新技術

1インチ当たり5Tbの記録密度実現するHDDの原理を確認
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(図1)デジタルユニバースでの磁気ディスク装置の役割

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と東北大学電気通信研究所は「次世代大容量省電力ストレージ技術のための革新的技術開発」の合同成果報告会を10月29日、東京の中央大学で約170人の参加者を集め開催した。これはHDD(ハードディスクドライブ)の技術の2つの国家的開発プロジェクトの各々の成果と両者の技術の融合による成果を発表するものであった。2つのプロジェクトは文部科学省の次世代IT基盤技術構築のための研究開発「高機能・超低消費電力コンピューティングのためのデバイス・システム基盤技術の研究開発」(プロジェクトリーダー:東北大学電気通信研究所 村岡裕明教授)と新エネルギー・産業技術総合開発機構の「超高密度ナノビット磁気記録技術の開発(グリーンITプロジェクト)」(プロジェクトリーダー:日立製作所研究開発本部 城石芳博主管研究長)である。

  2つのプロジェクトはHDDの研究開発の連携を図り、NEDOで取り組んできた垂直磁気記録技術と東北大学電気通信研究所が開発した磁気記録技術を組み合わせることにより、現在の約10倍の5Tb/in2が実現できることを発表した。

  デジタル情報の生成はインターネットでの画像伝送の急増に象徴されるように、年率50%程度の伸びを示している(図1)。この状況に対応するために、革新的な超高密度・省電力の記録技術が必要とされている。

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(表1)HDD記録技術

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成果報告会ではまず、NEDOプロジェクトの概要が城石プロジェクトリーダー(写真1)から報告された。このプロジェクトでは、磁気ディスクに熱と磁場を加えてデータを記録する「熱アシスト磁気記録方式(表1)」、磁気ディスクにマイクロ波を加え磁化の反転を助ける「マイクロ波アシスト記録技術」、整列させた孤立粒子に1ビットずつ記録する「ビットパターン媒体記録技術」、「再生ヘッド」、ヘッドの位置決め技術である「ナノアドレッシング技術」、「装置・システム技術」を主に研究開発を進めてきた。その結果、2.5Tb/in2の実現可能性を確認し、熱アシスト磁気記録方式とビットパターン媒体記録技術を適用して5Tb/in2の実現可能性を確認した(図2)。

  続いて文部科学省プロジェクトの概要が村岡プロジェクトリーダー(写真2)から報告された。東北大学では1977年電気通信研究所の岩崎俊一(現東北工業大学理事長、2010年日本国際賞受賞(2010年2月4日付けハイテクノロジー12面参照))、中村慶久(現岩手県立大学学長)の垂直磁気記録方式の発明に始まりHDDの高性能化の世界的に先駆的な研究を続けてきた。

  今回の報告では超高密度記録へのアプローチとして「微粒子構造記録媒体」、「ビットパターン記録媒体(図3)」、「超テラビット記録技術(シミュレーション技術、高異方性垂直パターン媒体、リード・ライトヘッド技術)」、通常は電源を落としておきアクセスを予知することによりデータを用意する「高速ストレージサブシステムのための新規省電力方式」などを開発してきた。
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(図2)アシスト+ビットパタンによる記録

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(図3)媒体における高密度化へのアプローチ


各プロジェクトの詳細技術8件報告
  2件発表の後、各プロジェクトの詳細技術に関して開発責任者から合わせて以下8件の報告が行われた。「次世代ナノパターン媒体の記録方式と評価技術」青井基(東北大)、「スピン蓄積超高感度再生ヘッドへ向けたスピントロにクス技術」山田将貴(日立)、「ナノトラック幅垂直記録素子の磁界分布と微細加工基盤技術」大沢裕一(東芝)、「高Kuを有するナノパターン媒体材料と磁化反転機構」島津武仁(東北大)、「高速ストレージサブシステムのための新規省電力方式」藤本和久(東北大)、「エネルギーアシスト磁気記録及びナノアドレッシング装置技術」宮本冶一(日立)、「ナノビット媒体微細加工技術」田中厚志(富士通)、「ナノビット磁気記録技術及び高分解能磁気ヘッド技術」喜々津哲(東芝)。
 

 <資料提供:次世代大容量省電力ストレージ技術のための革新的技術開発 報告会>