産総研

プロトン導電性セラミック燃料電池説の実用サイズ作製に成功

 産業技術総合研究所(産総研)は、NEDOの委託事業「NEDO先導研究プログラム/エネルギー・環境新技術先導研究プログラム」で、世界で初めて実用サイズのプロトン導電性セラミック燃料電池セル(PCFC)の作製に成功した。拡散焼結技術を開発し、量産可能なプロセスによって実用的な80ミリメートル角サイズのPCFCを作製。また、電解質を多層化することで電圧効率も大幅に向上。超高効率電源のコア技術を開発したことにより、再生可能エネルギーと組み合わせたバーチャル発電ネットワークや、政府の「水素基本戦略」にある水素社会向けの超高効率電源の実現が期待される。

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試作した80mm角平板プロトン導電性
セラミック燃料電池セル(PCFC)

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評価用50mm角平板PCFCの外観

[引用:産業技術総合研究所]

 今回、電解質材料としてバリウム(Ba)系のペロブスカイト材料(BaZrO3)系組成を用いた。Ba系ペロブスカイト材料の中にはCO2との反応性が高い組成の材料があるが、発電燃料の一種であるメタンなど炭化水素の改質ガス中にはCO2が含まれる。そのため、CO2との反応性が非常に低いBaZrO3系組成を選択している。実用サイズの燃料電池セルを作製するため、詳細な焼結挙動を調べて、拡散焼結という技術を開発した。これは、焼結助剤を含む燃料極支持体と薄層電解質を共焼成し、その過程で遷移金属を優先的に電解質中に完全固溶させる技術で、遷移金属は粒界偏析しない。

 通常の焼結では、1500度では50%程度の焼結率で、ほとんど焼結が進行しないが、拡散焼結法では焼結率が100%(密度99%以上)に達し、無駄な燃料消費の原因となるガスリークがない緻密な電解質層が作製できた。拡散焼結法によって、量産化が可能な押出成形法やテープ成形法での燃料極基材作製と、ディップコーティングやスクリーン印刷での成膜と焼成による電解質層や空気極層の形成により、チューブ型や平板型の各種形状の燃料電池セルが試作できるようになった。

 評価用に作製した50ミリメートル角型の平板単セルでは、定格作動電圧0.85Vにおいて、600度、700度ではそれぞれ実電流値5.3A(出力値=4.5W)、6A(同5.1W)を示した。

 これは、エネファームなどに使用できるCO2耐久性を持つPCFCとしては、実用サイズの単セルでの初の実証データである。
 700度付近で作動させる実用サイズの従来型SOFC(固体酸化物形燃料電池)の発電特性が700―750度、0.85V作動で電流密度0.2―0.3A/平方センチメートルなのに対し、今回開発したPCFC発電セルでは100度低い作動温度600度でも0.85V付近で電流密度0.3A/平方センチメートルと、SOFCより発電特性が優れていたとしている。