特集:抵抗器技術

低抵抗分野の技術動向


【写真】ロームの低抵抗器シリーズラインアップ

はじめに

 近年、電子機器の高機能化による使用電流の増大にともない、電流検出用低抵抗の重要性が増している。低抵抗を使用し、オームの法則を利用する電流検出方法は原理的に極めて単純であり、カレントトランスで磁場を測定し電流を検知するといった他の方法に比べ、部品構成も単純化、省スペース化できる。

  一方、使用されるセットや環境によっては低抵抗化に加え高精度、高信頼性等の付加要求がなされている。このような電流検出用の抵抗器に求められる市場の要求事項とのまとめを行うとともに、ロームの低抵抗器シリーズのラインアップ(写真参照)と今後の開発状況について述べる。

[電流検出用抵抗器への要求事事項]

【1】制御電流の増加による高電力化要求

  検出抵抗は通常、出力電圧を検知あるいは監視するICとセットで使用される。ICが読み取る電圧の制御閾値は制御電流によらずほぼ決まっており、制御したい電流値に対し最適な抵抗値を選ぶ必要がある。

  例えば、なるべくロスを小さく抑えるには、電流ラインに配置される検出抵抗には低抵抗化が求められるが、抵抗値が小さすぎるとICが読み取る電圧も小さくなり、正確な電流検出ができなくなる。一方で、読み取る基準電圧(V)を一定として制御電流(I)に対し検出抵抗(R)を選ぶと、消費電力(P)は、P=V×I=V2/Rとなり、消費電力は電流に比例、あるいは抵抗値に反比例することになる、つまり大電流、低抵抗ほど消費電力は大きくなっていく。よって制御電流の増大化により、検出抵抗には低抵抗化に加え高電力保証が求められる(図1参照)

【2】チップの小型化、高精度化要求

  携帯機器のさらなる小型化、高機能化が止まらない。ノートPCでは小型化が進んでいるにもかかわらずデスクトップ並みの多機能、高性能を有するものもあり、高い精度での大電流電源制御を必要とする(図2参照)。一方で限られたスペースで多くの機能を付与するため、部品の小型化、集約化が進められている。部品集約の例として、電流ラインにあるチョークコイルや配線パターンそのものを低抵抗にみたて電流検出する方法があるが、抵抗値バラツキが大きくかえってICの校正に手間がかかる、あるいは抵抗温度係数が大きいCuを用いることから周囲温度により検出誤差が発生し、温度補正を行う回路をともない、かえって煩雑になる等の問題が生じている。そこで外付けの検出抵抗には高精度、大電流対応かつ省スペースが要求される。また、携帯電話やデジタルカメラ、携帯ゲーム機等においても、小型の筐体内にノートPC同様、高度な画像処理機能や通信機能が付与されつつある。これらの小型機器ではバッテリに割けるスペースも小さく、限られた電源容量で長時間の駆動を支える必要があり、効率的な電源管理が求められる。

  この電源管理にも検出抵抗が使用され、すでに一部のデジタルカメラや高機能携帯電話のバッテリ制御用に、10mΩ以下の小型超低抵抗が使用されている例もある。

【3】車載用途の拡大と高信頼性要求

  車載分野でも高度な電子化が進み、抵抗器の需要が増加し続けている。化石燃料の高騰にともなう燃費向上技術の追求により、エンジン制御や駆動制御の電子化に一層拍車がかかっている。パワーウインドウやエアコンのモーター、インバータモジュールの電流制御用に検出抵抗の使用が増加しているほか、EPS(電動パワステ)やEFI(燃料噴射電子制御)の普及と進化により、最大100Aクラスの大電流の制御が必要とされるようになった。

  これらの電装品はエンジンルーム等の車室外に置かれることも多く、電子部品は大きな温度変化や高い湿度等、過酷な環境に長時間耐える信頼性が求められる。


 

【図1】電流検出用抵抗器の選定と消費電力との関係について

[ロームの電流検出用低抵抗のラインアップと今後 の開発状況]

  ロームでは、これらの要求に応えるため、電流検出用低抵抗の開発に特に力を入れ、ラインアップの拡充を進めている。

  抵抗体に金属板を用い、1〜10mΩをラインアップするPMRシリーズ(写真)は、6432サイズ(2W保証)から1608サイズ(0.25W保証)まで計6種類の幅広いサイズを展開し、お客様の様々な要求に応えている。

  3225サイズ以上では、通常のチップ抵抗器と同様の電極構造によりフィレット形成可能であり、ハンダ接合強度の信頼性を高めるとともに、フィレット自動検査にも対応する。1W以上の比較的高い電力が要求されるLiイオンバッテリ制御(図3参照)や車載用途に使用される。

  ノートPCでは、バッテリ駆動の長時間化の観点から低消費電力化が進んでおり、電源制御ICの電圧検出精度の向上とあいまって、検出抵抗の低電力化、小型化要求が進み、3216、2012サイズの要求が高まっている。1608サイズでは従来の同サイズの汎用チップ抵抗器の2倍以上の定格電力0.25Wを保証し、高機能化する携帯電話のバッテリ制御等に使用される。

  PMRシリーズでは、超低抵抗領域特有の問題である高周波使用時の寄生インダクタンス成分を低減できるように、チップ内で平滑な電流経路を確保する独自の抵抗体構造を全サイズにわたり採用している。また本構造により通電時におけるジュール熱の局部集中も回避し、放熱性も向上する。

  さらに、PMRシリーズで培った技術を応用し、車載用途や産業機器向けの大電流検出用途をターゲットに、より信頼性を高めた長辺電極タイプの金属板超低抵抗PMLシリーズ(写真)も開発している。

  通常のPMRシリーズは、車載用途で使用されるFR4基板やアルミ基板と線膨張係数を合わせており、過酷な温度サイクルを経ても電極部におけるハンダクラックは発生しにくいが、長辺電極構造にすることでより信頼性を増すことができる。

  加えて、基板との接続面積は増加し放熱性は高まり、6432サイズで最大3W(Ta=25℃時)の保証を可能にしている。

  10mΩ以上の領域については、従来の厚膜抵抗技術を応用し、10〜100mΩまでの低抵抗領域をカバーするUCRシリーズ(写真)も2012サイズ、3216サイズで開発が完了した。抵抗体素子の材料と製造方法に独自の工夫を加え、従来の低抵抗品と比較し、定格電力および抵抗温度係数(TCR)を改善している。携帯電話の電源制御やHDD、DVD等のデジタル機器の電源に需要が見込まれる。

  さらに車載向けは、温度サイクル時の電極強度改善を目的とし、既に1Ω〜1MΩで製品化している長辺電極チップ抵抗器LTRシリーズ(5025サイズ、3216サイズ、2012サイズ)の抵抗値領域を最小10mΩまで拡大すべく開発を行っている。


 

【図2】電流検出用抵抗器の使用例1

 

【図3】電流検出用抵抗器の使用例2

最後に

  ロームは従来からチップ抵抗器のパイオニアとして、世界最大規模の生産量の維持、確保に努めており、ユーザーニーズにいち早く対応した製品開発を行ってきた。低抵抗領域については、特にここ数年間で急激に需要が増し、また、今後も引き続き需要が拡大していく分野であり、開発体制の強化および要素技術、生産技術開発のスピードアップを図っている。今後も引き続き市場の要求を的確に把握し、新商品の継続的な開発、市場投入を行い顧客の要求に応えていく方針である。

<ローム(株) R製造部>