化学素材・材料大手

M&Aを活用し成長路線へ、自動車関連部材を強化

 化学素材・材料大手は、欧米を中心に自動車関連の部材・加工メーカーを買収している。自動車産業が新興国の需要増加や、電気自動車(EV、HV)など次世代自動車の普及拡大に伴う変革期を迎えるなか、M&Aを活用し成長路線へ乗せる戦略がある。

 自動車用材料市場は、金額ベースで年平均成長率3.3%で堅調に伸長すると見込まれている。その成長率は自動車生産台数の伸びを上回る。背景には、燃費向上に直接影響する軽量化材料や、環境対策の一環としてEV、HVなどの電動化、電装部品化に対応する新材料の需要増加がある。

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【グラフの説明】
自動車用材料の世界市場は25年に約29兆円、30年には約34兆円と予想する(富士キメラ総研)

 汎用樹脂のポリエチレン(PE)はガソリンタンクの樹脂化による軽量化、ポリプロピレン(PP)は自動車外装用鋼板材の代替需要増加が見込まれている。エンプラは130度以上の耐熱性を持つことから、機構部品や電装部品に採用され始め、ヘッドランプ、ギア、シーリング材としての需要が増加している。180度以上の高耐熱性を持つ材料も開発されており、車内の電線被覆材などに用途が拡大している。EV化による熱制御用素材の需要増加も見込まれている。

 自動車産業は今、大きな変革期を迎えており、素材・材料メーカーにとって成長路線に乗るチャンスとなっている。この機会を確実に捉えるには、従来のように要求された材料を単に提供するだけではなく、顧客の要望を事前に把握し、要求に沿った素材・材料を素早く提案することが求められている。

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【表の説明】
材料・素材メーカーによる欧米自動車用部品メーカーの買収・出資が相次いでいる

 三菱ケミカルホールディングスの越智仁社長は「構造改革はほぼ完了し、次の成長戦略を推進している。素材メーカーとして顧客とのつながりをより強くするため、M&Aを活用し、今までよりもサプライチェーンの川下へ踏み込み、より多くの情報を取り込んでいく。投資も、欧米を中心とした先端技術に重点を置いたものになる」と語る。

 また、帝人の鈴木純社長は「当社の発展戦略として軽くて強い高機能素材や、それらの複合化による自動車向け複合材料事業の拡大を挙げた。Tier1サプライヤとして、地域戦略とコストや成形性などを考慮した異素材との複合化も視野に入れたマテリアル戦略で、欧州自動車メーカーの部品供給パートナーとして拡大を図る」と語っていることから、素材・材料メーカーの買収・出資を加速させていることがうかがえる。

 三菱ケミカルホールディングスは自動車・航空機向け素材・材料をモビリティ事業として成長戦略の一つに位置付ける。キーワードは軽量化、電動化。環境対応での軽量化では、炭素繊維複合材などを中心に国内の製造設備の増強と製品の多様化を進める。欧州は量産化体制の強化と生産・販売・テクニカルサービス体制の強化、北米では現地生産化を推進する。電動化ではEV向け電線被覆機能材料、ノイズ・振動・熱対応材料、環境対応ではバイオエンプラを拡販する。

 旭化成はマテリアル領域の重点分野の一つとして自動車事業の拡大を挙げる。同社はEV用LIBセパレータではトップシェアを誇るが、領域内横断で自動車および部品メーカーとのコネクト(関係)を強化する。自動車内の快適な空間を提供する素材開発にも注力し、グローバル拠点の確立などに取り組む。25年度には売上高3千億円程度を目標とする。

 東レは19年度に売上高9千億円を目指すグリーンイノベーション事業の一環として自動車用素材を拡大する。同社の炭素繊維複合材を中心とした軽量化を重点施策とする。トータルコストの低減化も必須課題とし、熱硬化性および熱可塑性樹脂で高生産性と高性能化の両立を目指す。コンセプトカーによる技術実証も進める。
 
 帝人は昨年1月、北米最大の自動車向け複合材料メーカーであるCSPの買収を契機に、Tier1サプライヤとして複合成形材料事業を展開。今年8月のポルトガルのイナパル・プラスティコ社の買収を欧州での同事業の第1弾と位置付け、欧州の自動車メーカーへの部品供給パートナーとして拡大を図り、EV化の進展が予想される中国などへの展開を目指す。