協働激化する5G基地局市場

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ファーウェイで行われている
アンテナの品質検査の様子

 次世代移動通信方式「5G」の商用サービス開始に向け、世界で約5兆円ともいわれる5G基地局市場でベンダー間の競争が激化している。市場は中国のファーウェイ(華為技術)、スウェーデンのエリクソン、フィンランドのノキアの3社で8割のシェアを構成するが、対抗勢力となるべく、日本企業の動きも活発化。海外ベンダーとの提携で攻勢をかける。

 5Gは、現行の4G.LTEに比べ100倍高速、1千倍の大容量通信のほか、超低遅延、多数同時接続といった特徴を持つ。その特性からモバイル機器での超高精細リアルタイム映像伝送や、自動運転、建機の遠隔操作、遠隔医療など様々な分野での利活用が想定され、あらゆるものがつながる「IoT」の基盤としても期待されている。

 米国ではベライゾンが世界に先駆けて、先月から5G対応の家庭向けブロードバンドサービスを開始。19年には米国、韓国、欧州、中国の主要キャリアが5G商用サービスに乗り出し、日本でもNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクがそれぞれプレサービスを、20年の東京五輪・パラリンピック開催時には商用サービスの提供を開始する予定だ。

【ベンダーに大きな商機】

 5Gでは、従来のLTEの帯域に近い周波数帯に加え、広帯域で超高速通信に適したミリ波帯の使用が検討されている。高周波数帯を活用し高速・大容量通信を実現するためには、膨大な数の無線基地局を高密度で設置する必要がある。LTE網構築が一巡し、キャリアの設備投資抑制により業績が伸び悩んでいた通信機器ベンダーにとっては、久々に大きな商機が訪れている。

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 英調査会社IHSマークイットによると、17年時点の世界の移動通信インフラ機器市場首位はファーウェイ。低価格と機動力を武器に、新興市場を中心とした3G/4G通信網構築で急成長を遂げた同社は、早くから5G研究に着手し、同業のZTE(中興通訊)とともに、5G市場での覇権を狙う中国の政策を支えている。

 米デロイトトーマツのリポートによれば、中国では15年以降、35万の5G基地局が設立され、人口1万人当たりの基地局数は14.1局と米国の3倍に達するという。一方で中国勢の世界展開では、安全保障上の問題や米中貿易摩擦が阻害要因となりかねず、失速の懸念も生まれている。

 エリクソン、ノキアなど欧州勢は高い技術力と信頼性、エンド・ツー・エンドのソリューション展開、グローバルな営業網で老舗ならではの安定感を見せ、世界中に強力なプレゼンスを発揮している。だが今後十数年にわたり進化・発展を続けるとされる5Gでは、新興勢力の登場によって市場競争が激化する可能性がある。

 先月末、NECと韓国のサムスン電子、富士通とエリクソンがそれぞれ5G基地局開発での提携を発表した。NEC、富士通とも世界市場でのシェアはわずかだが、海外ベンダーと組むことで双方の技術力と資源を有効活用し、投資負担を軽減しながら効率的に製品・サービス開発を行うことで競争力強化を図る。

【まず日本で早期投入】

 まずは日本市場に向け、最適な5Gソリューションの早期投入を目指す。日本では5Gが地方創生を実現する手段として位置付けられており、全国的なエリア展開に向けて大規模な帯域幅が用意される。総務省が計画しているのは3.7/4.5/28GHz帯で計2.2GHz幅。現行の2倍以上の帯域幅を5Gにあてるという。

 エリクソン・ジャパンの野崎哲社長は「一つの国でこれだけの周波数が割り当てられるのは世界的にも珍しい。全国展開に向けては現行のLTEバンドを5Gに移行することも必要で、21―22年頃からその動きが出てくるのではないか」と指摘する。

 日本市場でのニーズに柔軟に対応しつつ、NEC、富士通はそれぞれパートナーとともに世界市場でも積極的に事業を展開、巨大な5Gインフラ市場に攻勢をかける。