特集:電源用部品技術

超高速応答スイッチング電源コントローラIC


■超高速応答スイッチング電源コントローラICの必要性

 近年、PC用デバイス(CPU、DRAM、GPU)に代表されるようにLSIの高周波化がついにGHzを超えてきた。 それに伴い大電流化が進んでおり、PCのCPUでは100A以上の、その他デバイスにおいても10A以上の電流を消費している。 さらに、LSI内部では、低消費化を実現するために各ブロックを必要に応じON/OFFさせ、平均電流を低下させている。

 この方法は、電源にとっては非常に苦しく、つらい事態である。極端な例を挙げれば、OAからMAX電流値までバタバタとセットの動きに応じて無作為に電流が変動するのである。

 ロームでは、このように電流値が大きく急変しても出力電圧を一定に保つ、超高速応答スイッチング電源コントローラIC(H3 RegTM) を開発した(写真1)。

 このH3の意味は、高速(High Speed)、高性能(High Performance)、高効率(High Efficiency)を高い次元で共存させたことから命名されている。



■ランダムに変化する負荷変動への対応

 大電流に対して効率や発熱の面からシリーズ電源ではなく、スイッチング電源が使用されてきた。

 スイッチング電源の制御方式としては電圧モード制御(図1)があり、幅広いアプリケーションで使用されてきた。応答性を示すfT(ゲインがゼロになる周波数)は、スイッチング周波数の1/10〜1/5となる。例えば1/8に設計すればスイッチング周波数300kHzではfT=37.5kHzとなる。いかに1/8から1/5にするかが電源設計者の腕のみせどころである。

 fTを改善するため、次に登場したのが電源モード制御である。この制御では電圧フィードバックに加え、電流フィードバックを追加することで、fTをスイッチング周波数の1/5〜1/3にすることができ、電圧モードの2倍程度の応答性を実現できる。このため、電流モード制御が主流となりつつある。

 ここでポイントとなるのは、電圧モード、電流モードでは、スイッチング周波数が応答性を決定するということである。一般的にスイッチング周波数を上げると外付け部品(コイル、コンデンサ)の小型化ができ応答性も良くなる半面、周波数を上げすぎるとスイッチング損失が増加し、もう1つの重要なパラメータである効率が低下する。

 つまり、高速応答を実現するためには従来の電圧モード、電流モードではスイッチング周波数を高くする必要があり、効率を犠牲にする必要があった。 そこで周波数を高くせずに高速応答を実現するために開発したのがH3 RegTM制御方式である。



 H3 RegTM(図2)は固定の周波数生成回路がブロック内になく、出力電圧をコンパレータのみでモニターすることで、電圧が基準値よりドロップした時がスイッチングの周期の始まりとなる。よってIC内部の遅延時間のみで、すぐに入力電圧から出力へ電流を提供することができる。従来の固定周波数モードでは電圧がドロップしてから次の周期が来るまで何もできない期間が最悪値として存在し、かつアンプの特性を出力のLC補正のために外付けインピーダンス(C、R)で低下させているため、さらに反応が遅くなっていた。

 H3 RegTM制御方式は、固定周波数モードの弱点である周期と補正されたAMPのスピードの影響を受けず出力電圧を安定化できる制御方式である。こうすることでランダムに変化する負荷変動に柔軟に対応できるようになる。図3にH3 RegTMと電流モードの負荷急変の出力電圧変動を載せている。両方向のアプリケーション(出力コンデンサやコイル)を完全に同じ設定にしている。応答性の良い電流モードでも、61mV出力電圧がドロップするのに対し、H3 RegTMでは5mVに抑えられている。



さらなる高速応答のために
   もちろん、高速応答を実現するために各社独自の制御方式を開発している。その中で代表的なものがヒステリック制御方式やON TIME固定制御方式だ。両者とも固定周波数モードの弱点を改善するために開発されたもので、H3 RegTMと同様にコンパレータ方式を利用している。

 ヒステリックモードでは設定電圧の上下限を決定し、出力電圧が下限に達すると入力から電圧を供給し、上限に達するとやめるという非常に単純な制御方式である。反応速度は速いが、アプリケーションによってスイッチング周波数が大きく依存してしまうのが大きな問題となる。例えば、出力コンデンサのESRが10mΩなら500kHz、20mΩなら250kHzと素子ばらつきや基板インピーダンスで周波数が半分になってしまう。また、対ノイズに弱いという弱点も存在する。非常に敏感であるがゆえに扱うのが難しく、ノウハウが必要となる電源ICである。

 この欠点を改善したのがOn Time固定制御方式である。スイッチングのOn Timeを固定し、OFF TimeをFeed backをかけ制御し、周波数を決めるという制御である。コンパレータ動作させながらほぼ一定周波数で動作するので、安定性と高速応答を両立できる制御方式である。

 ただし弱点もあり、On Timeを固定にしているがゆえに、電圧ドロップ時に出力電圧が復帰していないにもかかわらずいったんOFFし、またON、OFFと電圧が復帰するまで繰り返すことになる(図4の波形参照)。出力電圧の低下区間が長くなるという問題が発生してしまう。

 H3RegTMはOn Time可変でありながらコンパレータ制御動作し、なおかつ安定時にはほぼ一定周波数で動作できる制御となっている。

 図4はH3RegTMとOn Time固定制御を比較したデータである。H3RegTMはOn Timeを可変にしている分、On Time固定制御よりも出力電圧の復帰が早く(On Time固定5μsに対し、H3RegTM2μs)、スイッチング回数が少ないことがわかる。

電圧が供給されるデバイスの危機的状況(電圧ドロップ区間)をすぐに脱出でき、無駄なスイッチング回数が減ることで、何度とおとずれる出力電流の変動に対して安定で高効率な電源を構成できる。





高速応答と高効率を実現するH3RegTMアプリケーション
   弊社のH3RegTMファミリーは表1のようにラインアップをとり揃えている。 また、写真2のようなアプリケーション基板も用意しており、様々なアプリケーションに対応できるよう各種保護回路や機能を取り揃えている。

 今まで出力電圧ドロップを改善するために必須であった出力コンデンサの個数増加やコイル値の減少が必要なくなり、部品点数の削減やコイル値upによるAC損失の低下による高効率化(図5参照)を実現できる。

 弊社は「小型、高効率、高速応答」というスイッチング電源に要求される3大要素を実現すべく日々開発している。

 今回は、「高効率、高速応答」に特化した大電流向けスイッチング電源コントローラH3RegTMについて紹介した。このような技術はセットの要求を聞き、次の世代に必要な電源を考えることで完成した。これからも要求に耳を傾け理想の電源作り、地球とユーザーに優しいICを作っていきたい。

<ローム(株)LSI商品開発本部>