長崎大学とテルモ

細胞シートを用いた消化器再生医療

 長崎大学とテルモは、消化管の再生医療分野において共同研究講座「消化器再生医療学講座」を開設した。講座開設のきっかけとなった「自己筋芽細胞シートを用いた消化器再生医療と腹腔鏡デリバリーデバイスの開発」は長崎大学第3期重点研究課題(17―21年度)の一つ。

画像1
※クリックで拡大

 いずれも長崎大学が特許を出願しており、今後、臨床研究への展開も視野に入れている。

十二指腸の早期がんを取り除くための治療(内視鏡的粘膜下層剥離術=ESD)の際には、腸壁に穴が開く「穿孔」という合併症を起こしやすい。十二指腸はほかの臓器と比べて腸壁が薄く、術後の穿孔は約3割で起きる。穿孔が起きれば、消化酵素を含む膵(すい)液が腹腔内に広がって腹膜炎などを発症するため、緊急手術になる場合や十二指腸を切除するなどの新たな処置が必要になり、患者の負担も大きいといわれる。

画像1
長崎大学とテルモが開発中のデリバリーデバイス

 今回、移植・消化器外科学の江口晋教授らは穿孔の予防に細胞シートを使用できるかという点に着目し、研究を始めた。現在はブタ(大型動物)を使って研究を進めている。

 ブタの脚から骨格筋を採取して骨格筋由来の筋芽細胞シートを作製。その後、ブタの十二指腸でESDを施術し、十二指腸の外側から細胞シートを貼付する。移植した場合には穿孔を生じなかった。

 細胞シートは自家細胞由来のばんそうこうのような役割を果たす。細胞シートがその組織の一部に変化するのではなく、組織に働きかける物質を出して再生を促進すると考えられ、このメカニズムと有効性は今後の共同研究で明らかにしていく予定。

 食道がんの合併症予防として細胞シートを使った臨床研究に実績のある江口教授ら移植・消化器外科と複数の講座(消化器内科・中尾一彦教授、形成外科・田中克己教授、細胞療法部・長井一浩准教授ら)が、細胞シートの再生医療製品を開発・販売するテルモと協力して臨床応用を目指す。

 共同研究を行うテルモは骨格筋由来の筋芽細胞シートを作製する技術を持ち、重症心不全患者の心筋再生手術に使われる「ハートシート」を販売している。ハートシートは保険適用されており、大阪大学医学部付属病院や東京大学医学部付属病院、東京女子医科大学病院など施設基準の届出がある全国5病院で同手術を実施可能。今回、この技術の消化器分野への応用展開を視野に入れ、新講座を支援する。

 内視鏡などを使った低侵襲治療では細胞シートを臓器まで届ける医療機器が必要となり、腹部に開けた1cmほどの穴からデバイスを入れ、十二指腸の外膜に細胞シートを貼る。江口教授らは長崎大学大学院工学研究科・山本郁夫教授と共同で、腹腔鏡での細胞シートデリバリーデバイスを開発研究している。