化するためパッケージの小型化を追求し、8ピンのチップサイズパッケージ:VCSP50L2を採用した。また、従来のスイッチング電源のコントローラだけでなく外付けに必要であったパワーMOSFETも内蔵し、外形寸法を1.1mm×2.5mm(Typ.)、高さの面でも0.55mmMax.に抑えたことにより、さまざまな携帯機器に搭載可能となっている。パッケージだけでなく、スイッチング周波数は1Mヘルツで高速動作するため、外付け部品も小型の2.2μHチップコイル、10μFセラミックコンデンサを使用することができる。

  そのためアプリケーションを含めた実装例として約4mmの範囲にすべてが実装でき、その面積でも20mm を実現できるため携帯機器の省スペースに最適である(図2)。



2.全負荷領域で高効率94%を実現
  携帯機器ではバッテリ寿命を延ばすため、負荷電流が多い動作時だけではなく、待機時の電力も含めて電力を軽減する必要があり、全負荷の領域で高効率を求められる。本ICは同期整流方式でかつ低ON抵抗のパワーMOSFETを内蔵しているため、負荷電流の多い領域で最も高効率である(94%高効率、Pchマイナス0.3Ω/Nchマイナス0.2Ωを内蔵)。

  また、負荷電流が数mAと少ない領域でも効率を維持するため、独自のSLLMTM(Simple Light Load Mode)制御を採用し、スイッチング動作を間欠的に動作させることにより、待機時においても高効率を達成している(図3)。



3.高速応答により低電圧出力でも出力電圧降下改善
  LSIの微細化にともない電源電圧が1.2Vや1.0Vに低電圧化し±5%精度(出力電圧1.2Vであれば±60mV)が求められる中、負荷電流の急変も含めた上でその精度が要求されている。本ICはその負荷急変に対応すべく、電流モードPWM制御を採用し高速応答を実現した。従来の電圧モードではその応答性の悪さから電圧降下が60mV以上あったが、本ICでは30mV(1.2V出力の場合、負荷電流変化100mA→300mA時)に抑えた(図4)。

4.その他の特徴
  入力電圧は2.5Vから5.5Vでリチウムバッテリに対応。出力電圧は可変タイプで1.0Vから2.0Vまで設定可能。出力電流は0.3A。スタンバイ機能としてシャットダウン回路電流は0μA(Typ.)になる。

  保護機能としても充実しており、異常発熱時に回路をシャットダウンさせる温度保護機能や、出力短絡や過電流からICを保護する出力短絡保護、過電流保護機能、電源起動時に突入電流を軽減するソフトスタート機能、低入力誤動作防止機能を内蔵し、さまざまな異常動作にも対応できる仕様となっている。




■パワーMOSFET内蔵スイッチング   レギュレータ電源ICシリーズ


 また、BD9122GULはスイッチング電源ICとしてシリーズ展開を行っており、出力電流を0.3Aから3Aまで、それぞれの出力電流に応じてパッケージもHSON8(2.9mm×3.0mm)、MSOP8(2.9mm×4.0mm)、VQFN020V4040(4.0mm×4.0mm)、SON008V5060(5.0mm×6.0mm)とラインアップしている(表1)。出力電圧も1Vから2.5Vまで外付け抵抗分割で設定出来る可変タイプ、インターフェイス用電源として、3.3V出力電圧固定タイプを取り揃えている。

  このBD91XXシリーズ スイッチング電源ICをPoL電源として使用すれば(図5)、5V以下の入力電源で動作させるセット内では、セット基板に使用するすべての電源を省スペースで構成できる。具体的な用途として、携帯、デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラなどのLiマイナスIonバッテリで動作する携帯機器用の電源として、またHDD、DVD、LCDマイナスTV、STBなどのASICコア、インターフェイス向けスイッチング電源ICとして最適である。
 



■終わりに

 今回紹介したパワーMOSFET内蔵スイッチング電源IC「BD91XXシリーズ」は、今後さらに要求の高まってくる様々な電子機器回路の小型化、高性能化に最適な仕様となっている。ロームでは市場ニーズにあったスイッチング電源の開発、シリーズ拡充を進め、電子機器市場の拡大に貢献していく方針である。

<ローム(株)LSI商品開発本部>